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Trip10.



永絆は、何もない限り紅祢と登校している。


時間の長短はあれ、いつもは紅祢が外で待っているのだが、今日は違った。

永絆が家を出るほうが早かったのだ。


「いってきまーす!…悪い永絆、寝坊してさ…」

「ううん、私も今出てきたとこだから。紅祢、大丈夫?」

「平気平気。ほら、学校行こう。遅刻する」

「う、うん」


通学路をしばらく歩いていると、軽快な音楽が永絆の携帯電話から流れる。


「…それ、俺の時と違う。誰?」

「え?えぇと…この曲は、杏子からのメール」

「ああ…古金さんか…ならいっか」

「何?」

「別にー」

「何か気になることでもあったの?」

「…朝から誰かと思っただけー」

「紅祢、たまに私が誰とメールしてるかとか気にするよね。それで拗ねるの」

「拗ねて…はないって」

「嘘。拗ねてる時、紅祢、唇が少し尖るの。今もそう」

「…え…」

口を手のひらで覆い隠す紅祢。


「大丈夫、紅祢といるのにメールに夢中になったりしないから」

「……いや、そういうことじゃないんだけどな…」

「え、違うの?」

「…違う。とりあえず、歩いてる最中にメールは危ないからやめろよ?」

「分かってるよー。それに杏子は返信はいいって書いてきたもの」


とはいえ音が鳴ったことを思い出し、携帯電話をマナーモードにしてから鞄にしまう。


永絆たちが学校について教室に入ると、珍しく葵と澄央が朝から一緒にいた。

澄央の方は何かを持っている。


「下駄箱の中に、ピンクの封筒ねぇ…」

「何なのか分かんなくてさ…悪戯かな」

「…その思考回路になる澄央のネガティブぶりには驚かされるよ。普通に考えてラブレターでしょ?良かったじゃん」

「何で?差出人も、分かんないのに…」

「じゃあちゃんと読んだら?」

「…不幸の手紙とかだったらやだから、葵が開けて」

「何でそうなるの。大丈夫だって、ピンクの封筒の中に不幸の手紙なんて入れるわけないでしょ。センスないし」


「……」

渋々、といった顔で封筒を開き、手紙を見る澄央。


「…昼休み、中庭の桜の…」

「やっぱり告白だよ」

「何で?」

「あれ、知らないの?中庭の桜の下で結ばれたカップルは末永く続く、ってジンクス」

「知らない。興味ないし」

「あ、そう?それにしても、告白かぁー。私も腐れ縁のお役御免かなー」

「え?」

「だって、彼女がいるのに、腐れ縁の女の子と一緒にはいられないでしょ」

「何で?何で葵、そんなこと言うんだよ」

「っ?!」

澄央に痛いほどの力で肩を掴まれ、驚く葵。


「なぁ、何で?」

「ちょ、澄央、肩痛いっ」

「……何で、一緒にいちゃいけないんだよ」

葵の肩を離した途端、俯いた澄央が哀しそうな声をだす。


「ちょ、ちょっと澄央…」

何がスイッチになってこんな状態になったか分からず、葵が手を伸ばして宥めようとする。


が、その身体ごと突き飛ばされて、それは叶わなかった。


「うわっ!」

葵は突然のことでバランスを崩し、床に尻餅をついて倒れ込んでしまった。


「ぁ…」

「っつ~…」

「葵が、悪いんだっ…いきなり一緒にいちゃいけないなんていうから…っ俺のこと要らないっていうから…っ」

そう言ってまくし立てる澄央は教室から走って出て行った。

彼の顔は、自分が葵を傷つけてしまった事実からか、真っ青だった。


「大丈夫、葵…?」

「あー、うん…やっちゃったな…」


パラレルワールドでは気をつけていたが故に悩んでいたはずのことを、迂闊に口に出してしまったのだ。


"一緒にいちゃいけない"

この言葉が引き金になって傷つけることになるというのは分かっていたのに。


「それにしても、女の子…それも葵を突き飛ばすなんて…智永君どうしちゃったの?」

「…私が澄央の一番嫌な言葉言っちゃっただけ。あとで落ち着いたら謝るよ」

「葵ってホント冷静だよね。私がんなことされたらキレてると思うよ」

「それはそうと…杏子、何か話したいことがあったんじゃないの?」

メールは実は四人に送られていて、その内容は話したいことがある、とそれだけだった。


「ああ、そうだった。あのさ、異世界、一度でも行った?」

「私は行ったけれど…」

「私も、一応…」

李と椿が頷く。


「…痣、どうなってる?」


「え?」

「花弁が五枚あったでしょ?私の、見て。一枚減ってるんだ」

「本当…ってもしかして…」

李と椿がそれぞれ自分の手の甲を見る。


「減ってる…」

「じゃあ、異世界に行けるのは…この花弁の枚数だけってこと?」

「そうなんじゃないかな…」


「…私と葵は…減ってないね」

「うん。私はあれからまだ行けてないから」

「……大丈夫?」

「え?」

「葵、少し辛そうだよ」

「…大丈夫。ここまでの喧嘩なんて、小学生の時ぶりで驚いただけ」


そう答える葵は、どことなく寂しそうだった。


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