戦慄の刃
草原のど真ん中で、まさかのサーヴァント襲来。
俺はコイツにやたら縁があるようだ。
何はさておき、馬車を停止させなければならない。
「御者のおっさん!一旦止めるんだ!このまま移動したところで100%馬車ごと潰されるぞ!!」
「止めたらそのまま、動かないで下さい!このマットって人がやっつけてくれますから!」
・・・。
「ひ、ひいいいぃぃ」
馬車は急ブレーキ。
俺はすかさず、馬車から飛び降りてサーヴァントの注意を引き付けた。
コイツの攻撃パターンは大体同じなので、頭にインプットされている。
ただ、スタミナが人間のそれとは比較にならない上、図体に似合わず恐ろしいほど機敏な動きをする魔物であり、長期戦になればなるほど不利になる。
しかし、デカイ。
4mほどありそうだ。
そもそもコイツは森の中でしか縄張りを張らないし、こんなだだっ広く見渡しのある草原での報告例は聞いたことがない。
この近辺も、こんな亜種がいたんじゃ呑気に辻馬車走らせている場合じゃないぜ・・
「よーし、いいぞ。もっと俺に寄ってこい」
サーヴァント(やつ)との距離が近付くにつれ、その巨体に驚くしかなかった。
だが負ける要素はない。
コイツは獲物と見るや、一定の距離まで詰めた時点で咆哮をした後、必ず突進をしてくる。
これはコイツらの習性。
サーヴァントが吠えた。
通常種より一段とうるさい。
咆哮だけでも凄まじい地響きと風圧が襲ってきた。
俺はかろうじて両目を見開き続け、次の突進に備え左足に体重を移動させた。
しかし奴は次の瞬間、想定外の行動に出た。
突然の方向転換。
視線の先には、馬車。
「バカな!」
サーヴァントは猛スピードで、アリア逹のいる馬車へ突進を開始した。
グォォォォ!!!と吠えながら走りを止める気配はない。
完全にターゲットは馬車。
「あひゃあぁあ!こっち向かってきますよぉお!」
「くっ・・・」
駄目だ!とても間に合わない!!
突進前に先手必勝でさっさと片付けるべきだった。
このタイミングで"力"を使っても発動するまでに馬車はペシャンコだ。
「アリア!おっさんを抱えて馬車から飛び降りるんだ!早くしろ!!」
くそ、ダメか?!
まさかサーヴァントが目の前の獲物を無視して、遠くの獲物を狙うなんて。
読みきれなかった・・・!
自分の読み違いで、また俺はー・・
「・・・え?」
それは、まさに異様な光景。
白い複数の細かい刃に、サーヴァントの巨体が一瞬で切り刻まれていく。
刃はまるで生きているかのような鋭い動きで、目で追いかけるのがやっとであった。
間をおいて、サーヴァントの鮮血がほとばしる。
切り刻むスピードが尋常ではないので、血が飛び散るのがやけに遅く感じたぐらいだった。
サーヴァントは、断末魔の声1つあげる事もなく、地面に崩れていった。
ズシン、と大きな音とともに、サーヴァントを一瞬で葬った人影が姿を現した。
現れたのはアリアだった。
ただし、外見が様変わりしている。
紫色の髪の毛の一部が、幾重もの細かい白刃と化していた。
瞳の色も普段の黒からブルーに近い色合いへと変化していて、何より対峙しているだけでも、その威圧感は普段のアリアからは考えられないものだった。
「お前・・・」
「驚いたでしょ?私は全身を"こうする事ができてしまう"能力が備わってるの。
十神会の・・・実験のおかげでね」
鮮血を浴びて真っ赤に染まった顔面と、アリアの哀しそうな青い瞳は、しばらく俺の目に焼き付いて離れなかった。