第73話 新宿ダンジョン・ボス戦
新宿ダンジョンの20階層に下りると、急に都会の街並みが広がっていた。
片道3車線の大きな道路が交わる交差点。
立ち並ぶビル。
そして、向かいには「驚安の殿堂 ダンジョン・ホーテ」とデカデカと書かれた建物がある。
「うわ、すごーい! ダンジョン・ホーテじゃん! テンション上がる!! やっと来れた!」
おタマちゃんはぴょこぴょこ跳ねてよろこんでいる。
正直、俺もテンションが上がっていた。
これが新宿ダンジョンのご当地フロアか。
プライベートダンジョンの初回調査のとき、探索者協会の山田さんから話を聞いたなぁ……。
「おい、たま。道路には出るな。ボスが出てくるからな」
「うんっ、りょーかい!」
「ボスはペンギンだろ。どんな技を使ってくるんだ?」
改めてみんなに問いかける。
すると、しーちゃんとハーミット様が答えてくれた。
「じゃあ、みんなで確認しよ。ボスの名前はダンペンくん。ペンギンだけど、得意技は火球だから気をつけてね。技の名前は炎熱火赫と呼ばれてるよ」
「ふ、後は同時に出現する弱体化用のロボットに気をつける必要がある。まずは周りから片付けるべきかもな」
「弱体化か……。ありがとう、ふたりとも。じゃあ、ハーミット様の助言どおり、周りのロボから倒す方針でいいか?」
「異議なーし!」
「よし……」
俺たちは、歩道から交差点に足を踏み入れた。
すると、「ダンジョン・ホーテ」のビルの屋上から丸いなにかが落ちてきた。
ひゅー、ぽよん! ぽよん!
それは、おなかに大きく「ダ」と書いてある赤いペンギンのマスコットだった。
大きさは、ゆるキャラの着ぐるみくらいである。
ペンギンが片手を上げると、ぴょこっ!という効果音が発生して……。
ひゅー、どしん、どしん! どしん、どしん!
4体の白いロボットが空から降ってきて、交差点の四隅に配置された。
それぞれ、白いスピーカーに顔と手足がついたようなデザインをしている。
一瞬、ロボットの目がキラン!と光ると……。
「ぽぽぽぽぽ〜♫ ぽぽぽぽぽ〜♫」
気が抜けるような音楽が流れた。
てか、これ……。
「スーパーの特売コーナーに置いてあるロボットじゃねーか……」
大きさは2メートルくらいあるけどさ!
なんか頭に残る音楽だな〜……。
「夏目、油断するな! 戦闘は始まっているぞ!」
「え……わっ!」
俺がいたところを、大きな火の玉が通り過ぎていった。
「あぶな……」
「夏目くんっ! ステータスだけじゃなくて、緊張感も弱体化されてるから気をつけて!」
「たしかに……」
めちゃくちゃ高性能のロボットである。
「こーちゃん、まかせて! 【水使い】スキル水鉄砲っ!」
ばしゃっ!!
「ピ!?」
バチバチッ!!
ロボットの表面に電気のようなエフェクトが走った。
「おお、効いた!」
水が弱点属性なのだろう。
「たまちゃん、後ろっ!」
「わわっ!」
ペンギンから放たれた火球を、しーちゃんは盾で弾き飛ばした。
どかんっ!
周囲のビルに当たり、激しく爆発する。
その隙に、白いロボットは背中のブースターを使って別の場所に逃げ出していた。
「火球はけっこう威力が高いね……。盾にかなりの魔素をまとわないと、受けきれないかな」
「よし……。虫相撲《むしずもう》・カブト!」
スキルを使い、異空間からカブトムシを呼び出す。
「俺のカブトムシは魔法・物理のバリアを張れる! デバフロボットを倒すまでは、みんなでおタマちゃんを援護しよう!」
「了解!」
「よーし、こーちゃん、まかせて!」
☆★☆
4体のロボットを撃破すると、なぜかダンペンくんはサングラスをかけ、大きなラジカセを背負うようになった。
「炎熱、炎熱、炎熱火赫〜♫」
「うわっ!」
音楽のリズムに合わせて、テンポよく火球が連射される。
ドカン! ドカン! ドカン!
弾幕である。
「宇都宮ダンジョンのボスよりめちゃくちゃ強いな……。って、おっと!」
「さすが都会だね……やっ! こーちゃん、今度はあたしが【水使い】でサポートするよ」
「うむ、我と夏目で攻めるぞ。たまは夏目のサポート、しーは我のサポートを頼めるか?」
「大丈夫だよ、えいっ! わたしとハーミットさんは遠距離担当、夏目くんとたまちゃんは近接戦闘をお願い!」
「わかった。いくぞ、おタマちゃん!」
「りょーかいっ!」
「わたしもいくよっ! ごめんね、せっかくの新宿だけど、岩手県に変えちゃうから! 【童話魔法】《風の又三郎》!」
「お……!」
しーちゃんが魔法を使うと、あたりは草原と山に変化した。
俺は読んだことはないが、宮澤賢治の童話の舞台なのだろう。
「どっどど、どどうど、どどうど、どーっ!」
しーちゃんはノリノリで片手を上げ、謎の呪文を唱えながら、風で火球の進行方向を変えている。
ハーミット様は魔法の発動準備をはじめた。
「たまちゃん、夏目くんのサポートはお願い! 火球の勢いが強いから、風じゃ全部さばききれない!」
「おっけー!」
「夏目、たま、一瞬だけ隙を作ってくれ。我もきやつにとっておきを叩き込む。そうしたら、とどめだ」
「まかせろ!」
ポップなテーマと合わせてバラまかれる火球。
それを。
「やっ、せいっ!」
おタマちゃんは刀で斬り裂きながら、俺をペンギンのところまで先導する。
「よく斬れるな」
「へへ、【水使い】スキルで刀身を濡らして、火属性を打ち消してるんだ。むささめブレードの要領だよ」
「なるほど……」
すごいのはすごいが、相変わらず村雨と間違っている。
定着しているので、訂正するつもりはないが。
「こーちゃん、そろそろ……」
「ああ、わかってる」
ダンペンくんのラジカセから流れる音楽が、リピートのタイミングでいったん途切れる。
火球も同じタイミングで途切れるため、攻撃のチャンスが来るのだ。
「炎熱、炎熱、炎熱火赫〜♫ ジャン!」
「ここだ!」
鞘から剣を引き抜き、ダンペンくんに斬りかかる。
すると、ダンペンくんの頭に「!!」と書かれた札が出現し……。
――ぴょんっ!
コミカルな音を立てながら大ジャンプした。
「あ、逃げられた!」
ダンペンくんは7メートルの高さまで跳んでいる。
「身軽すぎるだろ……」
俺の攻撃にためらいがあったのかもしれないが、かすりもしないとは……。
しかし。
「夏目、でかした。着地のタイミングで我がしかける。続け」
「え、ハーミット様……」
ハーミット様は、漆黒の弓に、光の矢をつがえていた。
光の矢には、蛇のように黒いエネルギーが巻き付いている。
弓の正面には、七色の幾何学模様が複雑に絡みあった魔法陣が浮かんでいる。
「ダメージ前にデバフも入る我の必殺技よ。いくぞ……【光】【闇】魔法併用! 堕天せし暁の星よ、月虹のもとに敵を討て! ルシフェル・ムーンボウっ!!」
ドォゥンッ!
ダンペンくんが着地する瞬間を、ハーミット様が放った光の矢がとらえた。
どかんっ!
コロコロコロ!
ダンペンくんは直撃を受け、後ろに転がっていく。
やがて頭を地面側にして回転が止まり、足をバタバタと動かす。
「夏目、今だ!」
「了解っ!」
ダンペンくんが元の体勢に戻る前にカブトムシを呼び出し、《応援》で全魔素をつぎこんだ。
「これで終わりだっ! 虫相撲・カブト! 聖槍一閃ッ!」
カブトムシは流星となって、ダンペンくんに突撃した。
ドカァァァァァンッッ!!
ダンペンくんは再びコロコロと転がり、ペタンと座り込んだ。
そして……。
『降参』
という札が頭の上に出現した。
「あ……」
瞬間、あたりは元の新宿に戻る。
ダンペンくんの両目はマンガみたいに渦巻状になっており、いつの間にか『あんたの勝ちよ』と書かれた襷をかけていた。
「俺たちが勝ったのか……?」
ダンペンくんに近寄ると……。
ボワン!
ダンペンくんは、1枚のカードに変化した。
「おお!」
拾い上げて、よく見てみる。
表面にはダンペンくんの絵と「magical」という文字が書いてあった。
裏面には、次のような文字が書いてあった。
・基本ポイント……5000
・最大ダメージボーナス……5628
・オールガードボーナス……3000
・弱らせ君を4体撃破……2000
・ダンペンくんを5回転以上ころがした……5000
◎合計……20628ポイント
※次回のポイントチャージ可能時期……180日後
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ドン・キホーテさん、呼び込み君(群馬電機さん)、ごめんなさい!
【補足】
童話魔法 《やまなし》で、あたりを水没させる戦術も取れたのですが、逆にペンギンにはバフになる可能性もあるので避けています。