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10話 道中は何事もなかったのに、どうしてこうなる

「じゃあ、行こう。

 ここからが本番だ」

「はい……」

 いつものようにトラックの列と並んで走った。

 いつものように最も近い町まで辿り着いた。

 そして、いつもと違ってここからは更に新開市から遠く離れた場所へと向かっていく。

「ま、そう難しく考え無くても大丈夫だ。

 このあたりならそんなに危険なのも出てこない」

「あんまり見なくはなりましたね」

「たまにですよ、最近は」

 北川達慣れてる者達は気楽な調子である。

 おそらくそれほど大変というわけでもないのだろう。

 だが、それでもヒロキは緊張が抜けないでいる。

 勝手の分からない場所というのは怖い。

 やり方が分からない、どうすれば良いのか分からないからだ。

 それがヒロキを緊張させている。

(危ない事が起こりませんように……)

 そんな風に祈ってしまう。

 どうせ行かねばならないのは確定なのだから、せめて問題がおこらないようにと。

 しかし、そう上手くはいかないだろうというのも分かっている。

 安全ならば護衛など必要ないのだから。



 それでも走り出してしばらくはそれほど危険というわけでもなかった。

 当たり前ではある。

 出発直後に襲われるほどの危険地帯というわけではないのだから。

 しかし、進めば進むほど危険が高まっていく。

 次の町まで80キロという距離も危険を感じさせた。

 離れてるということは、途中で何かあった場合に逃げ込めなくなる。

 危険地帯を進むにあたり、これが一番怖いものだった。

 この辺りに出没するのは、まだ人間が用いる歩兵銃で対処可能なものばかりとはいえ、不安は拭えない。

 何より怖いのは、これから向かうのが山地である事だった。



 向かうのは、新開市からもっとも近くにある採掘現場。

 露天掘りで採掘をしているのだが、そこに必要な物資を持ち込み、帰りは採掘したものを持ってくる。

 その途中はどうしても道が細くなったり、周囲の見通しが悪くなる。

 窪地になっていて襲撃を受けたらひとたまりもない場所もある。

 そういう所を進んでいかねばならないので、必然的に危険は大きくなる。

 周辺のモンスターは毎日のように倒しに行ってるのだが、それでも輸送路まで出て来る場合もある。

 どうしても不利な条件に陥る可能性が高かった。

 道路は可能な限り危険の少ない場所を選んで作られている。

 というか、そういう場所でないと作業が出来なかったので、結果として比較的安全な場所を通っている。

 その為、かなりの遠回りになってもいる。

 それでも、危険な襲撃を受ける可能性のある場所が発生してしまている。

 ヒロキ達が向かおうとしてるのはそういう場所だった。



「何も出なければいいんですけど」

「そうなんだけどなあ」

「この辺りは化け物もいっぱいいるかねえ」

「面倒な所で出ないようお願いした方がいいかも」

 どうせ出てくるならその方が良い、という実に消極的な願望だった。

 しかし、この場所においてはこれで十分幸運と言えるものでもあった。



 幸い、ヒロキ達が目的地に到着するまでは何事もなく進む事が出来た。

 時間はかかったが確かに目的地まで進む事は出来た。

 なのだが、問題はそこからだった。

 持ってきた荷物をおろし、既に荷造りの終わったトラックを護衛して帰るだけ。

 そのはずだったが、出発は中止。

 護衛部隊は現地の守備隊に呼ばれる事となる。



「モンスターがこちらに接近している」

 その言葉に、広間に集まったヒロキ達が顔を強ばらせていく。

「本社から連絡があった。

 衛星からの偵察で何かが近づいてると。

 ヘリを飛ばしてみたら、実際にモンスターの群れがいた」

 慣れてるのか、そんな話を聞いても騒ぎ出す者はいない。

 だが、無駄話もなく緊張感が静かに高まっていく。

「このままだと、おそらく二時間ほどでこちらに到着する。

 撃退出来ないほどではないが、守備隊だけでは手間がかかる。

 そこで、運搬の護衛にも協力をしてもらう。

 既にこれは本社の了承を得ている。

 トラックの出発は明日になっても良いとの事だ」

 それが出発を止められた理由だった。

 運良くやってきた輸送護衛のヒロキ達を戦力に組み込もうという事である。



 ヒロキ達からすれば、冗談ではないという話である。

 採掘現場まで二時間で到着という事は、すぐに出発すればモンスターに巻き込まれる事は無いのだ。

 戦闘に巻き込まれる前にさっさと逃げ出したい、というのが運搬部の本音である。

 実際、物資の持ち出しが遅れると他への影響もある。

 物資が到着しなく何も作れないという事もあるのだ。

 また、遅れた分は今後の作業にも影響する。

 滞った分は今後の作業を早める事で解消しようとする。

 そのしわ寄せをヒロキ達も受ける事になる。

 会社としてもこれは痛手になる。

 作業の遅れはそれだけで損失になっていく。

 それでも本社がモンスターの撃退を優先したのだからどうしようもないが、ヒロキを含めた運搬部としては不満であった。

 だが、かといってこの判断が間違いかというとそうとは言えない。



 投入できる兵力が多ければ、それだけ敵を撃破しやすくなる。

 短時間で敵を減らせれば、その分受ける損害も減る。

 今回、運搬部の護衛部隊が採掘現場の守備隊に加われば、簡単にモンスターを撃退できるだろう。

 そうなれば、採掘現場を無傷で保つ可能性が高まる。

 運搬が遅れる事も大きな損害だが、採掘現場が潰れるのも損害だ。

 そこで働く者に死傷者が出たら、その穴埋めも難しくなる。

 そうなるくらいならば、物資を得るのを後回しにしてでも、迫ってくるモンスターの撃退に集中した方が良いとも言える。

 今回、会社は採掘現場の守備を優先した。

 物資運搬の遅れよりも、施設破壊の方が損害が大きいと考えてのものだ。

 そんな事は末端のヒロキ達が知るよしもないが、これはこれで理にかなったところはある。

 とはいって、仕事を増やされたヒロキ達はたまったものではなかった。



「これも仕事のうちって事なんでしょうけど……」

 不承不承といった調子でため息を吐く。

 やらねばならないし、採掘現場の者達を見捨てるのもしのびない。

 なのでヒロキとしてはこれも仕方ないと納得はしている。

 だとしても、やはり不満や不安は出て来るし、それを消すことも出来ない。

 それは他の者達も同じである。

「まあ、ぼやいても始まらん。

 俺達は割り当てられた仕事をこなそう」

「楽な所だといいんだけどなあ」

「運次第だな」

 楽天的な事など何一つ考えられないまま、ヒロキ達は次の指示を待った。

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続編はこちら。
『異世界開拓記 ~トンネルの先は異世界だった~』
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