ExtraⅢ.葵と澄央
葵と澄央は、親が共働きで家にいない時に通う児童クラブで出会ったが、その頃から、今のような関係だった。
彼は昔から、何かトラブルがあって「自分が悪い」と分かっていると、その分だけ強く責任転嫁して、逃避する癖があった。
だから、ずっと仲のいい友達はおろか、何かあっても彼の味方になる子供はほとんどいなかった。
そんな中、児童クラブの子供たちの中でも世話焼きで落ち着いた子供だった葵は喧嘩の仲裁に入ることも多く、澄央の話もきちんと聞いていた。
その上でどちらが悪いかを判断し、彼が悪ければ謝るよう諭していたし、原因が本当に相手にある時は相手に対して謝るよう説得をしていた。
だからこそ葵は、澄央の癖については割と早くから気づいていたが、その根底にあるものに気づけるようになったのは少し成長した小学生の頃だった。
きっかけは、些細なことで葵と口論になった澄央がまくし立てるような早口で言った暴言。
「葵は…いっつもそうだっ!大人やみんなに褒められたいからって、俺に優しくしていい子ぶって…ホントは、俺のことなんて嫌いなくせに!何でも人のせいにする悪い奴だって思ってるくせに!俺が悪い子で、優しくされたらダメなのは、俺が一番分かってるんだっ!!」
葵はいい子で、自分は悪い子。
だから自分に優しくするのは葵がいい子のままでいたいからで、本当は自分のことなんて嫌いなんじゃないか。
自業自得とはいえ、逃避癖のせいでどんなに嫌な目に合おうと動じなかった澄央は、絶対的な味方だった葵と喧嘩したことで感情のコントロールが出来なくなったのか、初めて泣きじゃくった。
「…あのねぇ…私、嫌いな人とここまで一緒にいたりしないよ」
そう言うと葵は泣きじゃくったままの澄央を抱きしめ、背中を撫で始めた。
「ゴメン、澄央…私、わかってなかった。澄央は、悪いことしてる、ってことが苦しくて、逃げちゃってたんだね。それに、私が澄央のこと嫌いなわけないよ」
「……嘘だ。だって、俺、葵に迷惑しか、かけてない…」
「本当だよ。信じて」
「……うん…」
「澄央が優しくされたらダメだなんてどうして思うの?」
「俺、ヤな奴だから。弱いから…」
「じゃあ、私は澄央が嫌だって言っても優しくする。私が勝手にしてることなんだって思えばいいから」
それからというもの、思春期真っ只中の中学生になってもずっと二人は一緒にいた。
そして、高校生になった今、澄央は葵には嘘を吐かずに何があったかを全部話す。
自分だけではコントロール出来ない、責任転嫁の逃避癖を少しでも直すためだ。
「…あー、そういえばおまじないで死んだらアイツの癖、完治出来る人いなくなんのかなー」
杏子の家に向かいながら、葵はネガティブで危うい彼のことを思い浮かべていた。