生徒会室
放課後。
俺は、生徒会室の扉をぼんやりと眺めながら、いけないと思いながらも、アイツの笑顔を思い浮かべてしまう。あの、獲物を狙う肉食獣の様な目を、歪んだ口元を。軽く吐き気がこみ上げてくるのを必死で飲み込み、慌てて頭を振り消し去る。そして、数回深呼吸をして、扉を数回ノックする。
「、、、2年B組の月城です」
「どうぞ」
「失礼します」
意を決してドアを開けると、目の前に、大きな机と高そうな椅子が設置されており、そこには生徒会長、西宮昂征が笑みを浮かべて座っていた。
思わず立ち止まり、生唾を飲み込む。暑いわけでもないのに、汗が背中をすっと滑る。
そんな俺の様子を面白そうに見つめ、西宮は立ち上がった。
「さぁ、そんなところにいつまでも立ってないで、こっちに来てよ、月城君」
西宮の言葉にはっと我に返り、扉を閉めると中へ進む。二歩、三歩、とゆっくり進み、西宮の前に立つ。
「、、、何か用でしょうか? 会長」
「やだなぁ、そんなあからさまに拒絶しないでよ。昔みたいに、ゆき、って呼んで。りーお?」
耳元で囁かれた名前に、過去の記憶が溢れ出す。記憶の波に、呑まれる。駄目だ、ここで動揺すれば、コイツの思う壺だ。歯を食い縛る。拳を握り、しっかりと西宮の目を見て、口を開く。
「、、、昔の事を持ち出さないでください。用がないなら帰ります」
そのまま踵を返し、ドアへ向かおうとすると、肩を掴まれた。そのまま、勢いよく引かれ、再び西宮と向き合う。先程よりも近い距離に心臓が再び大きな鼓動を始めた。
「待ってよ、月城君。今日は君のクラスの転入生のことを聞きたかったんだよ。どうなんだい? 元出来すぎ君の君から見て彼は」
ちょくちょく入る嫌味がムカつく。でも、ここで反応するとますますコイツを喜ばせるだけだ。だから、いつも、俺は無心を心掛けている。もう2度と傷付かないように。
「、、、、、、彼の事は俺にはよく分かりません。知りたければ本人に直接どうぞ」
ここで一旦言葉を切って、俺は続けた。
「俺はもう、あの頃の俺じゃない。あの頃の俺はもう死んだ。俺は、お前に殺されたんだ」
俺は最後にそう吐き捨てて、生徒会室を出た。
生徒会室では、西宮が1人、くくくっと声を上げて笑っていた。
「あぁ、やっぱり君は飽きないよ、りお。壊したくて、たまらなくなる」