ヒモの縛り方
ある言葉のせいで警告してあるだけで、内容は全年齢対象だと……思うんですが。
まず、言い訳をさせてもらいたい。……私は、決して危険な趣味を持っているわけではない。
ただ、うっかり送信メールの言葉を変換ミスしてしまっただけだ。
だから許してほしい。
「で、そろそろ本当のこと話してくれない?」
現在の状況は、自分のアパートの部屋の中にいます。そして、目の前には愛する彼氏。彼の手にはシンプルな携帯電話。画面には『ヒモの縛り方教えて』と表示されている。
「だから、さっきから言ってるとおり、変換ミスっただけなの!!年度末の大掃除で大量の紙ゴミを縛らないといけなくて!」
「……俺をヒモと思ってるんじゃないのか?」
私が会社から帰ると、アパートの前に彼が待っていた。……とても不機嫌な様子で。
原因は昼休みに送ったメール。
引っ越しのアルバイトをしている彼なら、良い方法を教えてくれると思ったからだが……誤解を生んでしまったらしい。
確かに、売れない俳優でもある彼は、ヒモと言えなくもない。だが、本当に違う!信じて欲しい!!
「スマホの予測変換で勝手に出ちゃったの!!本当に誤解だから!」
「……予測変換ってよく使う言葉から優先されるんじゃないのか?」
彼が悲しそうに私を見つめてくる。綺麗な顔が捨てられた犬のようで、素晴らしい。首輪とリード付けて可愛がりたい。……いやいや、違う違う。
「……俺とは別に、ヒモを養ってるのか」
「!?」
すごいセリフが来た。なんでそんな勘違いを!!
「違うって!本当に、……信じてよ……」
まいった、まさか『紐の縛り方』の変換一つでこんな展開になるとは……。
彼は私を見つめながら問い掛ける。
「……じゃあ、俺を縛るつもりはないってこと?」
「な、なななななあ、ないよッ!そんな趣味はッ!」
うおう、さっきの願望が口から出てたのか!?いや、大丈夫だ。ちゃんと否定しないと、私はアブナイ人認定されちゃうよ!
「違うから!縛るのは興味無いから!!」
「……ふうん。」
納得したのかしてないのか、彼は自分のカバンを探りはじめる。
「なんだ、せっかく持ってきたのに」
彼の手には太めのロープがあった。……それって緊縛プレイ用の紐ですよね?
「……ごめん、わざわざ買ってきてくれたの?」
どこに売ってたんだっ、という突っ込みはスルーします。むしろ、よく探してきたねと誉めてあげたい。
「……俺、お前のことすごく好きだけど、縛られるのは無理だと思ったから……よかった」
私も無理です。妄想で十分です。
彼が私の手首にキスをする。くすぐったくて腕を引こうとすると、手首に紐が結ばれる。……あれ?何してるの?
「でも、ちょっと嬉しかったんだ。……もしかして同じ趣味があるんじゃないかって」
耳元でささやかれる声は素敵だが、内容は素敵ではない。
「……同じ、趣味?」
なんだか、とても嫌な予感がする。
「……なんであなたは、紐で私の両腕を縛ってるのかな?」
何、その超イイ笑顔は!!本気で嬉しそうだな!?……ずるい、反則だ。
「……紐の縛り方、教えてあげるよ」
キラキラした笑顔で宣言されました。
まさかこんな展開になるとは、思いもしませんでした。……予測変換はOFFにすることをおすすめします。
緊縛とSMはちょっと違うと思うので、緊縛プレイにしました。
わかんないよい子へ
緊縛プレイ→好きな子にロープを結んでいちゃいちゃするごっこ遊びだよ。合意じゃないと犯罪だよ?きつくしたらあぶないよ。
SM→ごっこ遊びの一種だよ。相性が大事だよ。
……ごめんなさい、つい。出来心で……。