桜
すみません、かなり間が開いてしまいました;
漣は詞音に着いてくるよう言うと、ベンチから立ち上がって歩き出した。詞音は何も聞かずに漣の後を追った。
―――…
暫く歩いて辿り着いたのは、
「……桜?」
「うん。この間此処見つけて、凄く綺麗だと思ったから詞音にも見せたかったんだ」
「へえ……」
詞音はそれ以上何も言わずに大きな桜の木に視線を向ける。
幹は大人が2、3人手を繋いでようやく届くのではないかというほど太く、永い間この地に立ち続けていたのだろうと思われる。
枝が見えないほどの数の花は、風が吹く度にひらひらと花弁を散らす姿は幻想の世界に迷い込んだのではと錯覚するほど綺麗だった。
「……確かに、綺麗だな……」
詞音の口から感嘆したような声が漏れる。
「えっと……それでさ」
「……?」
不意に漣が口を開き、何かを言おうとしてやめた。詞音は不思議そうにして漣の顔を覗き込む。
「……言いかけて黙られるとこっちが困る」
「あー……うん、そうだよね。……何て言ったらいいのかな……」
尚も口ごもる漣に、詞音が僅かに眉をひそめる。
「……言いたいことがあるならはっきり言えば?」
「どう言って良いのかわからないんだよ……」
「言葉を選ぶ必要が何処にあるんだ?」
詞音に呆れたように言われても漣はそれでも暫く頭を抱えていた。
「……ちょっと此処を離れないといけなくなっちゃってさ……
いつ戻ってこられるかわからないから……出発する前に此処を見せたかったんだ」