Trip22
週末。
志苑と約束した場所に杏子が時間より少し早めに到着すると、彼はすでにそこで待っていた。
「おはよ。早いね」
「おっはよー、杏子ちゃん。わ、私服も可愛いー!」
「お世辞はいいから。で、遊ぶって言ってもどこ行きたいの?」
「その辺ブラブラしたいだけ~、ほら、行こう?」
志苑は杏子の手を取ると、ゆっくりと歩き出した。
途中途中で、"これ杏子ちゃんに似合いそう"と言ったり、ポスターに載った美少女アイドルを見て”杏子ちゃんの方が可愛いよね”と言ったり、一緒に歩く杏子の方が恥ずかしくなるほどのセリフをさらっと言って歩く志苑は、幸せそうだった。
「そろそろちょこっと休もっか。結構歩いたしね」
「そうだね」
公園のベンチに座り、遊具で遊んでいる子供たちを二人で眺める。
「杏子ちゃんは、子供の頃どんな遊具が好きだった?」
「私?私は…ブランコかな。よく立ち乗りしてた」
「そっか」
「志苑は?」
「ボクは…ごめん、話振っといてなんだけど、あんまり公園とかで遊ばなかったんだ」
「え、そうなの?」
「お母さんがちょっと過保護で…外に行くことってなかったんだよね」
「へぇー。アンタのことだから自由に外で遊びまわってたんだと思ってた」
「ううん。今日だってどこに行くんだとか聞かれたし」
「男の子の親にしては珍しいね」
「んー…そうなのかも」
「ところで、さ」
「うん?」
「志苑は、何で私のことを好きだって言ってくれるの?私、そこまで好かれるような人間じゃないと思うんだけど…」
「……知りたい?」
「う、うん。教えてくれるなら知りたいけど」
「隠すことでもないし、いいよ。少し長くなるけど、良い?」
「私が聞いたことだし、大丈夫」
「あのね―」
志苑が杏子を知ったのは、入学式の日。
杏子はあまり覚えていなかったが、面識を持ったのは入学式の日。
事前にクラス分けの確認をせずにいた志苑が、クラス表が見つからずに慌てていた時だ。
事前に見に来ていて、入学式当日にクラス表が貼ってある場所を知っていた杏子は、志苑に声をかけ、クラス確認を手伝った。
志苑の方は最初は聞きそびれて杏子の名前を知らなかったが、入学式の点呼でしっかり名前を聞いていたのだ。
正直な話が、志苑は杏子に一目惚れしていたのだ。
外見がどうのではなく、見ず知らずの人間に手を貸せる性格に。
次にまともに会話をすることとなる、服装検査前にネクタイを直してもらった時には、本当は杏子の名前を知っていたが、中学生ならではの”気持ち悪がられたら”という気持ちもあって、内心では"杏子ちゃん"と今のように呼んでいたのに知らないふりをしていた。
正確には、なんと呼べばいいか困ってしまったのだが。
「その時からかな。一緒にいるのはこの子じゃないと嫌だなって思うようになったのは…」
「…えと、何というか…随分、一途だね」
「んー…一途っていうか、一直線なんだと思う。何度も何度も女の子に告白されたけど、この子が杏子ちゃんだったらな、って思いながら断るんだ。代わりにするのは、可哀想だしね」
「…自分で言うのもアレだけど、私そこまで性格良いわけじゃないよ?志苑を手伝ったのだってたまたま目に付いたからだし」
「目に付いた困った人を助けられる人って、なかなかいないと思うよ。現に、ボクに声かけてくれたのは杏子ちゃんだけだった。だから、ボクは杏子ちゃんが好きなんだ」
「……」
「ね、分かってくれた?」
そう言って笑う志苑。
杏子にはそれがふざけているようにも見えず、かといって彼が何を考えているかも分からずに閉口するしかなかった。
そんな杏子を見た志苑は手を差し出すと「じゃ、行こっか」とだけ言って微笑んだ。
私事ではありますが、投稿日の今日、12月25日、私の誕生日なんですよ。
喪女なのにこんなほぼリア充の小説を投稿してしまっていいのか。
いや、自分の子たちの幸せだからいいんです…!
自分の分まで幸せであれば…!




