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Trip7.

スモモが目を開けたのは、もう夕陽も落ちきるであろう時間だった。


「……」

どうして今の今まで眠っていたのかをぼんやりとする頭で思い出す。


「あ」

討伐任務の後、ヤナギに顔色が悪い事を指摘され、報告書はいいから休め、と言われたことを数分かかって思い出した。


たったこれだけのことにこんなにかかるなんて、と少しだけ自己嫌悪に陥りかけたその時だった。


「おい、入るぞ」

扉を叩くこともなく、声だけかけて入ってくるのは一人しかいない。

普通なら焦るだろうが、誰かは分かっているのでスモモとしてもあまり取り繕う必要がないのだ。


「顔色は…大分マシになったな」

「そう…?」

「マシって程度だけどな」

「…そういえば、報告書は…?」

「あー…一応書いて出してきた」

「……ごめんなさい…私がやらなければいけないことなのに…」

「あんな顔色の幼馴染に書かせるほどオレは鬼じゃねぇ。それより」

「何?」

「クッ…くく…寝癖ついてるぞ」

肩を震わせて笑いながらスモモの頭を指で示すヤナギ。


「う、嘘?!」

「本当だ。直してやるから、じっとしてろ」

少し跳ねてしまっているスモモの髪に指を通して直していく。


「ま、こんなもんか」

「…ありがとう」

「ああ」


それきり、どちらからともなく黙り込む。


「なァ、スモモ」

「何?」

「その…あー…なんだ…」


ヤナギは言いよどみながら、首を傾げて頭を掻く。


彼は、自分が感情表現が下手で、不器用な人間だということを嫌というほど自覚している。


「うん?」

さすがに何が言いたいのか分からず、スモモは不思議そうな顔をする。


「お前は、もう少し自分の身体に気ぃ使えよ」

「…あ、えっと…心配、してくれてたの?」

「…まぁ、幼馴染だし」

「そう。ありがとう。これから気をつけるようにする」

「ように、じゃダメだろ。気をつける、だ」

「はい。気をつけます」

「よし」


満足そうに頷くヤナギ。


「でも…ヤナギって、そんなに心配性だった?」

「オレをどうしても非常識人間扱いしてぇのかお前は」

「だって…」

「オレにとっちゃ、お前は身内だ。ガキの頃から一緒だしな。だったら、具合悪くなった身内を心配して何が悪ぃんだよ」

「……」

「そりゃ、細々とした調整が得意じゃねぇから、治癒系の魔法なんざ使えねぇけど…」

ヤナギの不器用さは、魔法に関しては顕著で、初歩の治癒魔法もあまり上手には使えない。

せいぜい、打ち身や肩こりを少し良くする程度だ。

そうかと思えば高威力すぎて辺りを殲滅しかねない攻撃系魔法を使う。

基礎の魔力は決して低くないのだが、コントロール能力がほぼないに等しいのだ。


「ううん。それにヤナギが治癒を覚えたら、私の出る幕がなくなるじゃない」

「…そうか」


スモモは何故戦闘の多い第二部隊にいるのか不思議がられるほどに治癒や強化、補助の魔法に長けている。

魔力も高く、コントロールも得意。

攻撃系の魔法はつい加減してしまうので高威力とはなりにくいが、攻撃魔法以外でヤナギに劣ることがあるといえば、防御魔法の頑丈さのみだ。


それも、ヤナギのコントロールが大雑把なため、彼が防御壁などを作るとかなり頑丈なものが出来るというだけなのだが。

柔軟さが必要な対魔法用の防護壁を張る時はやはりスモモに分がある。


「少しは回復したらしいし、オレも戻って休む。飯は…あとで何か持ってきてやるとして…どうせ隣だ。飯まで何かあったら声かけろ。いいな?」

「ふふ…了解しました」

「じゃ、ゆっくり休めよ」


ヤナギがスモモの部屋をあとにする。


「随分と…心配をかけてたんだ」

一人ごちたスモモはもう少しだけ、と布団に身体を沈めた。

その内、スモモの意識が闇へと溶けていくと、李の意識が浮上する。


李が目を覚ますと、保健室から見える空が夕暮れ時から徐々に紫に染まってきている。


「う…デジャヴが…」

先程までパラレルワールドにいて、似たような光景だったというのに今も日が暮れかけるまで眠っていたとは。


「ん?ああ、やっと起きたか」

「夜凪…」

「あ?」

「えぇと、ありがとう。こんな時間まで、ついていてくれたんでしょう?」

「…まぁ、な」


照れたように目線を逸らす夜凪。


パラレルワールドで似たような体験をした今なら分かる。


朝、登校中に帰れと言ってきたことも、午前中、一度も授業をサボらなかったことも、昼休み、立ちくらみを起こした李をすぐに助けられたことも、全て李を心配していたからだったのだ。


「もう動けるか?」

「さすがに大丈夫」

「なら帰るぞ」

「うん」


李はベッドから降りると夜凪から荷物を受け取り、帰路についた。


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