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Ⅴ-③

…更に時間が経ったようだ。


日付や時間の感覚はとっくに麻痺してしまっていたが、借金取りのドアを叩く音が聞こえなくなったのが気になる。もうあきらめてしまったのだろうか?それとも今が夜中なのだろうか?いや、そのどちらでもない。多分私の耳が機能を失いつつあるのだろう。目がかすみ、思考が濁ってきており、もう立ち上がる力すら残っていなかった。


恵はというと、黙々と描き続けていた動作をやめボーとしている。おそらく私と同じような状態なのだろう。最後に描いた絵が何だったのかが少し気になる。満足のいく絵がかけたのだろうか。


 多分私たちはこのまま死んでしまう。


餓死してしまう。


皮肉なもので、名前とはうらはらに希望を持てなかった私は、恵まれなかった妹と一緒に死んでいくのだ。


しかし、一つだけ私の中で死について予め決めていたことがあった。


信仰上自殺はしないと。


この餓死は自殺には当たらない、それが私の出した結論だった。一生懸命がんばったつもりだ。一生懸命生きるための努力をした。それでもこのような結果になってしまったのは不可抗力であり、いわば私は社会に殺されるのだ。他殺であれば不殺生戒を破ることにはならない。そう考えることで自分の中に答えを出すことができたが、それと同時に社会に殺される無念さ、怒りが、今まで我慢してきたものが今になって噴き上げてきた。そう、いつ割れるかわからない風船が今割れたのだ。


泣き言は言わないつもりだった。


言っても仕方ないし、みっともないから。


でも何も残さずに死ぬのは悔しい。


 私は残された力で、どこのだか分からない古ぼけたチラシと使い古したボロボロのシャープペンシルが近くに転がっているのを認識し、力を振り絞って引き寄せた。


そしてチラシ裏面にこう、書き記した。




「死んでやる」




震える手で描いた文字は踊り、いつも心がけている丁寧さはかけらも残っていなかったが、それでも一つだけ、たった一つだけ私の気持ちを残すことができ満足した。


そうか。


恵もおそらく同じような内容の絵を最後に描いたんじゃないだろうか、と今になって気が付いた。



 恵だけでも助けなければならない。


私の心の中に、ある一つの決心がついた。

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