幼馴染
晴空の下、一人の少年が住宅街から街の外れの方に向かって歩いていた。
茶色い癖っ毛に同色の瞳。どことなく幼い雰囲気を漂わせる見た目を背負った飾り気のない槍が裏切っている。
彼の名は漣と言い、この街唯一の道場の末っ子である。故に、槍術の腕前もそこそこで、少し槍術の心得があるくらいでは勝てないだろう。
彼は街の外れに向かっていたが、別に街を出るわけではなく、街の外れにある社を目指していた。社には魂送りの儀式を行う浄化人と呼ばれる人々がいるわけで、漣は遊びに行くわけでも、暇潰しに行くわけでもない。彼は幼馴染みに他の見事をしに行くのであって、他の目的があるわけではない。
漣が槍を背負っているせいか、すれ違う人々が時折不思議そうな視線を向けてくるが、彼は気にしていない。朝の街道は人通りが少ない為、人混みに紛れる事がない。それ故に街中で槍を背負ったまま歩く漣は目立っているようだった。
社に近づくのに比例して、人を見かけなくなり、漣が目的地に着く頃には、周りに人は見あたらなかった。
社の敷地内で漣が歩を進める度に足元に敷き詰められた白い砂利が擦れあって音をたてる。
――と、引き戸がガラガラと音をたてて開いて、中から誰かがひょっこりと顔を出した。
短く切られた黒い髪とキリッとした顔立ちから漣と同年代の少年にも見えるが、体格や身に纏っている服はどう見ても女性用のもので、恐らく少年ではなく少女だろうと推測できる。そして、発せられた声もまた少女のそれだった。
「なんだ漣か」
「なんだって何だよ」
「別に。他の人が来たと思っただけ」
少女はつまらなさそうにそう言いつつも、漣を離れにある自室へ案内する。
「時間、大丈夫なのか?」
「こんな朝から依頼入ってる事なんて滅多にないし。君こそ朝から何の用?」
彼女は漣に問いかけながらも自室に上がるよう促し、自分はさっさと室内に入っていく。それを見た漣も後を追って少女の部屋へ上がる。
「何の用って、何かあること前提で話進めるのか……」
「違う? 君、いつも何か頼みに来るから今回もそうじゃないのかと思ったんだが」
「いや、当たってるけどな。俺の行動そんなにパターン化してるか?」
「してる」
少女に即答されて、漣は「そこは否定しろよ……ちょっとは考えてくれてもいいじゃないか」と落ち込んで見せるが、少女は別段気にしたふうもなくお茶を淹れてきて漣に差し出た。
「で、改めて聞くけど用件は何?」
「単刀直入に言わせてもらうと、魔物退治の依頼入ったから詞音に同行して貰えないかと思って」
「ふーん、やっぱりそうくるか。僕としては別に構わないけど、毎回それだよね。何で一人で行かないの?」
「あれは倒すだけじゃ駄目なんだよ。浄化人が浄化してちゃんと送ってやらないと暫くしたらまた復活するんだよ」
漣が詞音に言い返すと、詞音は「そんなこと知ってる」とため息をつく。
「何で毎回僕なのかって聞いてる」
「幼馴染みだから頼みやすい」
即答。
詞音は一瞬驚いたように軽く目を見開いたが、やがて呆れたように小さく首を横に振った。
「そうくるんだ。……仕方ないな。ちょっと出てくるって伝えてくるから君は外で待ってて」
「ありがとな! じゃ、後で」
漣は満足そうに笑ってそう言うと、傍らに置いていた槍を手にとって部屋を後にした。
詞音は、とりあえず出したお茶を手早く片付けて漣と同じく部屋を出て、外出する事を告げるために別棟に向かった。
かなりどうでもいいことかもしれないけど…
詞音が着けてる服は巫女装束的なイメージです。