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Dingon・Dingon~『誰が為に鐘は鳴る』~  作者: 井口亮
第一章 『ヨッドヴァフの魔王』編
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第2章 『鉄の理、英雄の果て』 1

 ヨッドヴァフ王国首都グロウリィドーンの片隅にリバティベルはある。

 冒険者と呼ばれる人種が集まり喧噪を響かせる、あまり品のいい酒場ではない。


 「でも、お昼は結構、身なりのいい人が来るんだね?」


 給仕の少女が客をつぶさに観察しながら店主に尋ねた。


 「コックの腕がいいんですよ。たまーにお忍びで貴族の娘さんとかもやってくるんです」


 厨房で店主であるスタイアが珍しく包丁を握っていた。


 「それをスタさんが逆に食べる、と」

 「タマちゃん、僕もそこまでやったらおっかない人に食べられちゃいますよ」

 「おっかない人ってラナさん?」


 タマと呼ばれた給仕の少女はにやりといやらしい笑みを浮かべる。

 店の奥でテーブルを拭く女将が静かに店主であるスタイアを見つめていた。


 「……怒ってらっしゃる?」

 「怒ってない」

 「だって?よかったねースタさん」

 「やれやれ」


 タマはやりこめた喜びにくるくると回る。

 短いズボンにシャツを着てサスペンダーで止めているその身形は、男の子にも見えなくは無い。

 まるで犬猫のようにつけられた鈴つきの首輪と、夏になるというのにつけられた厚手の手袋が印象的だ。

 子供らしい愛らしく利発的な顔が客に元気を与える。

 チリンと澄んだ音を立ててドアが開く。


 「いらっしゃいませ!」


 タマが明るく声を上げると、客の顔もほころんだ。


 「スタさんは居るかな?」


 常連の客は店主をスタさんの愛称で呼ぶ。

 カウンターに腰掛けた青年は一目見て、貴族の出とわかる綺麗な身なりをしていた。

 タマはその中にほんの僅かに厳しいかげりがあるのも見逃さなかった。


 「スタさん、お客さんだよー?」


 だが、客に立ち入ることをしないのも商売に必要なことである。


 「……おんやあ、アっちゃんじゃないか。今日は当直司令じゃなかったっけ?」


 その客はスタイアが所属する第七騎士団団長のアーリッシュ・カーマイン卿だった。


 「昼休みくらい、自分の好きな場所で昼食をとってもかまわないだろう?」

 「随分と遠出してきたねえ。どれ、東方のコンルゥから面白い物が届いてたんだ。ちょっとこさえてみましょうかね?」

 「あの、灰色の細長くて塩っぽい、ソーヴァとかいう奴かい?」

 「残念、似て異なるけどウドゥンという奴だ。僕はソーヴァの方が好きだけど、これもなかなかイケるんだ」


スタイアはスパゲティパスタよりは太い白いパスタみたいなものを鍋で湯がく。

 ほどなくボウルに盛られた白い麺がカウンターに現れる。


 「あの黒いスープは無いんだ」

 「魚を日干しにして削ったものと薬味をさっとまぶして、生卵を載せたらさっとショユをかけて食べるんですよ」

 「なんだか、気持ち悪いな」

 「下町の食べ物らしいですからね」

 「いただくよ」


 ボウルを手に取ると、肘をカウンターに載せ、フォークで乱暴に絡めると音を立てて食べ始める。

 タマは一見して、貴族らしくない振る舞いに見えたが、料理の姿形からしてこの食べ方の方が堂に入っていると見えた。


 「いいね。最近、暑くなってきたからこういう冷たい食べ物は美味しく感じる。僕らから見れば一見してグロテスクだけど、なかなかどうして。塩っからいスープに魚の日干しの香りが載って、卵の甘さが引き立つ。薬味が生臭さを消して青さがふっと香るあたり、芸術だね。それに、これ、麦で作ったパスタかな?腹持ちもよさそうだし、コンルゥって国は下町ですらこういったものを食べてるのか」

 「さすがわかる人はわかってくれるねえ。出した甲斐があるモンですよ」

 「……こういうのが好きなのは手間がかからないからだろ?」

 「へっへっへ。わかります?楽して旨くて無駄が無いってのはいいことですよ」


 スタイアは満面の笑みで答える。

 アーリッシュは掻き込むようにウドゥンと呼ばれる料理をたいらげるとボウルをカウンターに戻した。


 「これも、足りなければ二杯目かな?」

 「それがイキと呼ばれる食べ方だそうで」

 「貰おう」


 ボウルを下げるタマがオレンジの果汁をサービスで出すと、アーリッシュはそれを舐めながらその後ろ姿を見る。


 「……元、泥棒かい?」

 「タマちゃんですか?ええ、そうですよ。よくわかりましたね」

 「鈴にしろ、手袋にしろちょっとおかしいからね。犬猫じゃあるまいし、首輪に鈴なんて奴隷そのものだし、かといって、手袋なら指が自由なものを使わなきゃ不便だ。染みついた盗癖を抜くのにああいった手袋をつけさせているんじゃないかなってね」

 「……わかっちゃうモンですかね」

 「誰が見ても、とは言い難いが不自然に過ぎる」


 アーリッシュは苦笑する。


 「アっちゃん、本当に昼飯だけ食べに来たんじゃないんでしょう?昼休みったってそうそう時間があるわけじゃないんだし、本題切り出してよ」

 「その時間をくれる為にわざわざすぐ食べれるような物作っておいてよく言う」


 スタイアとアーリッシュは苦笑しあうと続けた。


 「まだ、ビリハム邸の事件を気にしてるのかい?」

 「ああ、賊の侵入と片付けるには不審な点が多すぎるんだ。邸宅内の物には何も手をつけられていないし、護衛は魔物にやられたのではなくて明らかに人間の手によって殺されている。邸宅に残された魔物と邸宅地下に建造されていた祭壇は何の目的で作られたものか。わからないことだらけだ」

 「ビリハム卿が奴隷売買をしていたことが明るみに出て、そっちのスキャンダルが大きくて事件そのものが隠れたことが気に喰わなさそうだね」

 「ビリハム卿が何者かの手によって殺されたかは僕にとって問題じゃあない。問題は魔物がグロウリィドーンに居たことの方が重要なんだ」

 「へぇ」


 スタイアは洗い物をする手を僅かに止めた。


 「戦で僕ら騎士が戦うのはいつだって最後なんだ。それまでに多くの調略が行われて、勝てるとなった時、初めて大義名分の為に軍を出す。完全に勝てるという状況にならない限り、兵は出せない。それは犬死にという奴だからね」

 「負けるとわかってるのに兵隊出すのもそれじゃあおかしな話になる。それなら戦争は起こらないですね」

 「滅ぶ国家の矜持、食べさせて貰った人への血での贖罪、負ける側も綺麗に負けなければならない。個人の感情を抜きにして、戦わずして滅んだ国の民が長く生きられることは少ない。恨みというのはそれだけで相手の国への釘になる」

 「なるほど、占領されても無下に扱えば酷いことになるぞって話ですか」


 スタイアはニコニコしながら相槌をうった。


 「数はそのまま力になるからね……っと、スタさんは話が上手いからはぐらかされる」


 アーリッシュは軌道がそれた話を元に戻す。


 「魔物がグロウリィドーンに居るということは、彼らがヨッドヴァフに調略をしかけていると見るべきだと僕は言っているんだ」

 「魔物が?冗談でしょ、彼らは社会的な生き物じゃあないはずだよ。どちらかというと獣に近い」

 「そうじゃない可能性もある。いや、むしろその可能性の方が強いと僕は思う。僕ら人間より知性の高い魔物が存在したっておかしくはない」

 「なんでまた」

 「そうでなければ、自分らに害をなす人間の集まるグロウリィドーンには近寄らないし、ましてや内部に入ろうとは思わない。人間と共生できる獣しか、人の住む町では生きていけないからさ」


 アーリッシュはそこまで言ってスタイアを見上げた。

 スタイアはしばらく考えてから言葉を続けた。


 「本質は得ていると思っていい、がしかし、本件には関係無いよ」

 「そうか」 


アーリッシュはどこか落胆して肩を落とした。

 入り口のドアの鈴が来客を告げる。


 「おんやまあ、フィルさんじゃないですか。珍しい客もあるモンですね。僕に会いに来たんですか?そのままベッドに行きましょうよ」

 「昼間から不謹慎な」

 「昼じゃなければOKですかっ!いやっほぅっ!」

 「そういう問題じゃありません!アーリッシュ卿にお話したいことがあって探していたところです。こんな場末の飯場で昼食をとられていらっしゃればよからぬ噂を立てられてしまいますわ」


 フィルローラは店内をぐるりと見回して怪訝な顔をした。

 ラナと目が合うが、ラナは素っ気なく目を逸らすと店内の掃除に戻る。


 「丁度いい。フィルさんもウドゥンを食べていかないですか?スタさんがコンルゥから取り寄せたモノなんだが、暑気払いにはいいものだよ」


 アーリッシュがボウルを掲げると、フィルローラはいよいよもって怪訝な顔をした。


 「……信じられません、巣の中でのたくうホワイトワームみたいな食べ物を美味しいだなんて」

 「残念だ。スタさんはこう見えて結構、料理が上手なのに」

 「奴隷やってたときも、兵隊やってたときも飯だけは作らされましたからね」


 スタイアは自嘲気味にそう言うと厨房に引っ込んだ。


 「それで?相談事というのは?」

 「あの……こちらで話されるのですか?」


 フィルローラはしきりにスタイアを気にしている。


 「構わない。こういう場所でああいう人間だ。聞いて貰っていた方が何かと知りたいことについて気に止めておいてくれる。それとも、僕が信じている友人を君は信じられないというのかな?」

「ですが……」

 「それに、昼の休憩時間帯まで仕事をする熱心さは感心するが、僕は休むツモリでここに来ていてね。まだ、デザートを食べていない」

 「そんな……」


 厨房を楽しげに見ているアーリッシュの姿にフィルローラが絶句する。

 厨房ではスタイアがそのデザートを作り始めているところだった。

 丁度、その時、シルヴィアが店のドアを開いた。


 「……おや、アーリッシュ卿ですか」

 「君も昼食かい?」

 「いえ、私は自炊しておりますので……食後のスィーツでもと」


 シルヴィアはためらいなくアーリッシュの隣に腰掛ける。


 「……シルヴィア聖騎士、あなたも?」

 「タグザの分も頼まれまして。常連となっております」

 「ですが、教会の聖堂騎士、それも聖堂騎士長のあなたが自ら進んでこのような場所に……」

 「スタイア隊長のスィーツは結構、有名ですよ?フィルローラ司祭はスタイア隊長がお嫌いのようで」


 シルヴィアに言われ、デザートを運んできたスタイアが苦笑する。


 「品行方正に生きているはずなんだけどなぁ……ほい、どうぞ」


 皿に載せられていたのはスタイアが作ったとは思えない綺麗な花だった。

 黄色の花びらが黒い小皿に映える。


 「練り菓子をちょいと刻んだモンだけど、どうだい。なかなかイケるだろう?」

 「ボサラタージュの花ですか。綺麗ですね」


 シルヴィアがほおばるのに習ってアーリッシュもフォークで花びらを刻む。


 「……砂糖菓子、だがはらりと口の中でほどけるこの食感」

 「ほのかに香る、青っぽさは……ミントですか?いや、でも、花の香りが」

 「練り菓子の素材については勘弁しておくれい。ただ、隠し味はオレンジの皮を絞った汁でもって香りをつけて、ミントを混ぜただけさ。種明かしをすればなんのこたぁないですよ」


 いたずらをバラす子供のような顔つきで語るスタイアには目もくれず、二人は砂糖菓子をフォークに載せる。

 ラナがそっと紅茶を添える。

 あまりにも幸せそうにほおばる二人の姿に、フィルローラはフォークを伸ばす。


 「さて、お楽しみのところ悪いがフィルさん。今、第七騎士団で捜査中の魔物の事件の話じゃないかな?」

 「……え、あ?はい!」


意地悪そうなスタイアの笑みに一瞬たじろぐも、咳払いをして座り直す。

 スタイアはそんなフィルローラを面白そうに見ながら先を続けた。


 「この王都で夜な夜なか弱い女性や子供を狙い、魔物が襲いかかる。とりわけ、今のところ大事に至る前に巡回中の騎士によって駆逐されている現状だけど、出所が問題だって話だよね」

 「……朝礼にも出られないのによくご存じで」

 「ウェストグローリーロードの酒場の女の子達の間じゃあこの話で持ちきりだからね。帰るに帰れないからお持ち帰り!って僕にとっちゃあ美味しい状況なんだ」

 「……っ他人の恐怖につけ込んでそのような振る舞い、恥ずかしくないのですか!」


 憤るフィルローラに苦笑で返し、スタイアはアーリッシュを見る。


 「……しかし、いつまでも放っておくわけにゃあいくまいさ」

 「そうだな」


 フィルローラはもう一度、咳払いをするとアーリッシュに向き直る。


 「第三騎士団のオズワルド卿にお話をお伺いしましたところ、魔物自体はいずれも危険性は低いものの、繁華街を中心に出没するそうです。雨の日は特に出る傾向が強いとか」

 「ふむ」


 アーリッシュは砂糖菓子を口の中に押し込むと、考える。


 「何者かが何かの目的でもって意図して行っている、と見るべきか」

 「やはり、そう思われますか」

 「目的まではわからないが……いずれにせよ、放っておけるものでも無い。魔物討伐から帰ったダッツ小隊を巡回の編成に組み込んで警戒を厚くする。フィルローラ司祭は聖堂騎士と騎士団の編成についての調整を図って下さい」

 「心得ました」


 アーリッシュは一度、スタイアをちらりと見る。


 「スタさん、今日の昼に時間は空いているかい?可能であれば、訓練時間を設けたい。我が隊から殉死者を出すのは忍びない。厳しくやって欲しい」

 「僕が?冗談でしょう。おそれおおくも僕は準騎士ですよ。正騎士や聖堂騎士長が居る中で僕が出張っちゃ成り立つものも成り立ちはしない」

 「騎士は強くあらねばならない、そう言ったのは君のはずだが?」

 「そりゃそうでしょう。騎士は戦うのがお仕事ですからね。戦えなかったらお仕事になりませんでしょうに」

 「なら、戦えるようにして欲しい。長い平和で誰もが死ぬことを予想していない」

 「ダツさんに頼む方がいい。魔物討伐を積極的に引き受ける彼らの部隊は練度が高い上に、強い人が多いからね」

 「だからこそ、彼らを巡回に回す。いつ遭遇されても彼らならば死ぬようなことは無い」

 「ふむ。確かにそっちの方がいいか……」


 スタイアはひとしきり考えてから、もそもそと菓子の残りを口に運んでいるシルヴィアの肩を叩いた。


 「んぐっ!」

 「シルちゃん、任せた」

 「はい?」

 「元、スタイア隊の実力、存分に発揮しておくれ」

 「……なんだか、嫌な役回りをやらされているような気がしないでもないです」

 「騎士団と聖堂騎士団の合同運用には未だ反感を残す者も少なく無い。その中でも聖堂騎士団に女性が多いというのがみんなの思いだよ。なら、その女性騎士筆頭の君が実力を振るうことで誰しもが女性は戦えるものだと知ってくれる。これはチャンスだよ」

 「という言い訳で、面倒事を私に押しつけるわけですね。いいですよ。やりますよ。ただし、後で酷い目に遭わせますからね?」

 「やったね!これで、楽できる!」


 スタイアは小躍りしながら喜び、そそくさとエプロンを外す。

 ラナが渡したチェインメイルに袖を通しながらうきうきとしながらヘルムを被った。

 アーリッシュが怪訝な顔をする。


 「……スタさんが昼から仕事をするツモリでいる」

 「聖堂騎士団の夜巡組には十分注意するようにあとで言っておきます」


 スタイアが苦い顔で笑う。


 「あのねえ!お金の出ない仕事なんてするわけないでしょうに!ちょっとばかし人に会う約束があるからこうしてめかしこんでるんじゃないですか」


 フィルローラが怪訝な顔をする。


 「……また教会の修道士をたぶらかしたのですか?」

 「聖堂騎士の若い子かもしれません」

 「どこぞの貴族の令嬢かもしれない」

 「どれも外れ、大学に顔出すんです。怪しい身なりじゃ入れるような場所じゃないんできちんとした身分をたてれる格好が必要なんですよ!」


 皆がそろいもそろって、怪訝な顔をした。


 「学術に励む子女をその毒牙にかけるツモリですか?」

 「女子の生態の学術的考察とか言い訳を並べるんですね、わかります」

 「大学はちょっとなぁ……僕もフォローしようがない」

 「酷い言われようだ!僕だって真面目だった時期があるんですよ?その頃には学士号だって取って、未だに大学の名簿に名前を残して貰ってるんです。その時の恩師に会いに行くのになんだってここまで言われるんですか!」


 フィルローラが驚いてアーリッシュを見る。


 「本当なんですか?それ」

 「大学での不祥事はね。騎士団と管轄が違うしツテも無いから何かあったときは本当にフォローできない」

 「じゃなくて、スタイアさんが学士号を取ってらっしゃったって話です。学吏ならともかく学士といえば何らかの成績を修めない限り、取れるようなものでは……」

 「ん?スタさんは教授になる一歩手前くらいまでは行ったはずだが?」


 スタイアが大きな溜息をついた。


 「まあ、その前に色々と悪さしたのがバレちゃいましてね。学士号を取り上げられて学吏に落とされた訳です」

 「女癖が悪いからだ」

 「……やっぱり、女性がらみで問題を起こしてるんですね」


 シルヴィアがしみじみと頷く。


 「今日は昔の女に会いに行くんですか?」

 「恩師に会いに行くんですよ」


 スタイアが視線を巡らせた先で、タマがラナからカバンを背負わされていた。


 「似合ってるじゃないか」

 「……本当に行くの?」

 「勉強はしておきなさい。知識が知恵になった時、生きていく最大の助けになる」


 不安そうな顔をするタマの頭にスタイアは手を載せる。


 「じゃあ、ラナさん、後は頼みます」

 「はい」


 そのまま手を繋いで店を出て行った。

見送った三人は互いに顔を見合わせる。


 「あの子はスタイアさんの子供ですか?」

 「……最近雇った給仕だという話ですが」


 フィルローラとシルヴィアにアーリッシュが答えた。


 「違うね。実の子供じゃあないよ。スタさんは自分の子供を作れない人だからね」

 「え?」

 「……一度、死ぬことを覚悟した人間は自分が生きていなければならない責任を避ける。だから、あんなにも真面目なんだろう」


 アーリッシュがスタイアを見る目にどこか寂しさを覚えながらも、フィルローラは胸の中がちくりと痛む。


 「私、また、無神経なことを言いました?」

 「スタさんは思ってるより、律儀だよ。だけど、もう少し、仕事に身を入れてくれると僕が助かるんだけど……かなわない、か」


 敵う、叶う、どちらの意味で言ったのだろうか考えながらシルヴィアは溜息をついた。

 ラナが溜息をつきながら呟いた。


 「……皆様、お時間の方はよろしいので?午後を告げる鐘はとっくに鳴っておりますが」

 「「あ」」


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