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7.元カノ・佐々木二千花

水庫みずくらさん、結構才能あるね。まさかこんなにすぐ撃てるようになるとは思わなかった」


 白紙のカードの、小さな彼女――水庫みずくら百那ももな埋橋うずはし唯愛ゆあの予想以上に、射撃の才能があった。


 百那に支給されたデザートイーグルは彼女の150㎝いかないくらい矮躯には釣り合わず、唯愛のH&K USP――オーソドックスな黒光りする拳銃だ――を使用することになった。


 とは言っても、これでも彼女の細腕にはいささか不釣り合いではあるのだが。


 森の中の小さな射撃練習場。今の百那は10m先の木にナイフで彫られた人形の的を過たず撃てるくらいには上達していた。

 ほんの一時間の訓練でこれだ。少なくともこれだけ出来れば、素人相手の自衛には十分だろう。


「えへへ、そう?」


 花の咲くような笑顔は、握られた拳銃とひどく不釣り合いで、大人びた深い色の目を瞑ってしまえば、そのあどけない笑顔は小学生くらいにしか見えなかった。


「うん、元々体幹がしっかりしてるから体が全然ブレないし。なんかやってたの?」


「中学まで空手やってた。護身用にやれーってお母さんに言われてさ。ちっちゃいし、あんまり強くなかったけど」


「空手か。じゃあ銃とかいらなかったかな」


「いやいや、勝てるわけないでしょ。神長かみながさんじゃあるまいし」


「神長って、神長かみなが琴子ことこ?」


 クラスメイトだった。自分よりさらに身長の高い、180㎝近い長身の女子。ひと目見て何かやってると分かるような、背筋に一本真っ直ぐな柱が入ったような彼女。


 その特異な風体もあって、転校生である唯愛にとって数少ない、フルネームが言える相手だった。


「へえ、あの子って空手やってたんだ」


 もし戦うことになったらかなり面倒かもしれない。


「うん。同じ道場だったの。あとは姉岸あねぎしさんも強かったな」


「……姉岸さん?」


 悪いけど、記憶になかった。


「クラスにいるでしょ? 姉岸あねぎし深百合みゆりさん。埋橋さんくらいの身長の子。……まあ、埋橋さんは転校して来て三ヶ月くらいだしね、よく喋る子以外は覚えて無くてもおかしくないか」


 そうだ、唯愛は転校してきて3ヶ月ほどだが、しかしそれ以前に興味がないものは興味がない性分でもあって。


「……ふーん。二人とも中学生の頃同じ道場だったんだよね? 水庫さん仲良かったの?」


「いや別に、そんな事ないけど。レベルが違いすぎて雲の上の人みたいだったよ。階級も違うしね。ろくに喋ったこともないくらい」


「……そうなんだ」


 ますます分からなかった。


 彼女は真っ白なカードを持つには、あまりに社交的過ぎやしないだろうか。


 誰も好きにならない人間が、中学時代に同門だっただけの相手のフルネームを覚えているものだろうか。


 ……そもそも、このカードってどういう基準で一番好きな相手を選んでいるんだろうか。


 このカードは、頭の中でもスキャンして、自分が自覚していない好きさえも読めるのか。あるいは、入念な調査の末に決定されたものなのか。


 入念に調査されたとしたら、白紙があるのはおかしい。


 例えば学校での彼女の過ごし方を見れば、いちばん話をしている唯愛が選ばれるはずだ。そうでなくとも、少なくとも誰かの名前を書くはずである。


 連中の目的は殺し合いをさせることにあるのだから、こんな宙に浮いた存在を意図的に作る意味はないだろう。


 ならばやはり、頭の中を何らかの超技術で読み込み、その結果をカードに出力したのがこれなのだろうか。


「ねえ水庫さんはさ、誰かに狙われる覚えってある?」


「それって一番好きだと思われてるかってことだよね? ……うーん」


 彼女はしばらく考えてから、答えた。


「特に思いつかないかなあ。しいて言えば、埋橋さんだけど。でも違うんだよね?」


 そういうことになっている。つい忘れそうになるが、今の彼女は他人から奪ったカードを見せることで、自らの標的が水庫百那であることを偽っていた。


「う、うん。でも、誰の一番でもないって普通なら悲しむべきところだけれど、今はうれしいね」


 そんな白々しい声音が、森の中に力なく消えていった。


 ※


「鈍感バカのくせに、なんで居ないのよ」


 ツインテールにツリ目の、いかにもツンデレふうの少女――佐々ささき二千花にちかは百那のテントが無人であることを確かめると、舌打ちした。


 とっとと見つけて、誰が一番好きなのか確かめて、そこに自分の名前があったら大人しく殺されるつもりだった。


 ……とは言っても、おそらくそれはないだろうが。


 最近一緒にいるあの女――埋橋唯愛が今の百那の一番に違いないと、二千花は思う。今のところ自分が死んでいないということは、百那の生存を意味している。


 あの鈍感バカは、おそらく彼女に連れられて、どこかにいるのだろう。


 そしていちゃつきながら24時間が過ぎるのを待つのだ。そんな事、させるものか。


 絶対に殺してやる。


 選ばれなかった人間は、極限状況でかくもたやすく殺意を剥き出しにする――幾度も行われたこのデスゲームにおいて、ままある光景だった。


 いくらテントをナイフで切り刻んだところで溜飲は下がらず、彼女は刃を構えて周囲を警戒しつつテントから出る。


 そして、鉢合わせした。


「……鳥山とりやまさん」


 そこには、クラスメイトの鳥山不二子ふじこが立っていた。


「そういえばあなた、元カノですもんね」


 不二子が銃を構え、


「そういうアンタは、彼女にすらなれなかったもんね」


 二千花は中腰になって土を掴むと、そのまま不二子の顔に投げつけた。


 そして次の瞬間には、全身のバネを使って弾丸めいてナイフとともに突撃。


「――ごっ」


 刃が腹に突き刺さり、不二子は倒れた。

 そのまま銃を奪い、その憎たらしい額に至近距離で三発ほど鉛玉をお見舞いする。


「ありがとう、こんな素敵なプレゼントを贈ってくれて。ずいぶん遅い御祝儀だけれども、ちゃんとお返ししておくわ」


 別れてから送られるご祝儀など早々お目にかかれるものではない。


「負け犬のくせに偉そうにしやがって、ドクズがよ」


 二千花は中指を立てると、ナイフを額に突き立てて、その柄を思い切り踏んだ。


 どう見ても世紀末な彼女――佐々木二千花は、水庫百那の元カノだった。


 死亡者名簿

 12.鳥山不二子


 ……残り26名

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