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もう一人の俺  作者:
11/12

マルチエンディング① サトシ

翌日も、その翌日もサチコに戻ることはなかった。

そして一週間が過ぎた。


サトシは相変わらず孤独だった。

誰とも会話せず、みんなの視界にも入らず、いてもいなくてもいいような存在だった。


しかし、徐々にサトシの心に変化が生まれてきた。


もうサチコに戻れないなら、サチコになればいいんだ。


このサチコになるというのは、サチコのときみたいにみんなと仲良くなるという意味だ。

サトシは学校へ行った。

ミホがいた。

いざ目の前にすると決心が揺らぐ。


サチコの頃の記憶がよみがえる。

ミホと笑いあった日々、ユウトとは男同士だからもう付き合えないけど

ユウトと遊んだ日々、アキやサヤカとの日々…

取り戻すんだ、自分の手で!!


「おはよう!」


サトシはミホに大きな声で挨拶した。

ミホはビックリした。


「お、おはよう…」


サトシの勢いに押されたのか、挨拶を返してくれた。

しかし、これはサトシにとって大きな一歩だった。

これで自信が持てたのか、教室でも男女関係なくいろんな人に「おはよう」と言った。


サトシは毎日続けた。

徐々にみんな自然に返すようになってきた。


ある日、ミホから「おはよう」と言ってきた。

サトシは笑顔で「おはよう」と返した。


極力いろんな人とも話すようにした。

いや、話しかけるようにした。


サトシのまわりに集まってくることはなかったが、みんなの輪に入るようになっていった。


一ヶ月ほど経ったある日、ミホがひとりで帰るのを目撃した。

サトシはミホに話しかけた。


「帰り?」

「あ、うん。友達にドタキャンされたから予定なくなったから」

「よかったら一緒に帰らない?」

「別にいいけど」


サトシはミホと帰った。

話し出すと、会話は予想以上に盛り上がった。


「意外とおもしろいんだね、話したことなかったからわからなかったよ」

ミホい言われた。


「ねぇ、下の名前なんだっけ?」

「サトシだよ」

「じゃあサトシって呼ぶ。

 私友達は下の名前で呼ぶから、そのかわり私のことミホって呼んでいいから」


ミホの口から友達という言葉が出た。

それがサトシにはとても嬉しかった。


「ダメ?」


サトシが喜んでいて答えなかったらミホが聞いてきた。


「あ、全然OKだよ、ミホ」


久々に本人に向かって呼んだ言葉、ミホ。


それから番号とメアドを交換して別れた。

昔みたいに毎日とはいかないが、たまに電話やメールをした。


今日も電話で話していた。


「なんかサトシってたまに女みたいだよね、考え方とか」

「そ、そう?」

「うん、でもそういう男の人って女の気持ちを理解してくれそうだからいいと思うよ」


サトシの中には、サチコが根付いていたらしい。

そもそも、自分から行動しようとしたのもサチコの影響だった。


だんだん学校が楽しくなってきた。

教室でミホと話しているとアキが話しかけてきた。


「最近、二人仲いいよね」

「だってサトシ面白いもん」

「そうなんだ、なんか意外だなって思って」

「私もそう思ってたんだけど、話したら自然に仲良くなってた。

 アキもきっと仲良くなるよ」

「ふーん、じゃあ仲良くしてみる」


その日からアキとも仲良くなった。


数日たった放課後、サトシはミホとアキと三人で帰った。

すると正面からユウトが歩いてきた。


「お、アキじゃん」

「あ、ユウト」

「帰り?」

「うん、ユウトは?」

「俺も帰り」

「あ、紹介するね、同中のユウト」

「どーも」

「私ミホ、よろしくね」


次はサトシの番だった。


「俺は…サトシ」

「別に男の自己紹介なんて、いらねーよ」


ユウトはそっけなく言った。

ショックだった。

するとユウトがすぐに言った。


「なーんてな、よろしく」

笑っていた。

サトシが知ってるユウトの笑顔だった。


5人でお茶をすることになった。

みんなでくだらないことをしゃべって笑いあった。


「サトシ、お前面白いな」

「そう?ユウトだって面白いよ」

「そりゃどーも、ただサトシちょっと女っぽいぞ」

「私もそう思った」


アキも言ってきた。


しょうがないじゃん、こないだまでサチコだったんだから。

でも直さないと。


「もっと男らしくいこうぜ、じゃないと女できないぞ」



ユウトに言われるとちょっとショックだった。


そっか、そうだよね、もうサチコじゃないからユウトは好きになんてなるはずはいんだ。


「でも、そんなサトシ結構好きだけどね」

ミホが突然言い出した。


「え?」

みんな驚いた。


「そういうんじゃなくて、人間的に好きだなって」


その言葉を聞いてサトシはミホとの会話を思い出した。




「サチコはユウトくんのことどう思ってるの?」

「いいやつだと思ってるよ」

「好き?」

「うん、人間的に好き。

 ユウトとならミホみたいに親友になれると思う」

「そっかぁ、じゃあきっと付き合うね」

「なんで?」

「それって性別に関係なく惹かれたってことでしょ?

 でもいずれ性別を意識してくるよ。

 そうすると自然に付き合うんじゃないかな」

「そんなことないって、じゃあサトシに戻ったら

 ミホと付き合うの?」

「今のままの性格だったらありえるよ。

 でもサチコは女だもん」



今の自分は男だ。

ということは、いつかミホと付き合うのだろうか。


その結論はクリスマスにやってきた。

ミホがクリスマスは予定がなくて暇だというのでサトシが誘ったら

簡単に「いいよ」と言ってくれた。


ご飯を食べ、イルミネーションを見に行くとあまりの人ごみではぐれそうになったから

ミホの手をつかんだ。

二人はそのまま手をつないだ。


イルミネーションを見ていると、ミホが聞いてきた。


「サトシは私のことどう思ってる?」


サトシは本心を答えた。


「いないと困る人。

 俺にとってミホがいない生活は考えられない」

「私もサトシと一緒がいい」

「ミホ、俺と付き合おう」

「うん」


こうしてサトシとミホは付き合うことになった。



それからサトシは毎日が楽しかった。

ミホとデートして、学校ではアキとかと話して、ユウトと会話して以来、

ユウトとも友達になり、たまに遊んだりしている。



とうとう高校を卒業した。

いろいろあった高校生活だった。

サチコになるまで、毎日がこんなに充実できるとおもわなかった。

友達がいなかった、ゲームしかやることがなかった。

ひょっとしたら、こんな自分の分身が情けなくなってサチコが代わってくれたのかもしれない。

サチコとして生活して自信が持てたから今度はサトシに戻って頑張れと。


人間はちょっとの勇気でいくらでも前に進める。

そのことを大きくサトシは学んだ。

もう引きこもりで内気なサトシはいない、

これからも前に進み続けるんだ。



校門を出るとミホが待っていた。


「今日でこうやってサトシと学校から帰るのも最後だね」

「ああ、でも俺たちはこれからも続いていくよ、ずっと」

「もちろん!」


サトシとミホは新しい明日へ踏み出した。



サチコ、もう一人の俺、サンキュー!そして…さようなら。

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