第88話 決戦の15階層へ
――今から約3時間前、俺の車の中。
「え……!? まなみんがおタマちゃんになるって……!?」
後部座席に乗ったおタマちゃんとまなみん、そしてスピーカーモードで通話しているしーちゃんと作戦会議をした。
『まなみん、そんなことできるの?』
「ああ、できるぜ。たまたま、服と予備の刀を貸してくれ。それさえあれば、いける」
「あたしとまなみんの顔も全然違うじゃん。バレちゃったらどうするの?」
「けけ、モノマネメイクって知らないか? アタシはな、だいたいの有名人に似てるって言われたことあるぜ。出会い系のサクラでな」
「ろくなことに使われてない特技だな……」
「あとは、ヘルメットを深くかぶってごまかす。これで余裕だ」
「なんかうさんくさいんだよねぇ……。まなみんはあたしのこと分かってるつもりなの?」
「は? じゃあ、今からモノマネやってやるからな。こーちゃぁん、あたしのこと、めちゃくちゃに……」
「わー、わー! ばかっ! こーちゃん、まなみんなんか頼りにならないよっ!」
「……まなみん、危険な役目だけど、やるつもりなのか?」
『犯人はたまちゃんを先に殺そうとするかもしれないよ? 相手のスキルも未知数だし……。それでもいいの?』
すると、まなみんは。
「けけ、やってやるよ。ビッくまポンも当てて、運気の波が来てるしな」
「まーたオカルトに走ってる……」
「それにな……こいつはたまたまのことを名前で呼んでいない。探索者協会の女と言っている。大して意識もしていない。警戒してるのはこーちん……。それも《ワームホール》スキルだけだ」
「《ワームホール》を?」
『うん、わたしもそう思う。たまちゃんが呼ばれたのは、《ワームホール》を【レンタル】されて、背後から奇襲されることを恐れているからじゃないかな』
「なるほど……」
「この犯人が出した条件のほとんどは、《ワームホール》を封じるためのもの。そこにつけいる隙がある――」
☆★☆
「夏目くんっ!」
現地で合流したしーちゃんも、ワームホールを抜けて1階層から14階層に入ってくる。
しーちゃんは【回復魔法】が使える。
負傷した人質の手当ては任せていいだろう。
すると。
「チ……、どけっ!!」
「――あ」
今回の犯人――蛇道錦は、動線上にいた女性をかついで、15階層に下りる階段へと走っていった。
「ん、んんんんん〜………」
「夏目ェ!! この女を殺されたくなければ、ひとりで次のフロアへ来いっ!! すぐにだ!!」
ダダダダダダダ……!
蛇道は人質を連れたまま、15階層へと移動する。
《逃げられた!》
《女の子が……。助けないと!》
「ごめん、夏目くん……! 動けなくなっちゃって……。あれが【魔眼】なんだね……」
「ああ。あの眼で見られると急に全身が動かなくなって、スキルが使えなくなる。なかなか強いスキルだ」
《魔眼持ち!?》
《拘束封印!》
《チートスキルじゃねーか》
《そんな恵まれてて、なんで犯罪に走るんだよ》
《こーちゃん、タイマンで勝てるのか?》
《階段おりた瞬間を見られたら終わりだぞ》
《こーちゃんにも対抗できるチートスキルはあるのか?》
《空間転移?》
《背中を壁につけられたらバックアタックできない》
《こーちゃん、ヤバイよ! 誰かとチームで行くべき!!》
「どうするの……?」
「俺がなんとかする。作戦って言えるほどじゃないけれど、勝算もある。しーちゃんには皆の治療を頼む」
「本当に大丈夫なの?」
「――ああ」
「本当に……?」
「――大丈夫だ」
「ほら、しーちゃん! こーちゃんに任せよ! こーちゃんなら大丈夫だから、ね!」
「でも……」
「この顔のときこーちゃんは強いよ。絶対できるって思ってるときだから。あたしたちはできることをしよう。ね?」
「……うん」
「夏目よ、これは持っていくか?」
すると、ハーミット様が俺の剣を部屋の外から持ってきてくれていた。
俺は剣を受け取り、腰に差す。
そして。
「ありがとう、ハーミット様。今の自分のすべてをかけて、あいつを倒してくるよ」
「――いけるのだな?」
俺は、ハーミット様を見つめ返し。
「ああ、行く。俺たちの自由な夏休みは奪わせない。それに……」
俺は異空間につながる穴を開ける。
虫を呼び出す召喚ゲートである。
「あいつは配信端末を井矢田に渡したままだ。監視されていないのなら勝てる。もう俺に【魔眼】は通用しない――」




