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Trip.19


「…アオイ…」

悲壮な表情を浮かべたスオウが、ベッドに横たわるアオイの手を握り締めている。


アオイの魔力の暴走は、ピークに達していた。

遠くなる意識を保つので精一杯だ。


「スオウ…、だい、じょぶ、だから…」

「俺、何か出来ない…?」

「心配、しなくて、いいんだよ…?」


それよりも、伝えなければならないことがあるのに、口が回らない。


葵の時に一度言ってしまったからこそ、アオイとしてスオウに言わなければならないのに。


もうすぐ、自分の成長は止まってしまうから、普通の人間であるスオウはいつまでも一緒にはいられない。


それだけのことが、口から出ない。


アオイ自身が独りになりたくないという理由もあったのかもしれないが、今は単純に意識が朦朧として、心配するスオウを宥める言葉を告げるだけで精一杯だった。


「でも…」

「少し、眠いだけ…一時的な、ものだから…ね」

「…一時的って、いつまで…?」

「…きっ、と…あと…」

誕生日のことを、言えたのか言えなかったのか、アオイには分からない。

呂律が上手く回らなくなってきたのだ。


「あと?あとどれくらい?」

パニックになりかけているスオウはアオイの誕生日のことをすっかり忘れてしまっていた。

むしろ、少し冷静になって思い出せば、誕生日が来て魔力が安定すればこうなることはないと分かるのだろうが、スオウは衰弱しているアオイを見て冷静になれるほど大人ではない。


ましてや、実の家族と離縁してまで、村を出ていったアオイと共に生きると決めたのだ。

家族よりも大切な人間が臥せっていれば冷静ではなくなるというのが人の性というものだろう。


今はまだ、アオイがどうなるか分からないので万が一の時のため言い出さないが、スオウは元々魔女としてのアオイの使い魔になろうと考えていた。

そうすることで、アオイとずっと一緒にいられるからだ。


何か"悪いことをした"と思うとパニックになって人のせいにするようなきらいがスオウにはある。

それは幼い頃からで、パニックになったところをいつもアオイに助けられていた。

そして、そんな自分を見捨てることなく、友達でいてくれたことが、スオウには嬉しかったのだ。


だから、アオイが魔女だと分かって、村を出ると知った時、迷わず家族といることよりアオイといることを選んだ。

スオウ自身が離れ難かったのもあったが、それより何より彼女を一人ぼっちにしたくなかった。

その性質のせいで普段は自分に優しい家族でさえ、パニックになった時は少し距離をとっているとわかっていたし、友達などアオイ以外いなかったスオウは孤独を感じることの寂しさを誰よりも味わってきた。


スオウはアオイが大好きだ。


それは友愛なのか、家族の愛情に似たものなのか、はたまた違うものかは形容しがたいが、とにかく"大好きだ"と胸を張って言える。


直接言うのは、今更という感覚があるので少しためらわれるのだが。


「アオイ…俺、アオイが起きてきたら、ちゃんと言うから…」


スオウはもう眠ってしまったアオイを見て、彼女が次に目覚めた時、拒否されるのが怖くて言えなかった、使い魔になりたいということを正直に伝えようと決めた。



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