Trip3.5-④.ツバキとトクサ
妖魔討伐団の団長は二十代前半、副団長は十代後半と若い。
この世界の椎火椿ことツバキはその若い副団長だった。
椿に流れ込んできた記憶が正しければ、不承不承で、渋々引き受けた役割だった。
その前は魔法の書物を読みあさっていればいい、楽な立場だったのに。
彼女を抜擢したのは若き団長であり、椿にとっても、ツバキにとっても何故気に入られているのか全くわからない相手、トクサだった。
彼は椿にとっての元の世界では礼原篤佐にあたる人物だ。
だからこそ、椿の記憶とツバキの記憶が混じり合ってからは尚更不思議だった。
何故自分を慕ってくれる女性ではなく、むしろ毛嫌いに近い感情を抱く自分に構うのかと。
それに加えて、こちらのツバキはフードを目深に被り、顔を見せない変わり者。
そんな彼女をどうして構うのかと本気で問い質したくなる。
「副団長。ぼんやりして、どうした?」
「…いいえ。何もありません」
「そうかぁ?お前が俺の前でぼーっとするなんて珍しいから、てっきり体調でも悪いのかと思った。ま、何かあったら言えよ」
フード越しに頭を軽く撫でられ、む、とした表情で避ける。
とはいえ長身のトクサには見えていないだろうが。
「それより。第二部隊の任務の報告書…提出期限は守られていたというのに、今回は随分と時間がかかりましたね」
「あー、アレか。いや、書いてきたのがあの暴れん坊でな。隊長補佐だったらそこまでかかんねぇんだけど」
「…ああ…」
つまり文字が乱雑で読めなかった、と。
「で、何か問題でもあったか?」
「おかげで事後処理が任務期限ギリギリだった、とだけ。報告書については…その、お疲れ様でした」
任務完了の手続きを終えるのはツバキの仕事だが、字の汚い報告書を読む大変さはなんとなく分かるため、トクサに対して労いの言葉を口にする。
「あ、ああ…」
珍しく言葉をどもらせるトクサに内心疑問符を浮かべるが、自分がそういう気遣いを見せるのも珍しかったため、面食らったのだろうと自己完結することにした。
その時、身長の低いツバキには見えていなかったのだが、トクサは表情に出さないまでも、耳を赤くして柄にもなく照れていたのだった。