ExtraⅤ.椿と篤佐
一介の女子生徒である椿と教師である篤佐。
何故篤佐が椿の弁当のおかずだけを取っていき彼女に怒られるまでになったのか。
椿の入学当初、つまり一年前のことだが、篤佐はまだまだ新任といえる頃で、それでも生徒に慕われているのは、教育実習も同じように幣光坂高校だったからだ。
さらには出身校でもあるために色々な話を出来るというアドバンテージもあった。
そして見た目も良い篤佐は女子生徒から特に慕われる。
彼の授業のあとは、質問と称して彼と話したい女子が今でも集まるし、廊下を歩いていれば女子から声をかけられる。
ノリが軽いため、男子とも仲が良い。
そんな篤佐だが、一年の頃から教わっている椿は、彼を見ていてあることに気づいた。
彼は絶対に自分から女子に話しかけようとはしない。
特に、自分に異性的な興味を向けてくる女子には顕著だ。
椿は彼に興味もなく、授業を理解することは出来るため質問に行くこともない。
だからどうでもいいかと気にしないことにした。
一年生の冬には既に図書室の常連だった椿は、その日も図書室を訪れていた。
「テスト前も読書なんて余裕だな優等生」
「え?」
小説本から顔を上げると、机の向こう側に篤佐がいた。
「…礼原先生何してるんですか」
「自分が担当してるクラスの生徒が、余裕そうに本読んでたから声かけただけ。んな嫌そうな顔すんなよ」
「はぁ」
生返事を返して、椿は読書に戻る。
「……」
「まだ何か?テスト勉強ならやってますから」
「あー…そう、か。それならいい」
その時の篤佐は何かを諦めたように立ち去った。
しかし、その後から彼はやたらと椿に構うようになった。
廊下ですれ違うと一言二言声をかけ、昼休みには弁当を覗き込んでおかずを一口摘んだりと、向こうから関わりを求めているかのような素振りをしているのだ。
自分から女子生徒と接することのない篤佐が何故自分に構うのか、椿は未だに分からない。
分からないが、おまじないを実行して本当に死んでしまったら、教師である彼には面倒をかけるのだろうと、杏子の家に向かっていた椿はほんの少しだけ、申し訳なく思った。