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3話 危険な作業の説明と内訳

 思ってもいなかった事実を知り頭が真っ白になる。

 腹も締め付けられるような感覚に襲われる。

 ヒロキもそうだし、その場に居た他の者達も同じだった。

「聞いてないぞ」

「どうなってんだ」

 そんな声があちこちから上がる。

 ヒロキも声にこそ出さないが、同じような思いだった。

 今更どうしようもないのだろうが、どうにかしてこの状態を覆せないだろうかと考えていく。

 説明担当者はそういった態度を織り込み済みなのか、落ち着いて話をしていく。

「もちろんこの業務だけというわけではありません。

 皆さんにはもう少し安全な作業場所なども考えてあります」

 言いながら更に説明を続けていく。



「まず、これは最も危険と想定している作業の映像です。

 他の業務ももちろん存在します」

 そう言って説明が続いていく。

「今回皆さんに行ってもらいたい業務は、施設内における作業が大半です」

 そう言って説明担当者は言葉を続けていく。

 主な作業は、事務や施設内の備品などの管理・運搬など。

 加工品の管理などになっていく。

 工場などでの作業などもある。

 実際に危険な外に出るものはほとんどない。

「とはいえ、全員がこれらになれるというわけでもありません。

 やはり、人数配分の関係で、どうしても屋外での作業を割り振られる場合もあります」

 そこで誰もが不安を抱いていった。

 もしかしたら自分がそうなるのではないかと。



「ただ、室内作業と外に出る危険な作業で同一の待遇というわけではありません。

 危険な作業には相応の待遇を用意しています」

 そう言ってスクリーンに新たな情報が示された。

 簡単にまとめられた作業と給与である。

「……見てもらえば分かるでしょうが、室内作業と屋外に出る作業では給与が違います」

 確かにそうだった。

 屋内作業では、月に20~30万程度の給与となっている。

 それはそれで問題のない水準である。

 だが、屋外作業はその上を行った。

「危険が伴うため、屋外における作業は月給で35万円からとなっています。

 昇給によりこれが45万円から60万円にもなります。

 だいたいこれが入社3年目から5年目あたりになります。

 さすがにこれ以上は無いですが、管理職になれば更なる昇給もあります」

 それを聞いて不満気な表情を変える者が何人か出てきた。

 危険は確かにあるだろうが、これだけの給料が出るならば……そういう顔である。

 それでも大半は、たとえ金が出るにしても、危険には見合わない……と考えてはいた。

 だが、たとえ少数であろうとも、出てくる金の大きさに考えを変えた者がいるのも確かだ。

 ヒロキも、

(これは……)

と金額を見てあれこれと考えていく。



 確かに危険は危険であろう。

 先ほどのような化け物が出てくるようなところを出歩きたくは無い。

 だが、見た限りではそれへの対策もしているようである。

 直接見てはいないが、恐らく銃で攻撃していたと思える。

 それが使えるならば、モンスターと呼ばれる相手への対処も出来るはずだった。

 それに、年齢を考えると今後の事を考えねばならない。



(これなら……)

 ヒロキの頭の中で大雑把な計算がされていく。

 今の年齢と、定年と思われる時期を考え、それまでの稼ぎを考えていく。

 募集要項などに明確な定年などは記載されてなかったが、おそらく50歳か60歳あたりになるだろうとは思っている。

 34歳の今、そこまでおおよそ20年しかない。

 それまでにある程度の貯えは作っておきたかった。

 そうなると、多少危険であっても稼ぎが良い仕事が欲しくなる。

 若い者なら20~30万円の月給でも十分だろう。

 それでも長期間仕事が出来れば、それなりの貯えを作っていける。

 そうでなくても、結婚して子供を作って家庭をはぐくんでいく事も出来るだろう。

 だが、ヒロキの場合そういった選択肢はほとんどない。

 結婚相手が今更見つかるとは思えないし、出来たとしてもこれから出来る家族を養わねばならない。

 そうなるとどうしても稼ぎが必要になる。

 だが、働ける期間はそれほど長くは無い。

 あと20年程度で、女房子供を養うだけの金を手に入れねばならない。

 となれば、普通の給料ではとてもやっていけない。

 もちろんこのまま独身という可能性もあるし、そうなる確率の方が高いだろう。

 泣けてくる話だが、そうなると老後の事も考えねばならない。

 何はともあれ、ともかく金は必要になる。

 そうなると、危険を承知で手取りの良いほうを選ばねばならなくなっていく。



(それになあ……)

 もう一つ、破れかぶれな考えもあった。

(長生きしてもなあ)

 このまま生きていてどうするのだ、という思いがあった。

 死にたいわけではないが、かといって長生きする理由も特に無い。

 先々の事に不安を抱えながら長生きするくらいなら、どこかで派手に死ぬのも悪くは無いかもしれない。

 そして、それならば出来るだけ稼いで、楽しいことをしながら生きていたかった。

 だったら、稼ぎの良い仕事も悪くは無いかもしれない……そんな考えが頭に浮かんでくる。

 だが、それだけに流されはしない。

 浮かんだ疑問を書きとめ、それから手を上げる。

「あの、質問いいですか?」



「なんでしょう?」

 説明担当者はヒロキに目をむけ、発言を促した。

 それを受けてヒロキは、思い浮かんだことを尋ねていく。

「今の映像を見てて思ったんですけど、あれって銃を使ってませんでしたか?

 もしそうなら、やはり銃などは使わせてくれるんでしょうか?

 そうしないと、あんなモンスターを相手にやっていけないと思うんですが……」

「ええ、もちろんです。

 それについての説明も後でしますが、この作業を希望される方、配属された方には銃などを支給することになります」

 それを聞いて新人達が「え、本当かよ」「すげえ……」「でも、いいの?」といった声をあげていく。

 ヒロキはそれらを無視して更に質問をしていく。

「ありがとうございます。

 それともう一つ。

 先ほど映っていたモンスターですが、あれだけなんでしょうか?

 他にも……ええっと……つまり、あれ以外のモンスターもこの世界にはいるんでしょうか?」

 その質問に、新人達は「あっ!」と思った。

 説明担当者も驚いた顔をしている。

 大半の者達にとっては盲点になっていた。

 あまりにも映像が衝撃的すぎて、その可能性についてまで考える事が出来なくなっていた。

 思考が停止してしまってるというか、衝撃が大きすぎて何も考えられなくなっていたのだ。

 説明担当者もその質問が出てきたことに驚いているくらいだ。

 まさかそこまで聞いてくる者がいるとは思わなかった、という風情である。

「そうですね……隠すことではないので申し上げますが、います。

 スクリーンに映したものいがいにもモンスターは存在します。

 あれより小型のものがほとんどで、危険さはそれほど高くはありませんが」

 それも後で説明をします、と言って説明担当者は回答を止めた。

 ヒロキとしてはそれで十分だった。

 必要な情報を得る事が出来たのだから。

「ありがとうございます。

 説明をさえぎって申し訳ありません」

「いえ、こういう質問が出るのはこちらとしてもありがたいです」

 そう言って説明担当者は笑顔を浮かべた。

 ただ、その目はかなり真剣なものになっている。

 決して悪意はないが、油断は出来ないという気持ちになっていくようだった。



 その後も作業についての説明が続き、いわゆる屋内作業と言う危険の少ないものの説明がなされていった。

 ただ、今回集められた者達が配属されるのは、新開市より離れた場所にある出張所や営業所などがほとんどになるという。

 採掘場所やその近くの初期加工をするための場所での仕事がほとんどになる。

 屋外に出るほど危険はないが、遊ぶようなところもないという。

 コンビニやファミレス、チェーン展開している定食屋や居酒屋などはあるが、言ってしまえばそれだけとも言う。

 なので、楽しみは少ないだろう、と説明されていく。

 何もそこまで言う必要もないだろう、言えば成り手が少なくなるのでは、とも思ったが、そこは正直さのあらわれなのかもしれなかった。

 あるいは、そうやってやる気をなくさせて、危険な作業に向かわせようと誘導してるのかもしれない。

 運搬などに携わる屋外作業は町と町を行き来するので、出張所や営業所に常駐しての勤務よりは遊べる所に行く機会は多いだろう。

 そういった説明もあったので、誘導と考えるのもあながち間違いではないのかもしれなかった。



 一通りの説明が終わってから、希望職種を尋ねる用紙が配られる。

 それから質問の受付になり、疑問点の解消がなされていった。

 ヒロキも先ほど聞けなかったこと、その後に思いついたことなどを聞いていく。

 それらを踏まえて、希望を出していった。

 望んだ場所にいけるかどうかは分からなかったが、それでも現段階での考えを書いて用紙を提出した。

 何はなくても一週間の基礎研修はなさねばならない。

 その後については、再度希望を聞き、実際に業務についてる者達と面談、質疑応答をしていくという。

 最終的な配属はその後に決まり、作業に応じた研修が始まっていく。

 なので、この時点における希望がそのまま通るわけではない。

 今後考えが変わるかもしれないし、希望先の部署が断る可能性だってある。

 それを見越して、まだ正式に配属先は決まらない。

 それよりもまずはこの世界に慣れるための基礎的な情報を新人はおぼえなばならなかった。



 一通りの説明が終わり、宿舎へと案内されていく。

 研修用の社員寮である建物に入ったヒロキは、ワンルームの部屋に入り息を吐いた。

 六畳程度の一室に、さして大きくも無い荷物を置く。

 そうして部屋を見渡して、あらためて自分が遠くに来たことを感じた。

「がんばらないとなあ……」

 力のない声でそう呟いた。

 本日はこんなところで終了です。

 相変わらず地味な展開になりそう。


 明日もどうにか続きを出せるようがんばってみたい。


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