忘れ物(下)
「そんな言い方ないだろ……」
「無駄に期待させても仕方ないからね。で、思い出した?」
詞音に問われて、漣は「いや、全く」と首をふる。自分が誘ったと言われるとそんな気もするのだが。
「君、こういうのに関しては忘れっぽいよね」
「うう……それは自覚してる……」
ため息混じりに呟かれた一言に、漣は言い返せなかった。
自分でもよくわからないが、依頼だとかそういうものに大して関係が無いものについてはすぐ忘れてしまうらしい。頭の片隅には辛うじて残っているものの、今日は何かあった、という非常に曖昧なもので、思い出すのに毎回苦労する。時にはそれが何か思い出せないまま終わることもあったが。
「どっかに……詞音に見せたいものがあった様な……」
「見せたいもの?僕に?」
「うん、まぁ」
詞音が不思議そうに首を傾げる。
「そんなとこあるの?」
「あったんだよ。もう少しで思い出せそうなんだけど……」
漣は腕組みをして更に眉間に皺を寄せながら考える。
「見せたいもの……か……」
そんな漣を横目で見ながら、詞音が首を捻る。どうやら彼女には漣の言う「見せたいもの」がどこにあるのか見当もつかないようだ。
――――――…
「……あ」
「何」
不意に漣が声をあげ、詞音が怪訝そうな表情を浮かべる。
「多分……思い出した、かも」
「多分って……まあいいや。で、何処?」
漣は詞音の質問には答えずに立ち上がった。
「まあ、とりあえずついてきて」