Ⅳ-②
それに伴って、私の会社での居場所は本当に無くなってしまった。もともと社交的な方ではなかった私だが、借金の件が取り立て屋からの電話で明るみに出てからというもの、元から冷たかった高野さんの態度は、私をゴミでも扱うようになり、比較的やさしかった松本課長や高橋課長、新山支店長でさえ私を腫れものでも触るような、厄介者として扱っているのが目に見えて分かった。
そして一番悲しかったのが、春川君とのことだった。会社での居場所が無くなった私だったが、春川君だけはそれでも前と変わりなく接してくれた。時には他の社員が私の悪口を言っているのを止めてくれているのを見かけることさえあった。そんな優しさに心の拠り所を失いつつあった私が甘えてしまったのがいけなかったのだろう。
それはある日の昼休みの事だった。私はいつものように一人で屋上で質素なお弁当を食べていた。お弁当のグレードはもともと低かったものがさらに低くなっており、手作りのおにぎり一個や、バナナ一本など最低限の栄養も取れていない状況が続いていた。そんな時、突然屋上に春川君がやってきたのだ。
「あっ、いたいた。北原さんの事探してたんだ。良かったら一緒にお弁当食べようよ。」
彼は営業で忙しくしている身ながら、わざわざ時間を取って私に会いに来てくれた。口では偶然のように言ってくれたが、いつも仕事の状況を見ている私にはそれが分かり、とても嬉しかった。
「そんなのでお腹いっぱいになるの?良かったら俺のこれあげるから食べなよ。俺が作った訳じゃないけど、調理師の免許持ってるお袋が作ったやつだからきっとおいしいよ。」
私の隣に座って弁当を広げてくれた春川君は、そう言ってそっと私にレンコンとエビと牛肉のカレー煮(ちゃんとした名前があるのかもしれないが、私はそれを知らなかった)を私の弁当箱に移してくれた。
「ありがとう…」
そう言うことしかできなかった。
すぐに一口食べてみる。
おいしい。
言葉に出来ないほどおいしかった。
味付けが上手というのもあるが、それ以上に彼の優しさが染み込んでいてこの上ない程おいしかった。
「おいし…ぃ」
言葉に詰まってしまう。




