ExtraⅣ.杏子と志苑
杏子と志苑が出会ったのは中学に入学したすぐあとのこと。
明るくお調子者な志苑はすぐ人気者になり、一年の後半には告白もされるようになったが、意外にも付き合うということはしていなかった。
それでもノリが軽い志苑なら、と告白する女子は多かった。
そんな中で彼に一切興味を示さなかった少数派の女子の一人が杏子だった。
友人が熱心に志苑の話をしていたため、名前を知らないわけではなかったが。
二人が何故同じ高校に行き、名前で呼び合うまでになったのか。
それは、クラス替えがあった二年生の春のこと。
「今日、服装頭髪検査するからなー」
「えぇ~、聞いてないよー!」
お世辞にも服装が模範的ではなかった志苑は、制服であるブレザーのネクタイもまともにつけていなかった。
「ネクタイ出来ないのにー!」
「あはは、志苑君可愛い~」
「ちゃんとネクタイしなよー」
「……ホントなんだけどな」
「義賀、ネクタイ持ってないの?」
「え、あ、持ってるよー、でもさー」
「なら貸して。指導入るとうるさいよ」
「えーと…」
「自己紹介、自分のを考えるのに手一杯で実は聞いてなかったんでしょ。古金杏子。ほら、そんなのどうでもいいからネクタイ」
「あ、ハイ」
「…うわ、皺くちゃ。とりあえず伸ばして…」
手早く皺伸ばしから志苑の首筋にネクタイを巻くまでの過程を済ませていく。
「…慣れてるね」
「一年の時、相当練習したから。これでよし」
「うわ、綺麗に出来てるー!ボクのネクタイじゃないみたーい!ありがとね!」
襟元を見て、はしゃぎ出す志苑。
そんなことがあってから、彼はよく杏子の元を訪れるようになった。
自分にそこまでの恋愛的興味がなかった女子というのは志苑にしては珍しかったし、それでも近づいていけば無視をすることなく構ってくれる杏子のことを志苑は気に入っていた。
だから、運動部に所属していてもバランスの良い成績だった杏子と、興味によって成績にムラがあった志苑は、始め、成績に合わせて別な高校を目指していたのだが、志苑が杏子と同じ高校に行きたいと言い出し、猛勉強を始めたのだ。
その甲斐あって、今までの付き合いに至る。
「今日お泊まり会するんでしょ~?いーなー、ボクも泊まりたい」
「どこで聞いたの…ってかアンタ男でしょ。女子の家に泊まりたがるな」
「えぇ~、じゃ、今度ボクの家に泊まりにくる?」
「…私の話聞いてた?」
部屋の片付けをしてしまいたいので早く帰りたいのに、と杏子は眉間に皺を寄せる。
結局、家に帰ることが出来たのは、友人たちが来る、僅か30分前のことだった。