Trip3.5-②.アオイとスオウ
滅多に人の訪れない辺境の廃村。
その一角に住むのは、僅か二人のみだ。
「…スオウ、あんたまた作物に魔法使ったでしょ」
「……使ったけど…だって、遅いじゃん!」
この世界の真水葵であるアオイは、数少ない魔女の一人で、闇の力を司る魔女だった。
だから魔力の暴走などで人を傷つけないように離れた辺境に一人で移り住もうとしたのだが、この世界における智永澄央であり、アオイと同じ故郷にある農家の少年、スオウは家族と絶縁してまでアオイについてきた。
それが数年前の話。
スオウ自身も人より多めの魔力を持っており、命を操る魔法を得意とすることから、生活のために農作物を作っているのだが、よく、楽をしようとして植物に対して魔法を使いすぎることがある。
「遅い…それはしょうがないでしょ。っていうか、この大きさ、大きすぎて売りには出せないよ」
「うちで食えばいいじゃん」
「…そりゃそうだけど、アンタ飽きっぽいから献立考えるの大変なんだからね」
「そんなことないって。ちゃんと食うよ」
「まぁ、文句言いながらも食べてるけどさ…」
「…なぁ、アオイ」
「ん?」
「俺……やっぱ、何でもない…」
「最近多いんじゃない?そうやって言いかけてやめるの」
葵に入ってきた最近の記憶でも、何かを言いかけてやめる数は多い。
「うん…まぁ、そーだけど」
歯切れ悪く目を伏せるスオウ。
「ま、いいけどね」
そう言って立ち上がったアオイにも、本当ならスオウに言わなければならないことがあるのだから、お相子だ。
(私の成長は、もうすぐ止まる。今度の誕生日が節目。そうしたらもう、年を取り続ける人間のスオウとはいちゃいけない…そんなこと、言えっこない)
スオウが澄央と同じなら、彼はかなりネガティブ思考なはずだ。
そんな彼に「離れたほうがいい」などと言ってしまったら、自分はいらないのかと見当違いに落ち込むに違いない。
そう考えると、切り出すことが出来なかった。
なんだかんだで、葵もこちらのアオイも、彼が大切なのだった。