Trip3.5-⑤.アンズとシオン
【魔力体】と呼ばれる魔力の塊を生まれついて身体に持つ者がいるように、【獣混じり】と呼ばれる、文字通り獣の特徴を持った者がいる。
魔力体以外はほとんど魔力を持たない少女、アンズはこの世界の古金杏子である。
武闘派の妖魔退治屋として国を巡っていた。
「今回は割がよかったかな」
「え~、ちょっと強くなかった?アンズちゃん傷負ってたし」
「…アンタ、いつまでついてくんの」
妖魔退治屋である彼女にくっついている彼は異国の獣混じりで、シオン。
言わずもがな、この世界の義賀志苑であるが、決定的に違うのはその頭に生えた猫の耳。
彼は猫科の獣混じりだった。
「つーれーなーいー。ボクはずっとアンズちゃんについてくって言ったじゃん!」
「…それ、餌にしたいからじゃないの」
アンズの魔力体は体質型の【強化】で主に身体能力の強化に用いることの出来るものだ。
そして、魔力体持ちから血を貰うことで完全に人に混じることの出来る獣混じりは、ほとんどが、狙いを定めた獲物を餌として扱う。
中には番として扱い、大切にする者もいるのだが、どうもシオンとそう言ったことはあまり結びつかない。
杏子からしてみれば、中学時代告白を尽く断っていた志苑と重なって見えるのだから当然だが。
「違うよ~!あ、でも血はちょーだい」
アンズは知る由もないが、シオンがそう言うのには、理由があった。
彼女は自分自身の魔力をほとんど持たないため、魔力体のコントロールが出来ない。
強化するための魔法は、かけすぎるとその負担から術者の身を滅ぼす。
治癒魔法もかけすぎると身体を腐食させてしまうのだから、自己治癒能力を上げることの出来る杏子の【強化】もまた、同様だとシオンは感じ取った。
恐らく放っておいてしまえば、彼女はやがて身体が腐り、死んでしまう。
今は妖魔が多く、怪我もするからそちらに魔力を割ける分良いが、妖魔が減ったり、怪我をしないほどに強くなってしまったら、その分、効果が出すぎるのだ。
「やっぱり餌扱いか…まぁ、この体質だからすぐ治るしいいけどさ」
だから、嫌がられても、鬱陶しがられても、シオンは彼女の傍を離れないと誓ったのだ。
異国からやってきてすぐ、自分が一目惚れし、その上で優しくしてくれた、この少女を救うために。