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Ⅱ-⑤

彼はとても悲しそうな声でそう言った。おそらく本心なのだろう。涙こそなかったが、悲しそうな瞳を向ける春川君は、王子様と別れるサン=テグジュペリを想起させた。


「…」


返す言葉が見つからず、私が黙っていると、


「訳わかんないこと言っちゃってごめんね。北原さんは何故だか分からないけどきっと分かってくれるって、そんな気がしたんだ。」


 春川君が続けた。そう言う彼の瞳はとても澄んでいた。彼はきっと根はとてもいい人なのだろう、なぜだか私にはそう思えた。




 私たちはコーヒーを飲み終え、店を後にした。伝票は約束通り彼が持って行ってくれた。私は彼の優しさに甘え、財布は出さない。もちろん払えるだけのお金を持ち合わせていないのだが、それ以上に払うつもりもないのに、財布だけ取り出し払うふりをするような嫌な女にはなりたくなかったからだ。


「ごちそうさま。」


店を出ると私はありったけの感謝の気持ちを込めて、春川君に言った。ただ、伝えるのが苦手な私だから、おそらくあまり伝わらなかったとは思う…


店を出ると、春川君はもう一軒バーに誘ってくれた。だけど、これ以上その気もないのに彼の私への好意に甘えたくなかったし、恵のことも心配だったので丁重に断った。すると、彼は帰り道を途中まで送ってくれると申し出てくれた。私は家を見せる訳にはいかないが、途中までありがたく彼の優しさに甘えることにした。


気がつけばもう星の見える夜空が広がる時間だ。半月とも三日月とも取れるクレセントムーンが、明るく夜道を照らしてくれる。私たちは今度はあまりしゃべらず、ゆっくりと帰路を進んでいった。


「ねぇ、もしも私がお客さんだったら、春川君は私の事お金持ちにしてくれることができるの?」


ふいに私は前から聞いてみたいと思っていた質問を、多少嫌らしい表現だと思いながらも彼にぶつけてみることにした。彼はしばらく考えた後にこう答えた。


「北原さんがお客さんだったら、多分無理かな。でも北原さんがうちの会社の社長だったら確実に儲けさせる自信があるな。こんな答えじゃだめかな。」


「…十分な答えだと思うわ。」


私は恥ずかしい気持ちを抑え込めるために、電柱の数を数え始めながら答えた。

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