【書籍発売記念SS】幼なじみとかき氷
初夏のある日、テレビから気が遠くなるような天気予報が流れてきた。
『本日、関東の気温は35度を超え、猛暑日となるでしょう』
「マジか……。まだ真夏じゃないのに、なんて気温だ……」
年々気温が上がっているような気がするな。昔はここまでじゃなかったと思う。
「今日もプライベートダンジョンの川で涼むかな……。昨日も行ったけど……」
そんなことを考えていると……。
――ピコン!
「ん……?」
スマホから通知音が鳴った。
たまき:今日、こーちゃん暇?
見ると、おタマちゃんからのLINKメッセージだった。さっそく返信する。
光一:特に予定はないけど
たまき:(クマがウサギとハイタッチしているスタンプ)
光一:どうした?
光一:プライベートダンジョンに来るか?
たまき:ううん
たまき:今日はさ、行きたいところがあるの
光一:行きたいところ?
たまき:うん
たまき:ふたりでさ、かき氷を食べに行こうよ!
たまき:(クマが片手を上げて「GO!」と言っているスタンプ)
☆★☆
――30分後。
俺はSUV車『バハムート』をおタマちゃんの家に停めた。
おタマちゃんはすぐに家の中から出てきた。
「ごめんね、こっちから誘ったのに車を出してもらって」
「いや、たまには遠出したかったから、ちょうどよかったよ」
おタマちゃんがシートベルトを締めるのを確認してから、車を発進させる。
「ありがと、こーちゃん。ナビは任せてね」
「かき氷って言ったから、ファミレスにでも行くのかと思ったんだけど……」
「ふっふっふ、こーちゃんくん。今日は最高のかき氷を食べにいこうと思ってね。つまり、『日光天然氷』ですよ」
「日光天然氷……!」
――俺たちが住む栃木県の北西部には、日光東照宮などで有名な日光市がある。
日光市内では、冬の厳しい寒さと日光連山からの湧水を利用して職人たちが高品質の「氷」を作っている。
それが日光天然氷。
かき氷にすると、ふわふわで、普通の氷を使うよりもなめらかな口どけになるのだ。
……と、おタマちゃんが熱弁してくれた。
「よく知ってるな。食べたことあるのか?」
「……ううん。群馬県探索者協会の楓ちゃんが食べたらおいしかったって……」
「群馬県民に先を越されたかぁ……」
栃木県民のプライドが……。
とはいえ、俺もこれまで食べたことがなかったし、いい機会だ。せっかくだから楽しもう。
「かき氷ねぇ……。そういえば、子どもの頃に、しーちゃんの家でかき氷パーティしたよな」
しーちゃんの家には、ペンギンの形をしたかき氷メーカーがあって、自宅でかき氷が作れたのだ。
しーちゃんのお母さんがいろいろな味のシロップを用意してくれて、みんなで好きなだけかき氷を食べることができた。
「うん、あのときは楽しかったね!」
「ああ。まさにパーティって感じだったな」
子どものころ、かき氷とはお祭りで食べるものだった。それが食べ放題になるとは考えたこともなかったのだ。
「こーちゃん、あのときさ、イチゴとメロンとブルーハワイのレインボーかき氷を作ろうとして、茶色い謎のかき氷を作ってたよね! まなみんに『食べものの色じゃない……』って言われてたの、面白かったなぁ……」
おタマちゃんはくすくす笑う。
「む……。そういうおタマちゃんは、かき氷を3杯食べて、そのたびに『頭が痛い〜』って騒いでたの、覚えてるぞ」
「そ、そうだっけ? あははー、記憶にないなぁ! あ、そういえば、楓ちゃんがね、かき氷食べたあと東照宮も行ったって! あたしたちもいこう! ね!」
「また話題を変えて……。まぁ、いいよ。東照宮の方も行こうか」
「うん、楽しみだねっ」
そうして、俺たちは日光市へ向かった。
☆★☆
車を走らせること約1時間。
俺たちは、かき氷の名店『風月』へと来ていた。
休日なら数時間待ちも珍しくないようだが、平日だったためか、受付機でチケットをとってから15分程度で中に入ることができた。
「さーて、どれにしようかな!」
「どれどれ……」
値段は全体的にお高めだが、果肉入りのフルーツシロップがかかっていたり、生クリームがたっぷり載っていたりとどれも豪華で美味しそうである。
「お……!」
レインボーかき氷もあった。
子どものころなら間違いなくこれを選んでいただろう。
だが、俺も成長した。ホンモノの価値がわかる大人として、これは選ばない。
お店のオススメである、半分に切ったメロンの上にかき氷がのっているという「プレミアムメロン」を選ぶことにしよう。
「こーちゃん、決まった?」
「ああ、このメロンにする。おタマちゃんは?」
「せっかくだし、『生いちご生クリーム』にする!」
「それも迷ったんだよなぁ……」
「えへへ、いいでしょう?」
席について、しばらくすると。
「おまたせしました、『生いちご生クリーム』と『プレミアムメロン』です」
「おお……」
「わぁ……」
テーブルの上には、山盛りのかき氷が置かれた。なかなかに迫力がある。
「わーい、いただきます!」
「いただきます……っと」
メロンのかき氷をスプーンですくって、ひとくち。
すると……。
「……うま」
すごい。これまで食べてきたかき氷の常識をひっくり返される。
果肉をつかったフルーツ感いっぱいのシロップ。口に入れた途端にほろりと溶けていく氷。ジャリジャリとしたおなじみの食感は一切ない。
幻のように消えていく氷と、口に残るフルーツの後味。
「高級なだけあるなぁ……」
めちゃくちゃうまい。
「いちごもおいしいよ! すごい!! 楓ちゃんが自慢してた気持ちがわかった!!」
おタマちゃんも大喜びである。
しかし……。
「あ、写真を撮るのを忘れてた! もう食べちゃったよ……。ええと、こっちの方向からなら綺麗に……」
食い気が勝っているのは前から変わらないようだ。
まあ、気持ちはわかる。
「見た目からして、すごくうまそうだもんなぁ……」
スプーンを口に入れる。すっとかき氷が舌に溶けていく。ふたたびスプーンでかき氷をすくう。口どけは優しく、頭が痛くなるようなこともない。
至福の時間である。
「ねぇ、こーちゃん。いちごも食べたかったって言ってたよね?」
「ああ」
「ひとくちあげるよ」
そういって、おタマちゃんは自分のスプーンでかき氷をすくい、俺に差し出してきた。
「お、おい……」
そういえば、子どものころにもこうやってかき氷をもらった記憶がある。間接キスだとどぎまぎしていたのは俺だけだった。
「なんだい、あたしのかき氷が食べられないっていうのかい? ほら、あーん……」
おタマちゃんは冗談めかして言った。
まったく、もう……。
「食べるよ」
動揺をさとられないように、俺はぱくっとスプーンをくわえた。
いちごは甘酸っぱく、クリームは優しく、氷はやはり消えるように溶けていった。
「……おいしい」
「でしょう?」
これは、お返しする流れである。
恥ずかしい気もするが、しょうがない。俺は自分のスプーンでメロンのかき氷をすくって、おタマちゃんに差し出した。
「ほら、こっちも食べていいよ」
すると、おタマちゃんは……。
「え、ええ……!? いいよ、自分でとるから!」
「いいよ、お返しだよ。イヤか?」
「い、イヤじゃない! イヤじゃないよ! うう……でも、自分にされると恥ずかしい……」
そうして、おタマちゃんは目を閉じて口をあけた。なぜ目を閉じたのかは不明である。
俺はそっとスプーンをおタマちゃんの口の中に入れた。唇が閉じられ、引き抜いたスプーンの上には綺麗に何も残っていなかった。
おタマちゃんは顔を赤くして、ぽつりという。
「……おいしい、です」
「……だろ?」
「……はい」
なんとなく、気恥ずかしくなるような空気に満ちた。
「うう……うれし恥ずかしだった……」
「なんか言ったか?」
「う、ううん……! さ、さーてと!」
おタマちゃんは首を横に振ると。
「残りのかき氷も急いで食べよ!!! 溶けちゃうからね!」
急にぱくぱくとかき氷を食べ始めた。
「お、おい……」
「あー、おいしいなぁ」
「そのスピードで食べたら、いくら頭痛になりにくい天然氷だからといって……」
「あ…………」
おタマちゃんはスプーンをお盆に置くと。
「うぇぇ……、頭が痛いよぉ……」
「ほらな……」
案の定、頭をおさえて、テーブルの上でうつむいた。
「子どものころからまるで変わっていないな……」
「うう……、こーちゃん、あたしを見捨てないでね……」
「見捨てないよ」
「ありがとね……」
なんだか、遠い昔、しーちゃんの家でもこんなやりとりをしたような気がする。
20年近い年月が経ったのに、変わらないものがあるんだな……。そのことがなぜか嬉しかった。
俺のかき氷の下からは、半分に切ったメロンが出てきた。スプーンですくって食べると、完熟のみずみずしい味がした。
「……うまい」
(子どもの頃は子どもの頃で楽しかったけど、大人になった今では、自分で運転して、こんなに贅沢なかき氷を自由に食べに行ける……。大人になることは不幸なことだと思っていたときもあったけど、楽しいこともたくさんあったんだな……)
今と過去。どちらも大切な時間だ。
ふたつがひとつになり、今の自分を形づくっている。
(過去も大切にしながら、未来を歩いていく。そうやって過ごしていきたいな)
頭痛で頭をおさえるおタマちゃんを見ながら、そんなことを思った。
すみません、活動報告でも書かせていただきましたが、告知をさせてください。
この度、『凡人×現代ダンジョン×夏休みライフ=成り上がり!? 〜こどもの頃の秘密基地跡にプライベートダンジョンができました〜』がホビージャパン様から書籍化されることになりました(ノД`)・゜・。
これもすべて、★やフォローなどで応援してくださった読者の皆様のおかげです。
本当にありがとうございます!!
書籍化にあたり、タイトルを以下のとおり変更しました。
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元社畜探索者の「夏休みダンジョン」スローライフ攻略記 ~こどもの頃の秘密基地跡にプライベート裏山ダンジョンができました~
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すでに予約ができるようになっておりますので、ぜひご予約をお願いします!
イラストレーター様は「しの」様となります。
イラストは活動報告をご覧ください。
また、小説本文についても、大幅に加筆修正させていただいております!
ノスタルジック感と無双感を増量しましたので、web版をお読みの皆様におかれましても、また違った読後感を得られると思います。
ぜひお買い求めください!!(直球)




