革命
俺はあの後、生徒会室を出て、1人正門に向かって歩いていた。生徒会室に向かっていた時は真上にいた太陽が、すでに傾いている。知らない内に、かなり時間が経過していたようだ。
門が開いていないことに気付いた俺は、すぐ側の守衛室に門を開けてもらうよう声をかけようとした。しかし、その前に門の向こう側にあまり会いたくない人物を見つけてしまい、足を止める。向こうも気付いたのか、近づいて来た。
「、、、、、、やぁ」
短く声を掛けてきた人物、基、岡水に俺はとりあえず、門を開けてもらい、外へ出た。
「岡水、どうしたんだ? みんなと一緒じゃなかったのか?」
「用事ができたって言って抜けて来たんだよ」
俺はその言葉に眉を顰めた。そうまでして、わざわざ戻ってきた意味が分からない。
そんな俺の様子に、岡水は鞄から数枚のプリントを取り出しながら、しゃべりだした。
「学校だと君、逃げちゃうから、こうでもしないとね。、、、間波学園中等部元生徒会長、月城琉皇君?」
その瞬間、俺の中の何かが音を立てた。気付けば俺は、岡水の胸倉を掴み、睨み付けていたようで、目の前に岡水の整った顔がどアップで映っている。
「、、、、、、何処でその情報を手に入れた?」
自分でも驚くほどに低い声を出していた。しかし、自分でも止められない。それ程までに、あの頃の事は自分の中で大きな事だったのだ。俺はそのまま岡水を責めるように、言葉を繋ぐ。
「お前は何処でそれを知った? 誰かに聞いたのか? それを知ってどうしたい? 俺を脅すのか? それとも、あの頃と同じ様に言いふらすか?」
「、、、、、、落ち着け」
岡水の冷静な態度に、はっと我に返る。慌てて岡水の胸倉を掴んだ手を離し、そのまま立ち去ろうと岡水の横をすり抜けようとした、が、今度は俺の腕が岡水に捕まった。
「な、何すんだ。放せよ」
俺が必死でもがいても、岡水は何でもないように、俺の腕を掴んだままでいる。
「僕は別に、君を陥れようと情報を集めたわけじゃない。ただ、脅す、というのは正解だ。僕は今の、抜け殻のような君を見ていて思った。僕と同じだ、って。僕はただ君と一緒に生徒会を、西宮を、潰したい。そう思ってるだけだ」
真っ直ぐな、あの目に。見透かされる、恐怖と同時に心が落ち着いてくるのを感じた。俺は数回大きく深呼吸すると、岡水の目を見つめ返す。
「、、、、、、1つ、いいか?」
岡水も俺が落ち着いた事を感じたのか、手を離した。
「何?」
「お前、初めに言ったよな? つまらない奴と関わる気はない、って。じゃぁ、何故俺と関わろうとするんだ?」
岡水は、数秒俺の顔を見た後、急に声を出して笑った。それはもう豪快に、こちらが引くレベルで。
俺が何とか声を掛けようと口を開くと、ようやく落ち着いたのか目尻に浮かんだ涙を指で軽く拭った。
「いやー、笑った笑った。やっぱり面白いよ、君は。何にも期待していない、冷めた目をするかと思えば、怯えた、草食動物のような、目をする時もあるし、君は、いつも偽りの仮面をしているのに、周りの本心を、良く見ている。怖いのに、怖くない振り。見せないくせに、見る。人間らしい、矛盾と、嘘で出来ている。僕はいつか、本当の君を見たい。そう思ったから、僕は、君に興味を持った」
岡水はそこで一度言葉を置いて、もう一度改めて俺を真っ直ぐに見つめて、ふわり、と微笑んで、手を差し出した。
「僕とこの学校に革命を起こさないか?」
俺は、少し戸惑った後、そっと、でも、しっかりとその手を取った。
「、、、、、、よろしく」
「よろしく、月城、いや、、、琉皇」
岡水の言葉に俺の心はざわりと音を立てた気がした。