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Dingon・Dingon~『誰が為に鐘は鳴る』~  作者: 井口亮
第一章 『ヨッドヴァフの魔王』編
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第3章 『セトメント・セトメント』 1

 アーリッシュ・カーマインは筆を走らせる手を休め、大きく息をついた。

 騎士長執務室で遠慮無く休むダッツに目を走らせる。


 「モルガンディアの魔物の出没、これの対応に当たった第三騎士団は指揮官のオズワルド騎士団長以下全滅……そう聞けばなんの違和感も無い」


 ダッツはぶつけどころの無い憤りを含んだ声で言った。


 「だが、実際は違う。何者かの手によって殺された。その真相究明を求める声も大きい……ダツさんのところにも?」

 「ああ。だが、今はこういう状況だ。表立って動くわけにはいかねえだろう」

 「意地悪な言い方をさせてもらっていいかな?」

 「……ああ、構わねえよ」

 「恩義のある人が死んだのに表立って動く訳にはいかないというのは、いささかダツさんらしくないと、僕は思う」


 ダッツはひとしきり天井を見上げ、大きな溜息をつくと肩を落とした。


 「物わかりがいいツモリじゃあない。だけど、物事をわけて考えなきゃならん分別もあるつもり……いや、言い訳だな。結局は天秤にかけて選んだら、こっちを選んだんだよ。だけど、分別があるってことにしといてくれや」


 ダッツはアーリィから背を向けた。

 アーリィはこれ以上追求しても口を開くことはないだろう友人に大きく溜息をつく。

 目下のところを片付けねばなるまい。

 机の上に広げられた編成表に目を落とす。


 「乾期を迎えたコルカタス大樹林から現れる魔物の掃討。騎士団と冒険者の混合編成でこれらに当たらなければならない」

 「厄介な仕事を押しつけられたモンだな」


 深い溜息を落とすダッツに、アーリィは苦笑で返す。


 「時代が時代だ。騎士が被害を被るのであればそれが本分であるから問題は無い。がしかし、掃討に参加する冒険者にまでその意識はまだ浸透してはいないだろうさ。本格的な掃討戦になるとなれば必ず犠牲は出るだろうさ」

 「新兵よりタチが悪いンだよ冒険者ってのは。冒険者あがりの俺が言うから間違いはねえよ。冒険者の口減らしが目的だったバルツホルドたあ訳が違う。調練するこっちの身になって欲しいぜ。とはいっても、責任を取らされる人間に言うモンでもねえか」


 アーリィは再度苦笑して見せると同じように溜息をついた。

 丁度、そこへ市街の巡回を終えたダグザとシルヴィアが入ってきた。


 「申告致します。タグザ・ウィンブルグ、シルヴィア・ラパット、午前の巡回を終えただいま帰所いたしました。取り扱いは2件、商店から装飾品を窃取しようとした盗賊の捕縛と、往来における冒険者同士の喧嘩の仲裁、それぞれ教会法務庁へ引き渡し裁断を受ける次第となっております」

 「ご苦労、ダグザ騎士長、次からは口周りのクリームを拭いて入ってくるように」


 アーリィにたしなめられ、ダグザは真っ赤になって口元を拭う。

 小馬鹿にして笑うダッツにきつい一瞥をくれるとダグザは続けた。


 「……アーリッシュ騎士団長、コルカタス大樹林の掃討戦があるという風聞を耳にしました」

 「ああ。編成は追って伝える」

 「最前線を希望します」

 「……僕の先手を打ったツモリだろうけど、編成権者は僕だ。意気に逸るのはいいが、未熟な部隊長の下で死ぬ部下はたまったものではないんだよ?」


 アーリィが身を乗り出し優しげな笑みで告げると、タグザは悔しそうに唇を噛んだ。


 「編成は追って伝える。申告が終わったなら午後の巡回まで休めばいい」

 「……失礼、致します」


 憤然としながら立ち去るタグザを一瞥しダッツは鼻を鳴らす。


 「なかなか厳しいお言葉で?」

 「皮肉るなよ。嫌な気分だが事実だし仕方の無いことだ。バルツホルドの時は僕も君もスタさんに助けられたようなものだし、実際、僕の部隊は後方での後抑えだった。本当の負け戦というのを経験したことのない人物に最前線は任せられないさ。なあ、シルヴィア騎士長」


タグザについてゆかず部屋に残ったシルヴィアはじっとアーリィの瞳を見つめたまま頷いた。


 「差し出がましいようですが編成については聖堂騎士団の面々を中心に後方輜重に回し、冒険者とこれに当たらせるのが妥当と思います。ただ、それでは教会の面目が立たないことから私が選り抜いて前線に追従する人員を数人、配置したいと思います」

 「あからさますぎるな。タグザのような不満を持たれるぞ」

 「不得手ではありますが私が緩衝いたしましょう。本来、私とタグザはその役割を期待されているはずでしょうから」

 「助かる……が、いいのか?自分が下がることのできる機会を自ら無くすぞ?」


 シルヴィアはしばし逡巡してから述べた。


 「つきましては、お願いがあります」

 「なんだ」

 「……スタイア・イグイット準騎士を伝令として聖堂騎士に貸して欲しいのですが」

 「断る」


 アーリィは即答した。


 「スタさんは僕付きの当番兵として動いて貰う。聖堂騎士のお守りだけに専念させるわけにはいかない」

 「でしょうね。ですから、そのお守りに随伴させていただきたいのですよ」


 アーリィは眉を潜める。

 シルヴィアはほんの少し眉を上げてみせた。


 「フィルローラが君に伝えたのか?」

 「あらましは聞いておりません。フィルローラ司祭も今回の掃討戦には随行することくらいですが……それだけ知れば十分かと」


 アーリィは難しい顔で頷くと溜息を吐いた。


 「問題は彼が承知してくれるかどうかということなんだが……」


 シルヴィアはそこで苦笑した。


 「……承諾は得ています。よりどりみどりだから、是非にと」

 「彼らしい……が」


 アーリッシュは呆れかえるともう、考えるのを止めることにした。

 シルヴィアは溜息混じりに告げた。


 「下半身で生きてるゲスですね」

 「ああ、ゲスだ」


◆◇◆◇◆◇


 冒険者とは様々な技術を習得し、多種多様な依頼を受ける者達の総称である。

 だが実態は、今日明日を食いつなぐ浮浪者の総称である。

 急増した浮浪者対策として王室を通じ各組合が技術と仕事を提供を行い、これらのものに仕事を与える。

 だが、必要な仕事より冒険者の数の方が多い状況でもあった。

 少女はその酒場が冒険者の集まる酒場と聞いて、仕事について話が聞けるものと思ったのだが返ってきた返事は冷ややかなものだった。


 「コルカタス大森林の魔物掃討?やめときなさい。掃討といえば聞こえはいいですけど、実際は森の中で四六時中魔物に襲われるんじゃないかと思いながら延々と歩くことになるんですから。大森林の全部が魔物の巣ですからね。遠征といっても死人を出しながらだらだら歩くだけですよ」


 少女が尋ねた相手はこの店の店主だったようだ。

 仕事中の騎士の装束で配膳をするその姿はどこか滑稽だが、荒事を主とする冒険者の中に置けば、違和感を感じない。

 それどころか客の中には敬意を払うものもいるくらいであった。

 少女は店主に尋ねる。


 「森林を焼き払いながら進むというのはどうなのでしょうか?」

 「森林を焼く?冗談じゃないですよ。村を焼かれた人間が野盗になるのと同じで、すみかを追われた魔物は人里に降りて人を襲います。騎士団もバカじゃない。村を魔物に追われた人が野盗になるから、野盗鎮圧と魔物討伐と仕事が二つ増えるだけですよ――それより注文はどうします?」

 「このような店には来たことがなくて……これで適当にお願いします」


 少女が銀貨をテーブルに置くと店主――スタイアは苦笑した。

 丁度その時だ。


 「スタさんスタさん!見て見て~!!」


 ドアのベルをけたたましく鳴らしながらタマが飛び込んできた。

 白いなめし皮の鎧と膝の上で切られたズボンをはいている。

 腰に吊しているのは細身の長剣であった。


 「今度のお仕事は荒事だからね!ちょっと頑張ってみた」


 年としては少女とタマは同じくらいの年齢であった。

 少女も色々な冒険者を見るが、首にベルトを巻いて鐘を吊り下げているのははじめて見る。


 「あの鐘は?」

 「魔物除けですよ。魔物だって無差別に人は襲いませんよ。音がすれば当然、様子をうかがうし、たくさん人が居れば寄っては来ませんしね」


 スタイアは少女にそう答えてタマの鎧の留め具を点検していた。

 しっかりとした鞄を背中や腰に帯びさせ、それらがしっかりと固定されていることを見ると満足そうに頷く。

 そして、腰に吊した長剣を取り上げた。


 「これは持つモンじゃない」

 「高かったのに!」

 「モノは悪くは無いですがね。メリーメイヴは名槌ハイングの一人娘ですから」

 「知ってるの?」

 「僕の剣の研ぎ師をしてくれてますからね。タマちゃんだって僕の跡をおっつけて会ってきたんでしょう?だけど剣は覚えるモンじゃありません。これを使いなさい」


 少女の目から見ても、タマの長剣は業物に見えた。

 細く、軽く、それでいて硬くしなやかで繊細な意匠がこらされている。

 スタイアは腰に吊っていた短刀をタマに渡した。

 切り結ぶには少々心許ない獲物ではある。


 「森の中を歩く時、枝を払ったり仕留めた獲物を捌くくらいのことはできます。逆にそれ以上のことをしようとはしないことです」

 「でも、魔物に襲われたら戦わなきゃいけないよ?」

 「大人の男の人が勝てない魔物なんですよ?タマちゃんに勝てる訳ないじゃないですか。そんなときは逃げるのが一番ですよ」


 スタイアはそう言って長剣を鞘に納める。


 「剣の奥義を教えましょうか?」

 「あるの!?教えてくれるの!」

 「先手で殺せ、手数で殺せ、ダメなら逃げろ。そのためにみんな鍛えてるんですよ。タマちゃんみたいな子供が争って勝てる訳がない。僕とやりあってみます?」


 タマはしばらく考え込んで首を振った。


 「スタさんが言うこと、わかった」

 「偉い子だ。奥へ行ってラナさんを手伝っておいで」


 少女の目から見て、タマはスタイアにもの凄く懐いていることがわかる。

 丁寧でありながら含蓄のあるスタイアの言葉には確かに愛情があった。


 「……あの子も参加するのですか?」

 「あれでアカデミアで学ばせてもらってますからね。魔物を学ぶために参加しなさいと師匠に言われたらしいです。冒険者とひとくくりにされても楽な稼業じゃあありませんよ」


 少女は顔を歪めた。

 騒然とする店内に少女が目を走らせると腕自慢の荒くれ者がジョッキを打ち鳴らし昼から喝采を上げている。


 「今日は俺の奢りだ、飲め飲めっ!」


 あちこちで彼を褒め称える喝采が沸き、喧噪が酷くなる。


 「……ああいうものなんでしょうか」


 少女にとって奇異とも思える行為にスタイアは苦笑して返す。


 「命を的にして稼いだお金です。貯めたところで明日には死ぬかもしれないのが彼等の身上ですからね。ああした使い方になるのは至極当然です。まあ、僕も人のことは言えた義理じゃないんですがね?」


 店の奥で店主を疲れた瞳で見つめる女性――ラナが小さく溜息をついていた。

 少女はもの珍しそうに彼等を見回すとグラスを傾けた。

 雑なまでに甘ったるい果汁を口の中で転がすと、喉の奥に押し込む。

 お世辞にも美味しいと言えたものではない。

 そんな喧噪の中に場違いとも言える教会の司祭が姿を現し、少女は顔を逸らした。


 「おんや、フィルさんじゃないですか」

 「スタさん!これはあなたの仕業ですかっ!」


 もの凄い剣幕で怒鳴りつけるフィルローラにスタイアは眉を潜め、彼女の手にあった海草紙に目を落とす。


 「うっひょう。第七騎士団長付きの聖堂騎士団引率、混成隊調整役ですか。可愛い子食べ放題のポジションじゃないですか。やったね」

 「やったね、じゃありません!準騎士のあなたがどうして今回の遠征で私の直上になるのですか!アーリッシュ卿はスタさんたっての願いだとおっしゃってましたよ!」

 「あんれま。通るとは思わなかったんだけどなぁ。そこはそれ、日頃の行いがいいから神様もしっかりと見ていて下さって私にご褒美として御利益を下さったに違いない。そこはしっかり甘えて食べるだけ食べるどー」

 「そんな神様がどこに居るんですかっ!不謹慎にも程がありますっ!先に申し上げておきますが私の居る間に聖堂騎士の純潔は汚させは致しませんからね!」


 普段の大人しい様相からは想像できないくらいにフィルローラは激昂していた。

 少女はちびりちびり果汁を舐めながらその様子を横目で見つめていた。

 スタイアはどっかりと椅子に腰を降ろし、耳をほじくりながら編成表を改めて見直していた。


 「なら、フィルさんが僕の相手をして下さいな。僕が他の子にちょっかい出せないくらい足腰立たないように頑張ってくださればなんも問題ないじゃないですか。うっひょう」

 「なっ!」

 「それは冗談として騎士団はともかく、血の気の多い冒険者たちの群れの中にうら若き聖堂騎士団を置けばつまみ食いされても文句は言えないでしょうさ。最悪、叩き斬って魔物にやられたって言い張りゃいいのが現実でしょうから」


 フィルローラは言葉を無くし、憤怒に満ちた顔でスタイアを睨み付ける。


 「まんずまず、そうならないように押さえのきく人間が必要だったんでしょうさ。ましてや、今回はやんごとなきお方がご同道するというお話。まかり間違ってもその人に僕なんかがちょっかい出そうものなら教会にとっても面目が無いでしょうからね」


 一転して、フィルローラの顔から血の気が失せる。


 「あなたは……どこでそれを?」

 「クロウフル・フルフルフーはアカデミアに居た頃の僕のお師匠さんでしてね。今でも懇意にさせて頂いてますし。それにほら、フィルさんは気がついていないでしょうけど、やんごとなきお方がこちらにおわしますからね」


 スタイアはそう言って少女の頭をぽんぽんと叩いた。


 「知っておりながらとは……無礼じゃな」


 フィルローラは少女の顔を見て、一気に蒼白になった。


 「アルテッツァ公……にございますか?」


 スタイアは片目を瞑りフィルローラに声を落とすように示した。


 「……まんずまず、ヨッドヴァフ三世の一人娘が昼間っからこんなガラの悪い店に出入りしてるとあっちゃお国問題ですからぬ」

 「ガラの悪い店の店主が何をほざきおるか」


 少女は鼻で笑った。

 フィルローラは恐縮し膝を折ってかしづく。


 「……恐れながらアルテッツァ公、このような場所に入り浸り御身になにかあれば国家安寧はいかがなされますのでしょうか。犬を用意いたします故に――」

 「膝をつくな。時と場をわきまえよ」


 少女――アルテッツァは尊大に言い捨てると膝を折っているフィルローラを睨み付けた。

 フィルローラは急ぎ立ち上がると居住まいを正す。


 「案ずるな。先程から手の者が店のまわりで息を潜めておる。私の身になんぞ起こせるとしたらそこの男くらいなものだ」


 アルテッツァがあごでスタイアを示すとスタイアはいたずらめいた笑みを浮かべた。


 「子供に手を出すほど僕も飢えちゃいないのでご安心を。外に四人、中に一人ですか?随分とまあ、念の入ったお散歩ですことで」

 「なんだ、わかるか。レオ・ウォン・フィリッシュがお前を買うのがわかるな」


 スタイアはその名前を聞いて露骨に顔を歪めた。

 フィルローラはおろおろと二人の顔を交互に見渡し、記憶を辿る。


 「あの、レオ・ウォン・フィリッシュとは……近衛騎士長のフィリッシュ卿のことでございましょうか?」

 「他に誰が居る。私に声をかけられるものなのど、フィリッシュとお前の父、クロウフルのじじいくらいしかおるまいて」

 「曲がりなりにも王女様ですからね」


 スタイアはそう告げて店の中に視線を巡らす。

 バカ騒ぎをしていた連中が、ほんの僅か、ほんの僅かだが静かになった。


 「なかなか、腕も立つようだな」

 「星の数よりパンの数って言いますからね。生き残るには強い人間に従うのが一番だという哲学は王女様でも理解しているでしょうに」


 アルテッツァは苦笑してグラスを干した。


 「……この喧噪もただのバカ騒ぎではないということか」

 「バカ騒ぎですよ。無粋な真似をされてもまた、興ざめするでしょうし営業妨害なんですよ。もし、本当に乗り込んでくるなら王女様の首を刎ねてしまえばいいわけで」

 「スタイアさんっ!不敬ですっ!」

 「フィルさん何を言ってるんですか。王女様がこんなところにいらっしゃるわけがないでしょうに」


 スタイアはけたけたと笑うとアルテッツァの頭をぽんぽんと叩いた。


 「……怖い男だな。私が仮にここで死ねば国がそれを許さないことまで知っているか」

 「物事ってのは収まりたい場所に収まるものらしいですからね。さて、王女様。こちとら忙しいものでして用件があればお早めに済ませてくださると助かるんですが」


 アルテッツァは不敵に笑う。


 「一つは済ませた。直衛となる騎士の品定め。お前では間違いはあるまい」

 「あんれま、お褒めに預かり身に余る光栄」

 「もう一つは今回の遠征の実態を知ることだったのだが……存外、遠征自体が迷惑な話のようだな。貴様の言葉を借りれば物事は収まる場所に収まる、か?魔物を駆逐すること自体がかえって魔物による被害を増加させるのであれば適当に力を抜いてつつがなくというのが本音なのだろう」


 スタイアは小さく溜息をつく。


 「こりゃまいった。タマちゃん並に頭がいい。今時の子供ってみんなこう頭がいいモンなんですかね」

 「茶化すな。魔物がいくら増えたとはいえコルカタス大森林より出てこぬとなればわざわざ危険を冒して掃討する必要もあるまい。なれば何故、それを行わねばならん?」


 スタイアはじっとアルテッツァの瞳を見つめる。

 アルテッツァはその瞳を黙って真正面から受け止めた。


 「……物事は収まりたい場所に収まる。だけど、人間は収めたい形に収めたい。危険を冒してでも得られる利益があればそれはいかがですかね?」

 「どういう意味だ?」

 「それを知るために今回の遠征にひっついて行くんでしょう?タマちゃんだって自分の足で調べようとしているんですよ?」


 アルテッツァは鼻を鳴らし、鷹揚に頷いた。


 「スタイア・イグイットか。色々と切れるな?」

 「ありあとあんす。王族ともなるとうまいことをおっしゃるようで」


 スタイアは軽く会釈をすると憤然とした様子で仁王立ちしているフィルローラに視線を移す。


 「わお、おっかない」

 「……スタイアさん。教会までご同道願えますでしょうか?」

 「お説教ですか?」

 「どうやら私がしっぽりとお相手なさらないと満足しないようでっ!」


 否定を許さない威圧感を出しながらフィルローラはスタイアの耳を引っ張っていた。


 「ふむ、どうやらお邪魔のようだ」


 アルテッツァは苦笑すると金貨を一枚カウンターの向こうに放ると一人で店を出てゆく。

 一瞬だけ目があったラナがじっと自分をみつめていることが気になったが、何か言うようなことはしなかった。


 「ラナさん、助けて下さいよぉ~」


 どこか嬉しそうににやにやしているスタイアが店から引っ張られていくのを眺め、ラナは大きく溜息をついた。



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