私のように、
父親の病気を知り、今の医術じゃ治療法がない、と言った医者を嫌い、いつも自分だけを不幸にする神様を嫌い、私の人生はあれから変わってしまった。
私のおばさん、美恵さんが娘、つまり私のいとこを連れてやってきた。
どうやら、お父さんから病気の事を聞いたらしい。
その日はお見舞いに来る人でいっぱいだった。
やっと残された二人だけの時間を過ごせると思うと、会社の同僚やら見ない顔がドアを開ける。
「ねえ、お兄ちゃん。大丈夫なの?」
もう三十後半。
一目見たらきっと二十前半の女の人にしか見えないだろう。
確かに美人で綺麗な人だ―
五歳と言う歳の差でお父さんは妹を本気で可愛がったらしい。
妹にとっては「自慢のお兄ちゃん」でもあったと言う。
「大丈夫」と言って平気なフリ。
「大丈夫」と言って作った笑顔。
「死なないでよ」
美恵さんは本気で言っているのか、冗談で言っているのか分からない言い方でお父さんに言った。
それをお父さんに言った時すぐに分かった。
お父さんは彼女に命に関わる事だとはまだ
言ってないみたいだった。
じゃあ誰が言うの。
死んじゃったら死んじゃったで、あ、命に関わる事だったんだ、で済む訳でもないのに。
美恵さんは花を持って来た。
花瓶に水を入れ、花を飾り、娘と共に帰った。
「じゃあ私も帰るね。明日学校だし。」
「日曜日なのにごめんな。おやすみ。」
「・・・うん。おやすみ。
ねえ、なんでまだ言ってないの?」
「どうした。何がだ?」
「ううん。なんでもない。じゃあね」
言えなかった。
いや、言いたくなかった。
言ったら、なんだかもういつものように父と接す事ができなくなる気がした。
何があろうと、笑顔でいる父がどこかへ行ってしまうような気がした。
最後に残された父がどこかへ行ってしまう気がした。
でもきっと強くなれるんだって。
父が最後に言い残した言葉。
最後に力を振り絞って私に言った事。