プロローグ
宵闇の中で、白装束の人影がゆらゆらと動いている。薄暗い景色のせいか、その姿ははっきりと見えた。
白い人影は時に素早く、時に緩やかに、不規則に動く。その動きに合わせて白装束の袖がひらひらとなびいている。
人影の周りには、ぼんやりと光る何かがまるで意思を持っているかのように流れるように宙を舞っている。その光景を一言で表現するなら、『幻想的』と言えるだろう。
不意に、それまでばらばらに宙に浮いていた光がすうっと人影を取り囲むようにして集まり、その集合は柱のような形へと変わった。否、正確には光が大地から空へ、縦に並んだせいで細長い柱のように見えるのだ。
白い人影は、それを見ると動きを止め、静かに手を下から上に撫でるように振った。光は人影の手の動きに呼応するように音もたてずに空に吸い込まれ、やがて闇に溶けていって見えなくなってしまった。
人影は光が空へ昇っていくのを見て、無言で手を合わせる。暫くそうやって微動だにせず佇んでいた。
どれくらいそうしていたのだろうか。
人影は光が昇っていった空を黙って見上げると、何事も無かったかのように踵を返してその場から歩み去った。
人影が遠くへ行くにつれて足音が徐々に小さくなっていく。
やがて、人影が見えなくなると、そこには誰かがいて何かをしていたということが信じられないほど静かで、見える範囲には足跡以外は何の痕跡も残されていなかった。