Trip3.5-①. ナズナとアカネ
人里離れた、けれどもとても明るい森の中。
そこに、小さな丸太小屋があった。
「ナズナ。そろそろ起きて顔洗って。朝飯出来るぞ」
「はぁーい…」
この世界の天木永絆―ナズナは、この国では【魔女】と呼ばれる存在だった。
魔女は、ある程度の年齢になると、莫大な魔力の影響で成長と老化が止まって不死となる。
魔女が死ぬには、己の器以上の魔力を使い果たすこと。
それ以外にない。
ましてナズナは癒しを司る魔女であり、自己治癒能力に長けているのだ。
かなり長い年月を生き続けることになるだろう。
そんな魔女と共に生きられるのは、その魔女の魔力を分け与えられて契約を結ぶ【使い魔】のみ。
ナズナを起こした声の持ち主が、ナズナの【使い魔】である。
彼の名は、アカネ。
何を隠そう、この世界の仁科紅祢である。
その記憶が流れ込んできた時、異世界でも世話をかけているのかと永絆は若干落ち込んだが、こちらの彼の事情を慮ると、自分といること自体は、仕方のないことだと思った。
「おーい。何ぼけーっとしてんの。お前には俺の魔力効かないんだから、身体を動かしてやれないんだぞ」
「わ、分かってるよっ」
彼は【魔声】と呼ばれる魔力体の持ち主だ。
使い方によっては他人を自在に操ることなども出来るため、彼は幼い頃から忌み子として迫害されてきた。
幼馴染で、魔女であるが故に同じように忌み子扱いされていたナズナと共に生まれ故郷を出て、今の森に住むようになったのだ。
そして、彼は望んでナズナの使い魔となった。
使い魔となれば、魔女が死ぬと同時に死ぬ、契約した魔女には魔力が効かない、など制約が付くのだが、それでもいい、その方がいいと、アカネは契約を結んだ。
と、そんな記憶が永絆に流れ込み、今に至る。
(他の四人は、どうなったんだろう)
永絆はあの黒い空間以来会えていない友人たちを思い、顔を俯かせた。