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第75話 【4人視点】マジカルショッピング②

 ☆★☆【side:笹良橋(ささらばし)志帆(しほ)】☆★☆



『大きいことはいいことだ! 毎夜1%の確率でちょびっとバストアップ! 豊胸ナイトブラ 5000P ※効果には上限があります』



「うーん……」


 試着室の中。


 わたしは、自分の絶壁(ぜっぺき)を見下ろしながら葛藤(かっとう)していた。


(これを選んでいいのかなぁ……?)


 夏目くんとたまちゃんが正気に戻ったあと。


 わたしたち4人は自由行動をとり、買いたいものを探すことにした。


 ゆえに、今はひとり。


 夏目くんもみんなもいない。


 誰にも言えなかったが、今日の探索を配信しないようにした一番の理由がこれだ。


(前にダンジョン・ホーテ配信で見た、豊胸のブラを買いたい)


 こんなものを買っているところ、夏目くんに見られたくないのは当然、全国配信するなんてありえない。


 ダンジョン・ホーテ配信が盛り上がるのは知っているが、それよりも大切なことがあったのだ。


 しかし……。


(毎夜1%の確率で成長、か……。1年間使ってもあまり効果が出ないかも……。うーん……)


 実際に決断のときとなると迷う。


 ダンジョン外でも効果のあるアイテムは少ない。


 しかも、使用者に永続的な影響が出るアイテムはまれである。


 そんなレアアイテムが5000ポイントぽっちで手に入るとは、まさに驚安(きょうやす)である。


(でも、これを買っていいのかな……? たしかに「お胸が小さい」というわたしのコンプレックス解消にはなるけど、そんな理由で選んでいいのかな……?)


 思考はぐるぐる回る。


(それに……夏目くんは、胸が大きい人が好きなのかな? 小さい方がいいって人もいるって聞いたことがあるし……)


「はぁ……」


 わからない。


 少し前のことを思い出す。



 ――な、なづめぐん……。ごめん、わだし、余計なごとを言っちゃったかも……。


 ――わかった。なんとかする。



 あの日、泣きながら電話をしたわたしに対して、夏目くんは頼もしい答えを返してくれた。


 あの電話から、夏目くんのことを考える回数が増えた。


 さらに、わたしたちみんなの力と言えばそうなのだが、夏目くんはAランクパーティになるという目標も実現してしまった。


(すごいな……)


 夏目くんは、前に進んでいく。


 わたしたちみんなを連れて。


「……わたしも、前に進むためのアイテムを、買うべきなのかな」


 たぶんだけど、夏目くんは胸の大きさとかあまり気にしないんじゃないか。


 やさしい夏目くんのことだ、そんな気がする。


 なら、つまらない自分のコンプレックス解消するより、わたしたちが未来に進むためのアイテムを選んだ方が……。


「……考え直そう」


 わたしは、着てきた服に着替えて、試着室の外に出ることにした。




 ☆★☆【side:思川(おもいがわ)(たまき)】☆★☆



『勇気が出ないときは…… 告白用ワンピース(白) 5000P ※成功するかは相手の気持ち次第です。アイテムの効果:装備中【勇敢】スキルを取得(ダンジョン外でも効果発揮)、魅力度上昇』



「はぁ……」


 あたしは素敵なワンピースを前にして溜め息をついた。


 18階層でスキル【赤い糸】を誤発動してしまったときのことを思い出す。


(うう……、改めて、こーちゃんに好きって言わないといけないんだよね……)


 あたしの中にある一番大きな感情は、「恥ずかしい」でも「不安」でもなく、「怖い」である。


 再会したばかりのころは、まだよかった。


 こーちゃんの昔と変わらない優しさにふれるだけで、その日の夜、とても満たされた気持ちで1日を振り返れた。


 こーちゃんに会えるだけで嬉しかったし、そもそも半ばあきらめていた恋だ、思いきり攻めることもできた。


 でも……。


 こーちゃんと仲良くなって、同じパーティになった今では、状況が違う。


(この関係がこわれるのが怖いよ……。でも、こーちゃんは、知らない女子から握手をもとめられるくらいモテモテになっちゃったし、 早く気持ちを伝えないと……。うう〜)


 自分ながら中学生みたいな悩みだと思うけど、あたしに解決できる知恵はない。


 なぜなら、これはあたしの、長い、長い初恋の続きだからだ。


(2回目の恋なら、こんな悩みもないのかなぁ……)


 こんな迷ってる姿、配信では見せられなかった。


 しーちゃんの言うとおり配信しないことにしてよかった。


 ……頭のいい、しーちゃん。


 きっとお買い物のときのことも考えていたのだろう。


(うう〜。しーちゃんと比べてあたしは、おっちょこちょいだし、頭もよくないし……。泣きたくなってくる……)


 急に自信がなくなってきた。


(あたしのいいところって、どこなんだろう……?)


 そう考えて、ふと昔のことを思い出した。


 ――こーちゃんと山を走り回った、幼いころの日々。


 そして、あたしの初恋のはじまり。


(そうだ……。あたしの武器って、こーちゃんと楽しんできた時間の積み重ねじゃん……)


 あたしは、こーちゃんと一緒にいろいろなことを楽しんできた。


 小さい頃も。


 そして、今も。


(これからも、こーちゃんと一緒にいたいな……。ずっとずっと……)


 そのためには。


(こーちゃんと同じ速さで、前に進まなくちゃ。こーちゃんと一緒にいられるひとにならなくちゃ)


 告白の勇気が出ないとか言っている場合じゃない。


 もう、こーちゃんに探索者としてのレベルは逆転されちゃったけど。


 あたしは、こーちゃんのパートナーであり続けたい。


(……なら、強くならなくちゃ)


 あたしは、白いワンピースに背を向けて、違うコーナーを見てみることにした。




 ☆★☆【side:月虹(げっこう)のハーミット(宮の原まなみ)】☆★☆



『魔法攻撃力大幅アップ! 魔術師の杖 5000P』


「ほう……」


 我は魔法を強化する道具が欲しい。


【光魔法】と【闇魔法】の出力を上げることができれば、さらなる力を手に入れることができる。


 我の欲しいものは決まっている。


 しかし……。


 我の相棒たる本体、宮の原まなみが脳内で言う。


(ネット受けするもの! または金目のもの! あわよくば遊んで暮らしたい!)


「む、むう……」


 宮の原まなみの強い意向には逆らえない。


 我はふらふらと鉱石コーナーに向かう。


「こんなものは、いらぬ……。いらぬのに……」


 我は望まぬ商品を山のように手に取らされた……。




 ☆★☆【side:夏目光一】☆★☆



『見えない刃で斬れないものが斬れます! ファントムナイフ 4800P ※実体のあるものは斬れません』


『行っけー、カスタム! 戦闘補助用ドローン ビクトリーカスタム 5500P』


『リラックス、疲労回復、迷い・悩みの解決、勉強・特訓効率化の効果あり いやしの風鈴(ふうりん) 5000P』



「うーん……」


 3つの候補から悩んだ結果、俺が選んだのは。


「……これにしよう」


 音色(ねいろ)を聞いた者の肉体・メンタルを整える「いやしの風鈴」だった。


 プライベートダンジョンの「家」に設置すれば、いやし空間が作れる。


 悩んだり疲れたりしたときに、ゆっくりできる場所があるといいなと思ったのだ。


 小さい頃に読んでたホビー漫画に出てきそうなドローンも欲しかったが、そもそも予算オーバーだしな。


「……さて、レジに行くか」


 レジはダンジョン・ホーテの3階にある。


 その奥には21階層につながる下りエスカレーターがあるらしい。


 面白いつくりだ。


「遅くなっちゃったかな……」


 3階のレジ前につくと。


「あ、夏目くん」


「こーちゃん!」


「うぬぬ……」


「お、みんなも選び終わったのか」


 ちょうど幼なじみのみんなも集合しているところだった。


 ハーミット様だけ複雑な顔をしているが、ほかのふたりは晴れやかだ。


「こーちゃんは風鈴にしたの?」


「ああ。プライベートダンジョンの『家』につけようと思ってな。心身のいやし効果があるらしいから。みんなは何を買うんだ? ハーミット様は苦々しい顔をしてるけど……」


「……我はこれだ」


 ハーミット様は、レジカウンターに小さな箱を5つ積み上げた。



『魔石発掘くじ 当たりは本物の蒼精魔石(そうせいませき)!? 1000P』



 ハーミット様が持ってきたのは、付属の小さなつるはしで、石膏(せっこう)から魔石を掘り起こすおもちゃのようなものだった。


「……本当にこれでいいのか?」


「ハーミット様、こういうの、当たらないよ?」


「我もわかっておる……。しかし、我の本体である宮の原まなみが望むのだ……。いわく、『当たれば一生遊んで暮らせる!』。逆らえぬ……」


 聞けば、蒼精魔石(そうせいませき)は流通すらほぼゼロの激レア魔石らしい。


 ……まあ、まなみん本人が望むなら反対はしないが……。


「しーちゃんは何にしたんだ?」


「ふふ、わたしはこれにしたにゃあ」


「にゃあ?」


 しーちゃんが取り出したのは、猫耳のカチューシャだった。


「『猫化のカチューシャ』だって。速さが30上がって、猫みたいな動きができるみたいだよ。ほら、わたしの速度じゃ夏目くんやたまちゃんをサポートもしきれないから……。……あとは魅力度が向上する効果も……」


「へえ……」


 猫耳のしーちゃんか……。


「……かわいいだろうな」


「え? 夏目くん、何か言った?」


「い、いや、なんでもない!」


「そう? ならいいんだけど……ふふ」


 しーちゃんはどことなく嬉しそうだ。


「で、おタマちゃんは何にするんだ?」


「あたしは……これ」


 そう言っておタマちゃんが取り出したのは、白いTシャツと……紺色(こんいろ)の下着のセットか?


 すると、しーちゃんが補足した。


「これ、ブルマだね。昔の体操着。わたしたちの世代はハーフパンツだったけど、少し前はこれでみんな体育の授業とか受けてたらしいよ」


「そうなのか……」


 それはなんとも刺激的である。


 口には出せないけれど。


「『伝説の体操着』って書いてあったよ。装備中は、スキル【身体強化】を少しだけ強化できるみたい。……あとは魅力度が上がる効果……」


「おタマちゃん、それを着てダンジョンに潜るのか?」


 目のやり場に困りそうだ。


 すると、おタマちゃんは手をぱたぱたと振って。


「そ、そうだけど、違うよ! ほかの服の中にインナーで着ようと思ったんだよ!」


「ご、ごめん。そうだよな。変な想像を……」


「こ、こーちゃんがどうしても見たいっていうなら考えるけど……」


「え、あ……ええと……」


「はいはい、夏目くん。お会計しよ。magicalカード出して」


「あ……悪い」


 しーちゃんが俺とおタマちゃんの間に入り、支払いをうながした。


「じゃあ、買ってみるか」


「ぐぬぬ……、我は魔術師の杖が……。くっ……。あらがえぬ……」


 レジには、ダンペンくんが女の子になったようなペンギンがいた。(ダンコちゃんと言うらしい。)


 商品を渡すと、短い手でひとつひとつバーコードを読み取った。


『ピッ! 5000ポイントが1点。ピッ! 1000ポイントが5点……』


「ぐぬぬ……」


 そして、最後に魔法陣のようなものが書かれた小さな機械が差し出された。


 ペンギンはニコニコしながら、短い手で機械を示した。


「ここにカードを当てるのかな……?」


 俺がmagicalカードでタッチすると。


『マジーカルッ』


 謎の会計音が響いた。




 ☆★☆



 そして、俺たちは《ワームホール》を使い、新宿ダンジョンの入口まで戻った。


 エスカレータでダンジョン外に出ると、そこには。


「わ、本当にこーちゃんパーティだ!」


「Aランクパーティ、おめでとうございます!」


「朝、SNSで見ました!」


「ハーミット様っ、サインくださいっ!」


「こーちゃんのサインください!」


「今日はどのフロアまで行ったんですか!? ダンジョン・ホーテですかっ!?」


 大勢の探索者が、俺たちの出待ちをしていた。


「え……。なんでこんなに……」


 そうして俺たちは、自分たちの知名度の高さと東京の探索者人口の多さを改めて知るのであった。

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ブルマ剣聖爆誕まであと…
成程、ハーミット様は女の友情と己(本体)の欲を取ったのか・・
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