第74話 マジカルショッピング①
俺がmagicalカードを見ていると、横から幼なじみたちが覗き込んできた。
「うわ、2万ポイントももらえてる!」
「マイナス実績なかったんだ……」
「ほう、めずらしいボーナスもあるな……」
「みんな詳しいな……」
さすが、ダンジョン配信で人気ナンバーワンエリアなだけある。
「これはいい結果なのか?」
「すごいよ! テンション上がる! お買い物楽しみ!」
「うむ、ほとんどの探索者は7千から1万ポイントの間しか取れておらぬ。2万というのは、かなりの高ポイントと言えよう」
「ダンペンくんからもらえるボーナスの条件はまだ解明しきれてないの。これだけもらえるパーティはほとんどないよ」
「そうなのか……」
みんなの話によると、ほかにも次のような実績があったようだ。
・戦闘時間長期化……マイナス1500
・回復魔法を多用……マイナス500
・パーティメンバーがダウンした……マイナス1000
・20コンボ達成……2000
・最大ダメージがゾロ目……3333
・常連客(5回以上ダンペンくんと戦った)……3000
「ねえねえ、それより早くお店の中いこうよ! 楽しみ過ぎて我慢できない!!」
「……まったく、おタマちゃんは」
すると、ハーミット様が真面目な顔で言った。
「夏目、あらかじめ聞いておく。ひとりあたり5千ポイント目安で買い物するということでよいか?」
「いいんじゃないか。てか、ほかに選択肢あるのか?」
「うん、みんなで1個のものを買うパーティもいるよ? でも……」
「わくわく!」
「……おタマちゃんのこの顔を見たらな。てか、しーちゃんもハーミット様もお買い物を楽しみにしてるんだろ?」
「……やっぱりバレちゃうよね」
「……その問いかけは否めぬ」
「ま、そのために来たんだしな」
答えはひとつだ。
「じゃあ、ひとり5千ポイントでお買い物だ! ダンジョン・ホーテに行こう!」
「わーいっ!」
☆★☆
ダンジョン・ホーテの中に入ると、天井高くまでいろいろな商品が陳列されていた。
かなりの品揃えだ。
店内には、どこかで聞いたことがあるような音楽がかかっていた。
『ダン、ダン、ダン、ダンジョン〜♪ ダンジョン・ホーテ〜♫
お宝ざくざく、魔法のジャングル〜♪(ジャングルだーっ)』
「ふむ、ダンジョン・ホーテのテーマ『Magical Shopping』か……。文字起こししてブログに載せたら、PVが稼げそうだ」
「この歌、タイトルあるのか……」
てか、歌詞にもあったが……。
「こりゃ、たしかにダンジョンというよりジャングルかもな……」
見通しが悪いため、常に視線が目の前の棚に誘導される。
密林の中に踏み入っているようだ。
棚には、独特のフォントで書かれた手書き札がたくさんある。
『もう氷属性は怖くない! 対冷気ジャケット 2500P』
『収納力バツグン! 異空間アイテム収納バッグ(最大容量200リットル) 8000P』
「……なるほど」
ただの服などじゃなく、ダンジョン内で使えるアイテムを売ってるのか。
『効果はないけどかわいい! ダンペンくんぬいぐるみポーチ 2000P』
『驚安! しくじり市! 盾兼リュック 500P』
「これは買い物が楽しみになるのもしょうがないな」
次々に現れる商品に目移りする。
「お、これは……!」
『移動時に赤い粒子エフェクトが発生! スパークルマント 5000P ※特別な効果はありません。』
「かっこよさそうだな……!」
なんの役にも立たないけど、欲しい。
キープ扱いにしとこ。
「うわーっ! かわいい!」
後ろを見ると、幼なじみのみんなも棚をきょろきょろと物色していた。
「本家もびっくりの圧縮陳列だね……」
「こっちもいろいろある! 見てるだけで楽しいね!」
そんな調子で店内を見ていると、おタマちゃんが言った。
「なんだろう、ここ! 黒いのれんがある!」
「あ、たまちゃん待って! わたしも行ってみる!」
「ふむ、では我も……」
3人は黒いのれんで区切られたコーナーに入っていった。
「なんか見たことある雰囲気だな……」
俺も続いて中に入ろうとする。
しかし。
バサッ!
おタマちゃんが、激しい勢いでのれんから飛び出してきた。
ほかのふたりも後ろから続く。
おタマちゃんとしーちゃんは顔が赤い気がする。
「どうしたんだ? 俺も中を見てみたいが……」
「ダメっ、絶対ダメっ!」
「どうしてだよ?」
「ダメなものはダメなのっ! こーちゃんには必要ない! ……あんなの使われたら壊れちゃいそうだし……」
「……違う棚の方は、夏目くんが普通のじゃ満足しなくなりそう……」
「ん? 壊れちゃう? 満足しない? どういうことだ?」
「そ、それは……」
すると、ハーミット様が言った。
「……この先は不良品置き場だ。壊れていたり、満足できない商品しかない。ゆえに、見る価値はない」
「そ、そうだよ、こーちゃん!」
「たぶんお店の人用の場所だよ、あはは……」
「なるほど……」
なら、行く必要はないのかな。
でも、好奇心が芽生えてきた。
「少しだけ、俺も様子を見たいかな」
「こ、この中は……」
「……夏目、ここに我の【闇魔法】で底なし毒沼を作ったから中には入れぬ。気をつけろ」
「そこまでする必要あったか!?」
ハーミット様が魔法を解除するまで入れなくなってしまった。
まったく……。
ちょっと見たかったのに。
「ほ、ほら、こーちゃん、違うところ見ようよ。お菓子とか、家電もあるよ?」
「本家と違って、武器のコーナーもあったり……。楽しみだよねー」
「お、おい……」
俺はふたりに腕をつかまれ、別のコーナーへと連行されていった。
「両手に花」というより捕虜の気分だ。
そうしてついた先は、香水が置いてあるコーナーだった。
「あ、こーちゃん! 香水のテスターあるからつけてみれば?」
「俺、香水使わないんだけど……」
「いいから! ほらほら、シュッって!」
「お、おい……」
おタマちゃんは、俺の手首に香水をかけた。
「まったく……」
手首を鼻に近づけてみる。
なんていうんだろう、異国情緒な香りがする。
嫌いではないが、ずっと嗅いでいると頭が痛くなりそうだ。
「あれ……すごくいい匂いがする。こーちゃん、ちょっと手かして」
「ちょ、ちょっとおタマちゃん……」
「くんくん、くんくん……」
おタマちゃんは俺の手を握って、匂いを嗅いでいる。
「もういいだろ……」
「くんくん……、はぁ……、いいにおい……」
「お、おい……!」
「くんくん、くんくん……。はぁぁ……」
「ねえ、夏目くん、これ、魔フェロモン香水だって。モンスターを惹きつける効果があるみたい。って……たまちゃん、どうしたの?」
「いや、なんかこの香水がいい匂いだとか言って……」
「え……!? な、夏目くん、何色の香水つけたの!?」
「おタマちゃんが持ってきたのは、そこにあるピンクっぽい色のやつだけど……」
「そ、それ! 人用のフェロモン香水だよ! 3分間だけ催淫効果のある……!」
「え……?」
おタマちゃんを見ると、目がとろんとしていた。
むぎゅ!
おタマちゃんは俺の腕に自分の腕をからめて、体を押し付けてくる。
「ちょ、ちょっと……!」
なんだか俺も変な気分になってきた。
頭がぼんやりする。
「ねぇ、こーちゃん……。さっきののれんのところ行こうよ?」
「のれん? 不良品置き場じゃないのか?」
「違うよ。知ってるくせにぃー」
「いや、マジでわからない。それにハーミット様の毒の沼があるんじゃ?」
「沼なんか、あたしの【水使い】とこーちゃんの【水上歩行】のコンボでなんとかなるからぁ」
「それもそうか。じゃあ行こう」
「うん、じゃ、抱っこしてぇ。一緒にえっちなグッズを……」
そのとき、しーちゃんが俺たちの前に来て、青い香水を差し出し……。
「ダ、ダメっ! えっちなのはダメーっ!!」
しゅっ、しゅっ!
その場に吹きつけた。
あれ……?
同じ商品のポップを見ると、次のように書いてあった。
『いつでも賢者タイム。 賢者の香水 800P』
「あれ、俺、何してたんだ……?」
「こ、こーちゃん、ごめん。くっついちゃって……」
「大丈夫だよ。気にしないで。さ、あまり欲しいものもないけど、せっかくだから散歩するか」
「そうだね。無駄遣いはしないようにしようね」
――3分経つまで、俺たちの物欲も回復しなかった。
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本家の歌は、
「MIRACLE SHOPPING〜ドン・キホーテのテーマ〜」田中マイミさん
です!
誤字報告いただいた方、ありがとうございます。気づかずすみません、というものが多いですm(_ _)m
一部諸事情により適用していないものもありますので、お許しください。たしかに!とは思っています。。。
また、イーハトーブ、イーハトーヴォ、イーハトヴなどの表記ブレについては、宮沢賢治自体、一貫していなかったはず。。。