英語のグループ活動
ほんの少しだけ、和花からの誘いを断らなかったことを後悔した。
「あの、2人とも……そろそろ始めない?」
和花が、困ったような表情で言った。
「コイツと一緒なんて嫌よ」
僕だって嫌さ
まさか、“りっちゃん”が須藤のことだったなんて。
フルネームは、須藤 梨沙と言うらしい。
なるほど。それで“りっちゃん”か。
目の前にいる須藤にずっと睨まれているが、僕は真顔で見つめ返す。
「須藤さんたちのグループは、もうテーマ決めた?」
英語の先生が、僕たちに近づいて来た。
「先生、メンバーを変えたいんですけど!」
僕を睨んだまま、須藤は先生に言った。
「変えたい? どうして?」
「だって、こんな――」
「何でも無いです、先生!」
和花が、須藤の言葉をさえぎった。
「ちょっと、その……いろいろあって。三人でやるので、大丈夫です」
にっこり笑った。
可愛い笑顔だと思ったなんて、内緒だ。
「そう? あなたがそう言うなら……二人とも、ちゃんと協力し合いなさいよ?」
呆れたような目で言われた。
先生が立ち去ると、須藤はため息をついた。
「ホントお人好しなんだからさー……コイツなんか一人でやらせればいいじゃん」
「えー……でも、それじゃあ可哀想だよ」
“可哀想だよ”
それは同情の言葉。
和花に悪気はないのだろうけど、なぜだろう。何か切なさのようなものを感じる。
今まで話しかけてくれたのは、全て同情からだったのだろうか。
そう思うと、無性に悔しくて、悲しくて……
でも、そうだよなぁ
和花が、こんなにも僕のことを気にかけてくれたこと自体奇跡だ。
僕なんかより、稜介の方がフレンドリーで元気で明るいし。それにカッコいい。男の僕から見てもカッコいいと思う。
好意を向けるなら、やっぱり稜介みたいな人気者というか、もっと接しやすい人というか……とにかく、僕みたいな人ではないだろう。
一人で勝手に和花との距離が縮んだかも、なんて思って浮かれて、その次は勝手に落ちこんで。
何だか僕は、何ヶ月か前に和花が話してくれた、ある恋愛ドラマのヒロインみたいだ。女子高生が、学校の先輩に恋したとかいう話だったかな。
自分が女々しいみたいで、さらに悲しくなる。
「――ちょっと、聞いてんの?」
須藤の怒りを含めた声で、我に返る。
「協力する気ないでしょ、あんた。ただのお荷物じゃん。絶対うちら二人でやった方がスムーズにできるよ、和花!」
逆に僕は、須藤がいない方がスムーズにできると思うんだけど
「そんなこと言われても……」
和花は完全に困ってしまっている。
考え事なんてしていた僕が悪いよな
少しだけ、和花に悪かったなと思いながら、僕は先生に配られたプリントに目を通す。
「あっ。ほら、和希もやる気出したよ」
「今更かよ……」
須藤が、不満そうな顔でブツブツと言っているが、和花がいつもの花のような笑顔を見せてくれたので、気にしなかった。
……そうだよな
和花が僕のことを気にかけてくれるのが同情からだとしても、彼女が笑顔を見せてくれるのなら、僕の好きな笑顔を見られるのなら、それでもいいと思った。
それに、全く話しかけられないよりは断然マシだ。
こんな風に、ポジティブに考えられるようになったのでだって、和花に出会ってからだ。
和花がいなかったらきっと、少し前みたいにどうせ自分なんて、と開き直っていたと思う。
和花の横顔を盗み見て、僕は誰にも気づかれないようにため息をついた。
脈なし、かー……
同情からの優しさなら、僕と和花は結ばれないだろう。
はじめから、希望があったとは思っていない。
和花は、高望みし過ぎたのか。
はにかんだような可愛らしい笑顔で、男子の間では人気が高い。
これからは、遠くからこっそりと想うことにしよう。
僕は、プリントを指差して楽しそうに須藤と話している和花を見て、小さく微笑んだ。