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Trip9.



「あれっ、杏子ちゃん、それボディペイント?可愛いね」


昼休み、弁当を食べていた杏子の手の甲を見て志苑が声をかけてきた。


「あー…ありがと…」

「ん~?何か杏子ちゃん変じゃなーい?」

教室ということを忘れているのか後ろから抱きついてくる志苑。


「って重いっての!」

「アハハっ、ボクの愛情愛情~」

「……」

「どしたの?」

「志苑さ、よく愛情、とか好き、とか言うけど…そう頻繁に言ってると、好意が安っぽく感じるからやめたら?」

「何で~?ボクは杏子ちゃんが好きなんだからいいじゃん?」

「いや、だから…」


「何だか、義賀って女の子が憧れるレベルで一途で直球だよね」

「志苑が?」

「そうそう、ボクって一途なんだよー!ずーっと、杏子ちゃん一筋なんだから」

「どーだか」


中学の頃から「好き」を連呼されてきた杏子からしてみれば、少し薄っぺらなものに感じてしまう。

それに、自分に女子としての可愛げがないことを自覚している身で好きと言われても、それを信じることはなかなか出来なかった。


その日の夜。

杏子はパラレルワールドに行くこととなる。


「おっはよー、アンズちゃん!」

「…おはよう」


一応連れなので、宿を取れば部屋はシオンと一つ借りることになる。

特に安い宿を取っているので、二部屋借りられることはまずない。


「朝から元気だね。さすが半分動物なだけあるわ…」

「珍しく褒められたっ?」

「褒めるっていうか…あー、そういうことでいいよ」

「アンズちゃんは最近朝弱いね?ボクがついてきたばっかりの時は結構早起き得意だったのに」

「まぁ…さすがにアンタに対する警戒心も薄れてきたんでしょ。血を飲む時も、餌扱いの割にちゃんと許可得ようとするし」


アンズの想像の中で、獣混じりが血を飲む時は何のことわりもなく、いきなりだと思っていたので意外だった。


「だーかーらー、餌扱いなんてしてないのにぃー」

「扱い自体は餌でしょ」

「そう言うアンズちゃんは、ボクのこと猫扱いしてるよね」

「うっ」


シオンに抱きつかれながらもアンズは、無意識に彼の耳を撫でていた。

それを指摘され、慌てて手を引っ込める。


「別にヤなわけじゃないよー。アンズちゃんなら大歓迎」

「……そりゃどうも」


猫科の獣混じりは、大体が気まぐれだったり気難しいところが多く、耳などを簡単に撫でさせるということは、相当気を許している証拠だとアンズは聞いていた。

だが、目の前にいるシオンは耳を撫でても何も言わず、むしろ喜んでいる。


そこまで彼に信頼されている理由がよく分からず、アンズは内心不思議に思っていた。

彼の純粋な好意を受け入れるには、アンズは異性との関係性について疎すぎたのだ。


アンズの意識から、杏子の意識が離れていくと同時に、痣から花弁が一枚消えていた。

そのことには、杏子が手のテーピングを巻き直している最中に気づくこととなる。



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