再遭遇
振り返りもせずにさっさと進んでいく詞音を見て、漣はふと考え込む。何かを忘れている気がするのだ。それも結構重要なことのような気がしてならない。
「なぁ、詞音」
「何?」
「何か忘れてる気がするんだけど、何か心当たりないか?」
問いかけられると詞音は怪訝そうな顔をして、分からないという意思表示か、ひょいと肩をすくめて見せる。しかし、すぐに何か思いついたような表情を浮かべた。
「ああ、もしかして魔物の群のこと?」
さらっと一言。
そして、それはまさに漣が思い出そうとしていたことであった。そこまで考えて、漣はハッとした。このまま進めばその魔物の群に真っすぐ向かっていることになる。と言ってもこの道は狭いうえに一本未知なため方向転換をすることはできない。
「そんなことさらっと言うな! どうすんだよ!?」
「別にどうもしないけど? どうせ全部いなくなるんだからいいじゃん」
「いや、そういう問題じゃなくてだな」
漣の声を完全に無視して、詞音はすたすた進んでいって枝道から出てしまった。慌てて漣は後を追う。
漣が枝道から出て視界に入ったのは、白装束を纏った詞音の姿だけで、不思議なことに先ほどあんなにたくさんいた魔物達はいなくなってしまっていた。
視線を詞音のほうに移すと、彼女はやっときたかとでも言いたげな表情で漣を見る。
「あれ……? えーっと?」
「向こう側に行っちゃったみたいだよ」
どう聞こうかと考える漣の頭の中を見透かしたように、入り口とは反対側の奥の方を詞音が答える。
「行き止まりでもあったのかな。多分もうすぐ見える範囲まで戻ってくると思うから」
「つまりは俺が盾になれと?」
「そういうこと。なるべく早く終わらせるように努力はするからさ」
まあ、頑張れ。と続けながらぽんと漣の肩を軽くたたく。一方漣は嫌そうに顔を顰めたが、しぶしぶ頷く。喜んで盾役になるような人はそうそういないだろうし、大抵は嫌に決まっている。それは漣も同じだが、同行を頼みに行った時からこうなることは予想済みだった。というより、詞音に魔物になってしまった魂を浄化し、送ってもらうには、その間は漣が詞音を守らなければならないことは知っていた。
「分かってる」
漣は不貞腐れたような声で返事を返し、詞音より前方に進み出る。ちょうどその時、無数の足音のようなものが聞こえ始めた。暗闇に目を凝らすと、人の姿ではない影がこちらに近づいてくるのが見えた。