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Ⅱ-⑦

私は妹をかわいらしいと褒めてくれたことが嬉しくて、心からのお礼を言った。


「ありがとう。そしてごちそうさま。素敵な話が沢山聞けて本当に楽しかったわ。また明日ね。さようなら。」


会心の笑顔を作って彼に別れを告げた。そして、一人の夜道を歩き始めたのだった。おそらく彼は私が視界から消えるまで見守っていてくれるだろうが、私は決して振り向かなかった。振り向いたら彼に余計な期待を持たせてしまうような気がしたから。


二人で歩く夜道と一人で歩く夜道は全く別物のように感じてしまう。例えるならそう、子供の頃通いなれた通学路が、大人になって見ると全く別の道と感じるような、未視感ジャメヴというやつだろうか。風も心なしかさっきより冷たく強く吹いているような気がする。このあたりはお金持ちの住む閑静な住宅街だからまだいいが、うちの近くはもっと寂しい気持ちになるのだろう。私は決して負けない強い心で、恵と母の待つ家を目指し歩き続けた。




家に着くとすぐに、相変わらず郵便箱からはみ出した督促状が目に入り、春川君と過ごした幸せな気持ちは奪い去られてしまった。しかしこれが現実だ。いやこれも現実だ。それに私一人だけ幸せになるつもりは毛頭ない。恵やお母さんと一緒でいい。一緒だからいい。


出来るだけいつもと変わらない調子で玄関の扉を開けた。中に入ると、いつものように恵がスケッチブックを膝に抱えて、パジャマ姿で座って絵を描いているのが見えた。かなり集中しているらしい。私が帰ってきたことに気づいていないようだ。お母さんの部屋の電気は消えている。もう床に就いているようだ。私は恵にだけ気が付くくらいの声で、


「ただいま。」


と言って靴を脱ぎ、歩を進めた。恵の首がこちらを向き、ほつれたボタンのように緩んだ笑顔で迎えてくれる。


「お姉ちゃんお帰りぃ。」


恵はスケッチブックを持ったまま立ち上がり、トコトコと玄関まで私を迎えに来てくれた。やはりかわいいな、と思いながら恵の頭を撫でる。


「何描いてたの?」


「今日は、お姉ちゃんとお母さんと私の三人がレストランでお食事してること描いてたの。前に行ったでしょ。でも今描いてるのは10年後のことだよ。」


相変わらず理解に苦しむ日本語だが、慣れている私にはすぐに意味が理解できて、だからこそ目頭が熱くなった。

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