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Ⅰ-④

「北原さんも休憩に行ってきてね。二人のどちらかが帰ってきたら僕が休憩に入るから。」


松本課長は上っ面だけの優しそうな声でそう言った。顔を上げると柔和というよりもまぬけな顔でこちらを見ている。私がその言葉に少し腹を立てているとも気付かずに。


基本的に三人で構成されている総務課の事を、彼は全て知り尽くしていた。知り尽くしてなお、高野さんに注意する訳でも、私に助言する訳でもなく、ただただ傍観し続けていた。それが彼のスタンスであり生き方だからだ。だから私はそこに救いを求めているわけではない。しかし、私は休憩時間を削ってでも仕事を片付けて、帰宅時間を早くしたいタイプの人間だった。仕事の総量が変わらないならば、休憩時間を削ればその分だけ終了時間が早くなる、簡単な引き算だ。だから松本課長が何もしてくれないのなら、せめて私のやり方に口を出さないで欲しい。いつものことながら、いつも通りに腹が立つ。


私は無言でパソコンをロックして席を立った。そしてオフィスを後にし、屋上を目指したのだった。




屋上は会社の中で私が一番好きな空間だ。とは言え、見晴らしが良い訳では決してない。むしろ屋上から見えるのはネズミ色のコンクリートの同じようなビルばっかりだ。風情も何もあったものではない。だけど、だからこそ人が寄り付かず、ひっそりとしていて私好みなのだ。


私の働いている東山証券の名古屋支店のオフィスは、テナントとしていくつかの会社が入っているビルの一階と二階を間借りしている。ビルの中には、中で働く人のための社員食堂のような大衆食堂もあり、大抵の人はそこで簡単に昼食を済ますのだが、お金の無い私には無縁の場所だった。


私はいつも屋上の日陰で、簡単に作ったお弁当を一人で広げる。いや、広げるという表現も不適切だ。ご飯と昨日の夕飯の残りの煮物だとか、サラダだとかを詰めてくるだけのとても質素なもので、広げられるだけの面積はないのだから。しかし私にはそれで十分だった。昔から貧乏で質素な食事に慣れてきたためか、空腹を苦痛に感じた記憶はほとんど無い。ただ、先に体の方が音を上げて、頭痛やめまい、立ちくらみがすることは少なくなかった。


とにかく、私は質素で少ない昼食をできるだけ早く食べて仕事に戻ることにした。休憩は就業規則では1時間と決まっていたが、1時間取れたことなどただの一度も無い。


「そりゃゆっくりと休みたいけどさ…」


むなしい呟きは屋上から見えるコンクリートと青空に吸い込まれていく。

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