事件の予感
「純真先輩、ところで、革命って言っても、具体的に何するんですか?」
次の日の放課後、純真(そう呼べと言われた)と、壮吾(前に同じ)の3人で殆どの生徒が帰ってしまい、寂寥を感じる校舎の屋上で輪になって、話し合いをしていた。と言っても、実際、そこまで大層なものでも無く、全く知らない人が見れば、ただお菓子を広げつつ、コーヒーやら、アイスティーやらを片手に、暇な放課後を潰してる、というようにしか見えない、雰囲気だ。話の内容を聞かなければ、だけど。
「琉皇、とりあえず西宮昂征について教えてくれ」
この学校では、呼び捨てにするのも恐ろしいと名高い、生徒会長様を、平然と呼び捨てで呼ぶ時点で、大分やばい。
更に、調べても出てこないんだよなー、試しに、西宮財閥のセキュリティー硬くて入れないし。と言う純真の悔しそうな顔と、壮吾の、純真先輩が入れないって、向こうも中々侮れないですね。と言う会話に、何をしているのか本気で恐くなった。頼むから、犯罪行為には巻き込むなよ、と内心懇願する。
「俺が知ってることなんか殆ど知ってるんじゃないのか?」
「ん? まぁな」
聞いておきながら、あっさりと認めた純真に、俺はもう、隠すこともせず、半目になる。
「それなら聞くなよ」
「いや、僕だって知りたいところはたくさんあるよ。例えば、君の中学の時のこととか、さ?」
その途端、俺の心臓が、どきりと音を立てて、早く鳴り出した。俺は、慌てて平静を保ちながら、澄ました顔を作る。
「それだって、細かく調べてるんだろ?」
「そりゃ、純真先輩なんだから調べてますけど、やっぱり当事者の話を聞きたいんですよ。特に、こういう事は」
壮吾が、横から口を挟む。純真は、ニヤリと笑った。
「さぁ、琉皇? 答えてくれるよね?」
背筋に冷たいものが走る。再び大きな鼓動を打つ心臓。
「お、俺は、、、、、、」
何か言おうと声を絞り出したその時。
ガッシャーーン!!!!
突然すごい音がして、屋上のドアが開けられた。しかし、すぐに何か女子特有の甲高い声で何かを叫ぶと、数人の高笑いとともに、ドアが閉められ、カチャンと鍵をかけるような音があたりに響いた。突然のことに驚き、動けない俺たちだったが、すぐに、純真にジロリと睨まれた壮吾が、恐る恐るドアの方へ確認に行く。
「これは、何だか事件の匂いがするねぇ」
先程とは、コロリと表情を変えて、嬉しそうな純真に心底呆れる。
そんな俺を見て、更に笑みを深めた純真に、とうとう耐え切れなくなって、口を開こうとした時、壮吾が戻ってきた。
「壮吾、どうだったんだ?」
純真が、期待に目を光らせながら尋ねると、壮吾は、眉を顰めて、後ろに視線をやった。それにつられて、壮吾の後ろを見ると、そこには見知った顔があった。
「、、、、、、火野」
「琉皇先輩、、、」
肩にかかる三つ編みに、第1ボタンまで止められたカッターシャツとネクタイ、校則通りの長いスカートの彼女は、火野雫。俺の中学時代からの後輩だった。
「、、、、、、またか?」
俺の問いに、申し訳なさそうに頷く火野。
別に火野が悪い訳ではないのだが、火野は昔からこういう奴だ。
「ちょっと! 2人で勝手に解決しないでよ」
「そうっすよ、俺らだって知りたいっす!」
純真と壮吾が喚く。小学生か、こいつらは。
俺は、未だに縮こまっている火野に向き直る。この事を話すのは、本人の許可が必要だろう。
「火野。こいつらに話してもいいか?」
火野は、しばらく考えた後、小さく頷いた。
「迷惑を掛けたのは此方ですから」
真面目な奴だ。
俺は、応える代わりに、火野の肩を軽くポンと叩くと、目を輝かせる純真と壮吾に向き直った。
「言っとくけど、そんな気持ちのいい話じゃないぞ」
「何言ってんだよ、それを琉皇の話術で面白おかしく話すんだろ」
「はぁ?! 」
「まぁ、とにかく早く話してよ」
こいつの自分勝手さには、ほとほと呆れる。
そう思いながら、俺は、説明を始めた。
そう、それは俺が高2になってすぐの4月の出来事だった、、、。