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Ⅱ-⑧

恵は幸せだった昔の記憶がまた未来で起きるように、そう願ってこの絵を描いていたのだ。そういえば最後にみんなで外食をしたのはいつのことだろう?もう分からないくらい昔の話だ。そんなことを思い出して絵に描いたのは、満足に食事をとることができていない現実だけでなく、今日私が春川君と一緒に一人だけどこかに出かけて行ったこと、が少なからず原因になっているのだろう。私は口には出さなかったけれども、いや、出せなかったけれども、心の中で


「恵、お姉ちゃんだけ一人でおいしい物食べてきてごめんね。本当にごめん。」


と頭を下げた。そんなこととはつゆ知らず、恵は自分の絵を誇らしげに高らかと掲げて無邪気に舞い上がっている。今日は恵と一緒の布団で寝よう。沢山かわいがってあげよう。私はそう心の中で決めていた。


「恵、もう遅いから今日は寝なさい。続きは明日描けばいいから。私も今日は早めに寝るわ。後で恵の布団に行くから先に行ってなさい。」


そう言うと


「やったあ。お姉ちゃんと一緒だぁ。うれしいな。うれしいな。今日は寝られるかなぁ??」


恵はとてもうれしそうな声で歌いながら駈け出した。布団を用意しに向かったようだ。喜んでくれて良かった、と内心少しほっとしていた。


お母さんはやはりもう眠っていた。寝息を立てているのが小さい音ながら聞こえてきた。 私はお母さんにも心の中で、一人だけ楽しい思いをしてきたことに対して頭を下げた。聞こえるはずはないのだが、お母さんの小さい頭が、まるで聞こえたかのようにタイミング良くこちらを向いた。化粧をしていないのに、とても静かで美しい寝顔だった。


私は台所に行き、いつものように薬箱から薬を一袋取り出した。そして薬を口に含み、ゆっくりと水道水の水と一緒に胃に流し込んだ。


のど元を通るゴクリという音がやけに大きく聞こえたような気がした。


今日という日の幸福も、願望も、現実も、哀愁も、後悔も、全て全て薬と一緒に流し込んだのだ。


きっとこの味のない薬は、全ての気持ちを包み込んで作用し、いつもの朝をいつもの気持ちで迎えさせてくれるだろう。


そう願って、眠るために恵の待つ布団に向かってゆっくりと歩を進めた。

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