仕掛け
2つの足音が連続して洞窟内に反響して消えていく。
「……っ、しつこいな……!」
「黙って。ウルサイ」
愚痴った漣に眉を顰めて詞音がぴしゃりと言う。
群はどうにか突破することが出来たものの、今現在2人は追われている状況にある。出来るだけ戦闘は避けたいので、とりあえずは洞窟の最奥を目指して走っていた。しかし後ろから追ってくる魔物達もあきらめる気はさらさらないらしく、鬼ごっこのような状況がずっと続いていた。
「まだ追ってくるのかよ……まだか!?」
「着いてたらとっくに止まってる」
漣の質問に詞音はイラついているような口調で返す。その間にも走るスピードは緩めない。
洞窟内にのびている道はほぼ一本道である。そのせいでなかなか距離が開かない。
――と、突然漣よりやや後ろを走っていた詞音が漣の襟を掴んでグイッと引っ張った。当然の事ながら漣の首が絞まり、止まりきれなかったせいで更に思い切り後ろにひっくり返った。
「な、なにするんだよ!」
「こっち」
少し涙目になりながら言い返す漣には目もくれず、詞音は細い枝道に体を滑り込まる。一瞬ぽかんとしていた漣ははっと我に返って追ってくる魔物の群を確認すると、詞音に倣って同じように枝道に入る。入ってみると、枝道は見た目より少しだけ広く、人1人がぎりぎり通れるだけの幅はあった。漣よりも前方に白い人影が見えるが、恐らく詞音だろう。
しばらく進むと、開けた場所に出た。漣より先に着いていた詞音は地面に描かれている複雑な形が組み合わさったような図形を興味深そうにじっと見ていた。
「うわ、何だこの難しそうな形」
「さあね。でも多分これが原因かな。誰が描いたかは知らないけど」
詞音は「甚だ迷惑な話だよね」と続けると、図形の隣にしゃがみこんだ。
「何でこれが原因かどうか分かるんだよ」
「そっか、君には見えないんだっけ」
彼女は困ったように眉を寄せながら説明を始めた。
「勘だって言ったらそれまでだけど、なんて言ったらいいのかな……いろんなものがこの中に吸い込まれてるって感じだな。かなりゆっくりだけどね」
そう言って、詞音はさてどうしたものか、と腕組みをして考え込む。やがて、諦めたようなため息をつくと、鞘に収めていた刀を取り出した。何事かと驚く漣には見向きもせずに、詞音はそのままその図形に斬りつけた。
硬い石、もしくは岩を抉るようなそんな音がして、妙な形をした図形に――と言うか図形の描かれた地面に亀裂が入り、同時に一瞬だけ黒い煙が亀裂から立ち上った気がした。
「なにをしたんだ……?」
「壊した。多分これで増えないから大丈夫」
「いやいや、何が起きたのかよく分からないんだけど?」
何が起きているのかよく分かっていない漣そっちのけで詞音は来た道を引き返し始める。
「待てよ、お前そっちは」
「いいから早く。君がいないとこういう場合では”送る”時色々困るんだから」
早く着いて来て、と続けて、詞音の姿は細い道に消えた。
謎の図形は何か魔法陣的なイメージで見ていただければよいかと。