木登り令嬢の婚約破棄の話
きっかけは学園でした。
「ミャー!ミャン!」(降りられないよ!)
子猫が木に登って降りられなくなっていました。
大変だわ。用務員の方に知らせなきゃと思ったら。
「今、助けるのだからね!」
ピンクブロンドの男爵令嬢サリー様が裸足になって登りましたわ。
何て格好が良いのかしら。とてもりりしく見えました。
「シャー!シャー!」
「キャア!何で助けたのにシャーなのだからね!」
私は思わず弟子入りを願い出ました。
「サリー様、私に木登りを教えて下さいませ」
「あなたは?」
「はい、2学年淑女科のハイネです。リーグ伯爵家の者です」
「あたしは商業科3年だからね!なら、猫ちゃんをお迎えしてくれたらいいのだからね。あたし寮だからお迎えできないのだからね!」
「はい、タウンハウスで引き取りますわ・・・」
この子はお母さん猫とはぐれてここ2,3日、彷徨っていたそうだわ。
しかし、すぐには教えてもらえなかった。
「木登りの名人のところにいくのだからねっ!」
「木登りの名人・・・?」
木登りの名人なんているのかしら・・・
と思ってみたら、本当にいたわ。
王都郊外に小さな屋敷があった。
お屋敷は老婦人が住まわれている。
元はマナー講師だったそうだ。
「ミヤ先生~、弟子連れて来たのだからね!」
「フン!物好きな。令嬢は元気はつらつ以外認めないからね。それでも良いのかい?」
「はい、お願いします」
始めに習ったことは・・・
「元気はつらつ令嬢は一日にしてならず!」
「はい!」
「これに着替えな!」
女騎士の練習着を渡されたわ。ズボンだわ。
「腕立て伏せをやるのじゃー!」
「はい、でも、木登りに・・・」
「口答えは禁止じゃ!」
腕立て伏せ、腹筋、スクワット、そして、
「走るのだからね!」
「はい」
サリー様とひたすら走ったわ。
木登りはいつかしら?
だが、木登りは教えてくれない。
「次は受け身じゃ!」
「はい」
「サリーよ。手本をみせよ」
「はいだからねっ」
サリー様が器用に木に登って上から・・・落ちたわ。
地面に落ちるとゴロゴロ転がるわ。
転がることで衝撃を分散しているのね。
「剣術は防御技が必要じゃ!木登りは受け身からじゃ」
「はい!」
始めは低い位置から始めたわ。
「上手いのだからねっ!」
「ありがとうございます」
ひたすら反復練習だ。
家に帰ったら、ミケちゃんにミルクをあげて・・・
「ミャン!ミャン!」(美味しい!美味しい!)
お尻をポンポンして排便を促す。メイドと交代でしている。
学園に登校すると。
レキシム様に会えた。
私の婚約者だ。
しかし、最近は病弱なご親戚の令嬢にかかりっきりだ。
そう言えば病弱な令嬢が多くなったように思える。
「ゴホゴホゴホ!」
「ミレーヌ、大丈夫か?」
「はい・・・」
髪は真っ白だ。もう、数ヶ月話していない。
エスコートも無しだ。
声もかけずに教室に入る。
クラスメイトに最近元気はつらつ令嬢塾に入ったことを話したわ。
「ハイネ様、それは古いですわ。トレンドは病弱令嬢ですわ・・・」
「まあ、それは・・」
「病弱ではかなげな美少女が殿方の間でブームですって」
「そう、そう、病弱メイク、白髪染めがあるそうよ」
病弱令嬢、そうなのかしら・・・
食もわざと細くして顔色を悪くするそうだ。
私は。
「お嬢様、カップケーキを焼きました。ご一緒にいかがですか?」
「マリー、使用人のおやつだけど宜しいのかしら」
「フフ、お嬢様の分も焼いておりますよ」
「ありがとう。マリーのケーキ大好きだわ」
一日三食を食べておやつまで頂く身だ。
あの塾は楽しい。厳しいけども充実感がある。
ついに、木登りが許された。ミヤ様のお屋敷の庭にある木だ。
「いきますわ!」
サリー様とミヤ様が見守る中、木に登る。
いつも厳しいミヤ様が何も言わない。
木の上に登ったわ。これで猫ちゃんを助けられるわ。
そして、降りようとしたときに、ミヤ様は叱咤する。
「気をつけるんだよ!足下は必ず確認する!」
「はい」
「返事は良い。動作で応えるのじゃ!」
地面に降りると更に叱られたわ。
「安心が顔にでているのじゃ!用心しないかい!」
「はい・・・すみません」
顔を引き締めた。
これから、もっと高度な事を教えてもらおうと思ったが・・・・
免許皆伝された。
「卒業じゃ、ワシは腰が悪くてのう~、孫と一緒に住もうと誘いが来ているのじゃ」
「そんな。もっと教えて下さい」
「極意は木を降りた後にあるのじゃ、その意味を知るのじゃ!」
木登りで一番大事なのは下りる時じゃ。その時に一番事故が多いのじゃ!
全て一緒じゃ。
昔は元気令嬢がパンをくわえて走っていたり。殿方とぶつかって再会して恋が芽生えたり、元気はつらつ令嬢がようけおったが、最近は病弱令嬢じゃ。
「ハイネよ。何か嫌な事があったのじゃないかのう。だから修行に専念したのかのう」
図星だった。婚約者に相手にされない。
「それで良いのじゃ。木登りは一級品じゃ」
「ミヤ様!」
抱擁してまるで本物のお婆さまに甘えるように泣いたわ。
☆☆☆3日後
珍しくレキシム様に呼び出された。横にミレーム様がいる。
レキシム様の手はミレーヌ様の腰に回しているわ。
「ミレーヌは病弱だ。私がついていないとダメなんだ。彼女の家は経営が苦しくて可哀想なのだ」
「ゴホ、ゴホ!ハイネ様、申訳ありません・・・私にはレキシム様が必要なのです」
私はすんなり受け入れたわ。
「はい、分かりましたわ。婚約は破棄ですね。お父様に報告します」
キョトンとしている。
「いや、君と婚姻は解消したくない。ミレーヌも一緒に過ごしたいのだが・・・」
「ゴホ、ゴホ、レキシム様とは心でつながっていますわ。やましいことはございませんわ」
「では、ミレーヌ様、体も差し上げますわ」
そのまま去った。
その後、私は王都を周り困った猫ちゃんがいないか探すがそうそういない。
良い事だが修行が無駄になったのかしら。あら、少年が泣いているわ。
「グスン、グスン」
「坊や、どうしたの?」
「風船が木の枝に引っかかって、グスン」
「いいわ。とってきてあげるわ」
靴を脱ぎ。木に登る。教えを忠実に守る。降りるときこそ注意よ。
「はい、どうぞ」
「お姉ちゃん有難う」
「フフフ、真似しちゃダメだよ。お姉さんは名人に習ったのだからね」
「はい、お姉ちゃん。格好いい」
また、王都を遠駆けしていたら、どこかの子息がゴロツキに絡まれていたわ。
「おい、兄ちゃん。金貸してくれねえか?」
「やめたまえ!」
「やめたまえだってさ。プ~クスクスクス」
だから、私は助けることにした。
「ヤーイ!そこの顔が汚いゴロツキ!貴方のお母様の髪型は~怪鳥の巣ゥ~!」
「「「何だと!」」」
そして、逃げる。塀を登り駆け上がる。
「なんだよ。カゲかよ」
「嘘だろ!追いつけない!」
学園でサリー様から技を習ったりした。
パンをくわえて殿方にぶつかる技だ。
「これは高度な技なのだからね」
「はい!」
そして学園で勉学に励み。
屋敷に戻って猫ちゃんにご飯をあげて・・・
と生活を送っていたら、お父様が神妙な顔をしてやってきた。
「ハイネ・・・釣書が殺到しているぞ。何故だ?」
「何故って、私も分かりませんわ・・・」
「下は8歳の少年から侯爵家の次男も来ている・・・8歳って何だ!どこで接点があった?」
8歳、もしかして風船の子かな。
「そうだ。レキシム君と住む予定だった屋敷、登記はハイネにしておいたから見に行きなさい」
「はい」
そうだ。卒業後、一緒に住む屋敷はリード家が購入したのだっけ?レキシム様は王宮の官吏になるわね。
どうしようか?
猫ちゃん慣れるかな。
「ミャン!ミャー!ミャー!」(ママと行く!)
大丈夫そうだ。とりあえず掃除だ。
いえ、訓練場を作ろうかしら。
とにかく見に行こうと屋敷にいったら、
門の前にレキシム様がいた。
「聞いてくれ。ミレーヌは白髪に染めていた・・・その染料のせいで髪が抜けてきた・・やりなおそう」
「まあ、大変、レキシム様、真実の愛で支えて下さいませ」
「だから、何故か、ピンク髪の男爵令嬢が王宮官吏試験トップで受かって、私が繰り下げで不合格になったのだ・・・家からは勘当だ。助けてくれ」
「まあ!サリー様ね。水くさい。お祝いをしなくちゃ。レキシム様有難う」
「おい、聞いてくれよ!」
「では、さようなら」
私はサリー様に会いに学園の寮に向かう。
まだ、まだ、自分のことしか考えていなかったわ。
未熟だわ。
そうだ。お屋敷に招待して猫ちゃんを可愛がってもらおう。
私はお祝いパーティの趣向を考えているうちに自然とスキップになった。
最後までお読み頂き有難うございました。




