第81話 みんなで宝探し①
次の土曜日、俺たち秘密基地メンバー4人は、プライベートダンジョンに集合した。
その理由は……。
「夏目くん、どう? 眼鏡、似合うかな?」
「あ、ああ……」
「しーちゃん、かわいい! 頭よさそう! うらやましい……」
しーちゃんのメガネ姿に、なぜかおタマちゃんのテンションが上がっている。
少し前に、トンボからドロップした「鑑定メガネ」。
今日は、このアイテムでいろいろ試してみようということになったのだ。
鑑定メガネは、賢さが高いほど高レベルの【鑑定】ができるようになる。
今は、パーティ内で賢さがいちばん高いしーちゃんがメガネをかけている状態だ。
「けけ、こーちんも『かわいいよ』とか『似合ってるぜ』とか言ってみろよ」
「ふふ、夏目くん……どうかな?」
「あ、その……似合ってる、かな」
「ふふ、うれしいな。今度から伊達メガネかけようかな?」
「う、うう〜。あたしもメガネにしようかな……」
「おタマちゃんは視力2.0だろ……」
まずは何を鑑定するかと言うと……。
「夏目くん、地図、借りていい?」
「ああ、どうぞ。今朝俺が【鑑定】したときは、何も情報が出てこなかったけど……」
俺は地図を渡した。
以前、プライベートダンジョン内の「家」を調査したときに見つけた手書きの地図である。
調査時には宝の地図ではないかと推測したが、いまだに謎は解けていない。
なお、俺が【鑑定】した結果は次のとおりだった。
『名前:ひみつの地図
効果:ひみつだよ』
イラッとしたのは内緒である。
「ありがとう、夏目くん。じゃあ、見てみるね」
しーちゃんは地図をじっと見つめる。
そして。
「ああ、なるほど……。うん……、なんとなくわかったかも」
「本当か?」
「うん、たぶんだけど」
「しーちゃん、やっぱり宝の地図なの?」
「金目のもの……!」
俺、おタマちゃん、まなみんの3人も地図を覗き込む。
前に推測したとおり、この地図には自動マッピング機能があった。
Aランクパーティうんぬんのときに、プライベートダンジョンの1階層はあちこち周ったため、地図自体は完成している。
しかし、地図には特定の場所を指し示すようなヒントは何も出てこなかった。
何をすればいいかまったくわからない、というのが正直なところである。
しーちゃんは、眼鏡をくいっと直すと、にこと笑った。
「ええとね、宝の地図かどうかはまだわからないかな。でもね、【鑑定】のおかげで何をすればいいのかはわかったかも。たぶんね、子どものころの夏目くんなら、すぐ試したのかなって」
「子どものころ……?」
プライベートダンジョンに入る前だけど……。
「ね、ね、しーちゃん。早く教えてよ。あたしも楽しみなんだ!」
「ふふ。うん、じゃあ言うね。眼鏡で【鑑定】したら、こんな風に書いてあったんだ」
『名前:ひみつの地図
効果:ひみつだよ。謎をときたければ、夏よりも熱いものが必要だよ』
「夏よりも……? いったい何の話……、あ」
ふと過去の記憶がよみがえる。
「こーちゃん、わかったの?」
「ああ、たぶん。しーちゃんのヒントのおかげだけど」
「え……? どういうこと?」
「おタマちゃんも一緒にやったことあるんだけどな。ほら、レモン汁とかで……」
「え、え? ごめん、わからないよぅ……。こーちゃん、教えてよー」
「まったく……」
まあ、もったいぶるつもりはない。
俺は、おタマちゃんに答えを教える。
「――あぶり出し、だよ」
「あ……」
子どものころにやったなあ。
筆にレモン汁をつけて、紙に文字を書く。
水分が乾くと、紙は真っ白になり、何も書かれてないように見える。
しかし、その紙を炎やドライヤーなどの高温に晒すと、茶色い文字が浮かび上がり……。
「うん、わたしもそう思う。たぶん、この紙を熱すると、どこかを示す情報が出てくるんじゃないかな? そこを夏目くんの部屋にあったスコップで掘れば……」
「おお……!」
宝探しらしくなってきた。
「じゃあ、さっそく試してみるか。燃えるものは……」
「乾いてる落ち葉を集めよっ。わーい、焚き火だー!」
「これでアタシたちも億万長者か……。税金の心配をしないと……」
「もー、まなみんは夢がなさすぎ!」
俺たちは、「家」の庭に、乾いた落ち葉をかき集めた。
そして、おタマちゃんの【水使い】スキルで、水の凸レンズをつくり、虫メガネの要領でジリジリと太陽の光を集めた。
「えへへ……、なんだか楽しいね。昔もこういうことした気がするなぁ……」
「たまたまは学校で先生に怒られてたよな。アタシは覚えてるぜ」
「家でもお母さんに怒られてたな。はは……懐かしいな」
「うー……、忘れてたのに思い出しちゃった……」
そうして……。
ボッ!!
「あ、火がついた!! こーちゃん、お願い! すぐ燃え尽きそう!!」
「ああ、任せろ!」
炎の上に、地図をかざす。
そして、数秒の後。
神社の近く、木の根もとに、「✕」印が茶色く浮かび上がってきた。
☆★☆
「はあ、はあ……」
ザクッ、ザクッ……。
一心不乱に地面にスコップをつきたてる。
地図上では、2本の木がねじれて1本の木になっている場所が示されていた。
神社との位置関係を踏まえても、宝はここで間違いないだろう。
なにやら意味深な丸石も置いてあったしな。
「こーちゃん、代わる?」
「いや、大丈夫だ。もう少し……」
カァンッ……!
「お……!」
そのとき、スコップの先端が何か硬いものに触れた。
「ビンゴか……!」
「金、金……! こーちん、頼む!」
スコップを掘る速度を速める。
すると……。
「あ、出てきた! こーちゃん、それ……!」
「ああ……!」
地面から出てきたのは、クッキーの缶のような平べったい容器だった。
「さっそく開けてみるぞ」
「うん。お願い、夏目くん」
パカッ!
すると……。
「また紙……?」
中には、こう書かれた紙が入っていた。
『夜においで。きれいなものが見れるよ』
「く……。だんだん旗色が悪くなってきた……。金の匂いが薄まっている……。きれいな景色こそが宝とか言いかねない……。頼む、金、金……」
「まったく、まなみんは……」
「夜……か? これって、暗号なのかな? しーちゃん、どう思う?」
「うーん……、書いてある以上のことはわからないかな……」
「まあ、いっか。とりあえず試してみよう。まずは俺のスキルで辺りを夜にしてみる」
「うんっ! なんだかわたしも楽しみになってきちゃったな。夏目くん、お願い!」
「宝探しも盛り上がってきたね!」
「いくぞ。スキル・《昼夜逆転》!!」
カナカナカナカナ……。
ひぐらしの声がダンジョン内に響く。
そして――プライベートダンジョンは夜になった。
……夜にはなったけど。
「何が変わったんだ……?」
手元の紙は、暗くて読めない。
蓄光塗料か何かで、ぼんやり光るのかなと思ったんだけど……。
俺が戸惑っていると、後ろから肩をたたかれた。
「ね、ね、こーちゃん。隣の木……」
「え……?」
おタマちゃんが示す方を見ると、木の幹が青く輝いていた。
いや――ちがう。
光っているのは木ではない。
「蒼い、蝶?」
そこにいたのは、青く発光する蝶であった。
まるで人魂のような、幻想的な光。
翅は透き通っており、反対側の木が見える。
日本にいるような、普通の蝶ではない。
これは間違いなく。
「レアな虫だ……!」
「きれい……」
さっそく捕まえようとしたところ、しーちゃんに袖をつかまれた。
「……夏目くん、ごめん。わたしだと、メガネをかけててもあの蝶々を対象だと認識できないみたいなの。だから、お願いしたいの」
「お願い?」
「うん。……念のため、夏目くんも蝶を【鑑定】してくれないかな……? 何かヒントがあるかも……」
「あ、ああ……」
早く捕まえたい気持ちが先に走っていたので、そこまで頭が回らなかった。
たしかに、レア度の高い虫は捕まえ方が特殊なやつが多いからな。
情報はあるに越したことはない。
俺はしーちゃんから眼鏡を受け取り、青く光る蝶を見つめた。
すると、情報が表示された。
『名前:霊魂蝶プシュケー
捕獲方法:???』