第89話 チートスキル対チートスキル
15階層に降りると、巨大な宝箱が見えた。
その奥に、蛇道と人質の女性がいる。
――気づくと。
「【魔眼】発動、拘束封印!」
ドクンっ!!
魔力が込められた視線が、俺を貫いた。
「クククッ……ハハハハハ!!! 愚かだな!! 同じ手に2度ひっかかるとは……!」
「…………」
「そのままそこにいろ。お前の手足をもぎ、達磨にしてやる。お前は【次元転移】をするだけの人形となるのだ!!!」
《こーちゃん!!》
《ヤバイよ》
《14階層のみんな、助けに来て!!》
《まだ井矢田の端末でつながってるでしょ!?》
《こーちゃんが危ない!!》
「――【魔眼】併用【テイマー】。強制服従!! さあ、フロアボスのジャイアントミミックよ!! 夏目を無力化しろ!!」
「カチカチカチカチ、ガァァァァ!!!」
《ボスのテイムもできるの!?》
《チートすぎる!!》
《やばい、こいつの攻撃力はハンパないよ!!》
《無抵抗だと殺される!!》
《14階層の誰か、助けてあげてよぉ!!》
《もう1回【空間転移】だ!!》
「ガァァァァァ!!!」
ジャイアントミミックは、大口をあけて俺に近づいてくる。
ご丁寧に、蛇道は【魔眼】の魔力を俺に向け続けている。
動けなくしたまま、ミミックに攻撃させるつもりなんだろう。
――まあ、問題ないんだけど。
もう俺に【魔眼】は効かないから。
「【気配遮断】併用【神速】――無音縮地」
「は……?」
シュンッ!!
「カ、カチッ!?」
俺はミミックの攻撃をかわすと、一瞬で蛇道に近づいて人質の女性を奪い取り、元の場所に戻った。
「もう大丈夫です。あいつは俺が倒しますから」
「こ、こーちゃん様ぁ……!」
女性は涙目になると、俺に抱きついてきた。
「は……? 速……いや、違う!! お前、なぜ【魔眼】が効いていないんだ!?」
「少し待っていてください」
「え……」
ドガッ!!!
俺はミミックを蹴り飛ばし、蛇道へ吹き飛ばす。
「チ、チィッ……!!」
ドゴォォォォ!!
蛇道は跳び上がって、ミミックを避けた。
視線が切れた瞬間、俺は階段の上へ叫んだ。
「おタマちゃん、いるか!? この人を頼む!!」
「いるよ!! 任せて!!」
すると、【水使い】で生み出された白い霧が上の階層から降りてきて、人質の女性を包み込んだ。
タッ!!
おタマちゃんが一瞬で15階層に来て、女性を抱きかかえる。
そして。
「――こーちゃん、信じてるよ」
「――ああ、任せとけ」
人質の女性を連れて、上へ戻っていった。
「さてと……」
これで縛りはない。
シンプルな実力勝負。
あとは、アイツとミミックを倒すだけだ。
「ぐ…………」
蛇道はミミックの横で剣を抜いた。
「ククク……今度は本気でやってやる!! 【魔眼(拘束封印)】!!」
ドクンっ!!
【魔眼】の魔力が俺を貫く。
「さっきはミミックで死角ができただけだろう……!! 今度はそんなヘマはしない!! 自ら斬ってやる……! 」
蛇道は剣を抜き、俺に駆け寄る。
「これで終わりだ!!!」
「――無音縮地」
シュンッ!!!
「は……!?」
蛇道はキョロキョロと周りを見る。
「夏目が消えた!? バカな!? なぜ!! なぜだ!!! なぜ【魔眼】が効いてないんだ!!?」
「――まずは、おまけから倒すか」
ズバ、ズバッ!!!
俺は剣を抜くと、ミミックに連撃を浴びせ、斬り伏せた。
「ガ、ガァァァァ…………」
チャリ、チャリ、チャリン……!!
ドロップアイテムの金貨が落ちる。
《は?》
《はあああああああ!?》
《何もしてないのにミミックが倒れた?》
《え、え?》
《見えない》
《速すぎ問題》
《こーちゃんがやったのか?》
《何これ、トップ探索者の王路と同レベルじゃん!!》
《すごいと思う探索者は国内にいても、理解できない探索者は海外勢しかいなかった。こーちゃんはそのレベルに達してきている!》
「【魔眼】!! 【魔眼】!!! 【魔眼】!!」
視線を介して、魔力が飛んでくる。
しかし、俺には効かない。
正確に言えば、都度打ち消している。
――さて、そろそろアイツにも教えてやるか。
確かにお前の【魔眼】はチートじみた力を持っている。
だが、俺だって、成長しているんだ。
「――霊魂蝶プシュケー」
「は……?」
俺の肩には、青く透きとおる魂の蝶がのっていた。
「貴様……その虫は……!?」
《秘密基地》のみんなで宝さがしをしたときに捕まえたものだ。
最後に教えてあげよう。
「この蝶は、自らが翅を休めた対象を完全回復できる。ポイントは、単発スキルじゃなく、カブトやクワガタと同じ召喚スキルだってことだ」
「召喚……? な……貴様……!?」
蛇道は一瞬で気づいたようだ。
さすが、腐ってもAランク探索者だ。
一応解説しておこう。
「――ああ。この蝶を身体にとめている限り、俺は一瞬でHPと状態異常が回復する。【魔眼】の影響も、魔力が届いた瞬間打ち消しているんだ」
《は、はあ!?》
《はあああああ!??》
《パーフェクトオートヒールってこと?》
《なにそれ!!??》
《こんなのに勝てるかよ》
《ケンカを売ったことが間違い》
《魔眼のやつ、どんまい!!》
《魔眼のやつ、どんまい!!》
《お疲れっしたー!!!》
蛇道は俺を指差して、言う。
「き、貴様……それはチートスキルだぞ!!! 勝負の場で使うものじゃない!!」
「……俺はスキルをみんなのために使う。お前のように悪用したりはしない」
とはいえ、プシュケーも万能ではない。
回復のたびにMPを使用するため、無限回復はできない。
ま、死者蘇生の情報と同じく、それは黙っていようと思う。
もう終わらせるのなら、関係のないことだし。
「――虫相撲・カブト」
俺は巨大カブトムシを異空間から呼び出した。
「な、夏目……、やめろ……!! オレと組めばお前を裏社会の王にしてやる……!! なんでも手に入るぞ!! だから……」
「俺、本当に大切なものはもう持っているんだ。上のフロアへ行けば、そう感じられる。お前のいうものはいらない」
「あ、あ……」
「いけ――必中神槍ッ!!!」
俺は魔力を込め、カブトムシを放った。
「止まれ! 【魔眼】!! 【魔眼】ッ!!」
カブトムシは一直線に蛇道へ向かう。
スピードは落ちない。
「――グングニルは必中の神槍だ。狙ったものは必ず貫く。どんな妨害があっても……」
「止まれ!! 止まれェェェェェッ!!」
「――終わりだ」
ズドォォォォォォォォンッ!!!
そうして。
蛇道は横浜ダンジョンの壁に叩きつけられ、ぴくりとも動かなくなった。
近づいて確かめてみると、気を失っているだけだった。
「よし……」
とりあえずスキル・【糸】で、鼻だけを残してぐるぐる巻きにしておく。
拘束完了だ。
【魔眼】よりは原始的だけど、目的は果たしているから大丈夫だろう。
「はあ……、疲れた……」
ふとつぶやくと、配信画面にはたくさんのコメントがついた。
《お疲れ様!!》
《お疲れ様でした!!!》
《英雄ですね!!》
《あの蝶々、何?》
《すごかったです》
《チートスキルですねw》
《もうすぐ国内トップ探索者になれそう》
《こーちゃんチームに手を出したことが間違い》
《魔眼のやつ、残念でしたwwww》
《いえーい、魔眼のやつコメント見てるぅ〜? 弱いねぇ〜》
《魔眼でコメント見てみなwww見れるならなwww》