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リベンジャーズ ー獣人達の反逆ー  作者: しょごうき
6/9

旅立ち

恐怖感。

不安感。

孤独感。


俺は様々な感情を懸命に振り払おうとしていた。

最も恐ろしいと感じたのは、


過去の記憶がない事そのものよりも、

"それを思い出そうともしなかった自分"ー・・・。


両親だぞ。

何故、俺には家族と過ごした記憶がないのだ。

そう、もしかしたら両親どころか、兄弟だっているかもしれないのだ。

そして、そんな事を、考えたこともなかったという事実。

これが何よりも恐ろしかった。


「入るぞ」


ゴードンさんの一声で、俺は我に帰った。


「・・・どうぞ」


普段、俺は酒場の大広間で寝泊まりをしていたが、

今は酒場2階の1室の寝室で、寝泊まりをしている。


「単刀直入に言おう。マット、あの医者の言うとおり、専門の医師を頼れ。幸い、この街からそう距離も離れていない。俺も今まで気付かなかった責任もあるし、一緒に行ってやるから」

「何を言ってるのさ。ゴードンさんに何の責任があるって?・・・お互い、過去に触れすぎずに来たからこそ、俺はうまくやってこれたし、命を救ってもらってるんだ。感謝しきれないほど・・・感謝してるんだ。それが何だよ責任って!・・バカかよ」


俺は思わず感情的になり、声が上ずる。


「そうやって、本心を包み隠さず話してくれやがるのも、お前の決意は変わらないってこったな」


そう、変わらない。

1週間前、あの日。

あの日、俺の日常は一変してしまった。

キッカケは、1人の女だ。

だが、あいつが俺を訪ねてこなければ、俺は自分の過去、即ち空白の12年を思い出そうともせず、一生を終えていたかもしれない。

そして、真のキッカケは、あの女が右手を氷の刃のように変化させた瞬間。

得体の知れない既視感(デジャブ)とともに、謎のフラッシュバックに襲われた。

あの女ー・・・アリアは明日の朝にでも街を出ると言っていた。


「俺は自分の勘に従い、行動し、自分の手で過去を取り戻す。そのために、まずはあの女に付いていこうと決めた。仮に俺の記憶を取り戻す鍵が、幾つか存在するとして、アイツに付いていく事が、その1つに繋がっているような気がする。そう強く思ったんだ」

「そうかよ。・・・まあお前らしいな」


鍵は他にもあると思ってる。

師匠の存在だ。

師匠だけではなく、俺と関わった事がある全員が、鍵を持っている可能性がある。

しかし、剣を捨てた今、そのキッカケとなった討伐隊、まして剣の師匠になど、合わせる顔などなかった。

師匠は、討伐隊加入を大反対していたから、尚更である。

女と行動をともにするのは不本意だが、こればかりはどうしようもない。



「俺、明朝に出発するよ」


思えば3年もの間、世話になった。

この酒場[ロックイレイズ]は、俺の第2の家で、この街は第2の故郷という訳だ。

だけど、自身の過去が謎に包まれている以上、今の俺にとっちゃ、"ここが俺の家であり、故郷"。

それは覆らない事実だ。

俺はゴードンさんを、この街を、裏切る行為に出ているのかもしれない。


「今日が最後の夜って訳だな!マット、今夜は豪勢にやろうじゃねーか!お前の好物、ムグラの角煮をたらふく食わせてやる!」


ゴードンさんは、わざと明るく振る舞っているように見える。その姿を見るのが辛かった。

ごめんよ、ゴードンさん。




本当に、ごめん。








ー・・・夜明け。

昨日のうちに、荷物を粗方まとめておいたので、

後は出発を待つだけになった。

ゴードンさんは、まだ部屋で寝ているようだ。

もう起きてきてもいい頃なんだが、昨晩は尋常ではない量の酒を飲んでいたから無理もない。


起こさないで、このまま出発しよう。

自分に言い聞かせる。


何も、もう一生会えなくなる訳じゃない。

今年のヒューマ祭も、派手に盛り上げてくれよ。

俺は自分を探しにいく。


「ゴードンさんは、早く嫁さん探しな」


ぼそりと呟く。

俺は深々と頭を下げた。

不意に涙がこぼれた。







「ありがとうございました。

・・・この御恩は、本当に一生忘れません」







民家を通り抜けて、俺は街外れの宿屋に向かった。

早朝という事もあり、辺りは静寂に包まれている。

この季節特有のラミア鳥が一斉にさえずりを始めた。

まるで、これから巻き起こる波瀾に満ちた旅を予感させるようであり、また同時に旅の祝福をしてくれているように感じた。


宿屋前に着くと、アリアは既に支度を整え木陰に腰を下ろしていた。

俺に気が付くと、両手を高々と上げ振り回す。


(・・・早朝のテンションじゃない)


「ゴードンさんに、きちんと挨拶したの?」

「ああ、問題ない。すぐ出発しよう」


俺が答えると、アリアはにっこりと微笑んだ。


「よかったー。私もこんなに長居するつもりなかったし、早くアジトに戻らないといけなかったのよ!

でも素敵な手土産もあるし、何も文句言われないわ、うん!」


やっぱ着いていくの止めようか・・・

俺は様々な感情を抱きながら、3年間過ごした街を後にした。








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