最終章 『誰が為に、鐘は鳴る』 17
ヨッドヴァフ首都グロウリィドーン。
誰に知られることなく、この国は一つの時代を終えた。
静かな沈着を迎えるこの国は今、新たな王の襲名に失った活気を無理にでも取り戻そうとしていた。
魔物の襲撃で破壊されたあちらこちらの建物が修復される中、アルテッツァ・ヨッドヴァフ・ザ・フォースはヨッドヴァフ開国以来の初の女王として民の前に姿を現す。
セントラルグロウリィストリートを多くの騎士達が整然と歩き、ラッパを吹き鳴らす。
優しい風に散る紙吹雪の中、厳然たる面持ちのアルテッツァ・ヨッドヴァフ・ザ・フォースは民を睥睨する。
その傍らには、アルバレア・ベルの戦いで貢献し、魔王ヨッドヴァフ・ザ・サードを打ち倒した勇者アーリッシュ・カーマインの姿があった。
そして、女王を挟んで反対側に聖フレジア教会の大司祭フィルローラ・ティンジェルが控える。
新たな時代が、切り開かれようとしていた。
ダッツ・ストレイルは着慣れない正装でその巨躯を包み、勇壮に騎士達の先頭を行進していた。
本来、そこに一名加わるはずの隊列に視線だけ向けると、どこかやりきれない溜息をついた。
聖堂騎士団の少女達が騎士に続く。
臆病であることを、認めきれない。
だが、ダグザ・ウィンブルグはそれでも、精一杯誇らしげに歩くことを決めた。
臆病さを忘れ、戦場の暴力が恋しい。
シルヴィア・ラパットはその喧噪がどこか遠いもののように思う。
華々しいパレードを見つめる人々がグロウリィストリートに人垣を作り、新たな時代が来たことを感じていた。
マリナは静かに、時代に挽き潰された妹を思う。
タマはその大きな瞳にその華やかさを映し、大人達が作った時代を思う。
遠く、聖フレジア教会の墓地。
晴れ上がる空を眺め、ユーロは大きく息をつく。
大きな、仕事を終えた。
悪辣と称された偉大な王も、名もなく散った騎士も、等しく土の下へ。
その様をずっと眺めていたシャモンはうらぶれた格好のまま不器用に、どこか優しく微笑む。
イシュメイルはクロウフル・フルフルフーと並び、アカデミアの尖塔からパレードを見下ろす。
吹き上げる風の冷たさが、冬の気配を運んでいた。
新たな時代を築く若者達を導く気概が、老いた大師星の身体に力を与える。
イシュメイルはどこか、遠く、及びもつかない遠くを眺め、思いを馳せる。
グロウリィドーンの王城へと吸い込まれるパレード。
終われば、行こうか。
誰しもが口にしていた。
新しい時代の幕開けに騒ぎ、その熱をそのままに。
或いは、幕を開けるのに疲れたから、安らぎに。
ヨッドヴァフ首都グロウリィドーンの片隅にその店はある。
古びたウェスタンドアを潜ると、どこか優しく鐘が鳴る。
饐えた生の匂いがして、美人だが、無愛想な女将が一瞥をくれる。
そして、だらしないがどこか憎めない店主が丸まった背中で笑うのだ。
「ようこそ、リバティベルへ」
リバティベル。
そこは、冒険者の集まる店である。
読了、ありがとうございました。
『誰が為に、鐘は鳴る。』第一部『ヨッドヴァフの魔王』編、これにて終了になります。
稚拙な文章にこれまでお付き合い頂き、本当にありがとうございます。
重ね重ね、御礼申し上げます。
お付き合い頂き、本当にありがとうございます。56




