第72話 【視点変更あり】みんなで新宿ダンジョン探索③
☆★☆【side:思川環】☆★☆
(う〜、こーちゃん。また強くなってる……)
新宿ダンジョン18階層。
あたしたち目の前にミノタウロスが現れたが、こーちゃんは、いつの間にか覚えていた【気配遮断】で背後に回り込み、【空中剣技】で斬りつけていた。
(すごいよ……)
もうすっかり、トップ層と変わらない動きだ。
「ブモオオォォォォ!!」
「おタマちゃん! とどめを頼む!」
「あ、うんっ!」
いけない、こーちゃんに見とれてしまっていた。
あたしは刀の柄を握りしめ、右足で地面を踏み込む。
「いくよ……、水流居合い斬り!!」
シュッ、スパッ!!
横一文字の斬撃は、ミノタウロスの胴体を両断した。
ドサッ!!
ミノタウロスの体は黒い霧となってダンジョンに溶けていく。
「やった!」
「さすがだな、おタマちゃん。かっこよかったよ」
「あ……」
気づけば、こーちゃんがあたしの側に来ていた。
いろんな意味で嬉しくなり、あたしは感情のままにこーちゃんとハイタッチをする。
「いえーいっ!」
パチーンッ!
こーちゃんも嬉しそうに、ハイタッチで返してくれた。
「えへへ……、ナイス連携だったね」
「あ……」
こーちゃんはなぜか照れくさそうに自分の手のひらを見つめてから。
「お、おタマちゃん、ごめん! あそこのクモ捕まえてくる!」
そそくさと部屋のすみに行ってしまった。
あたしは、その場に取り残される。
う〜……。
(こーちゃんはあたしのことを何とも思ってないのかな……? ただの友達なのかな……? あたしはこーちゃんが近くにいるだけで、こんなに嬉しいのに……)
そんなことを考えていると。
ピコーン!
変な音がして、頭の中に声が響いた。
『実績――《ダンジョン内で、特定の対象に一定時間以上片思いをする》を達成。スキル【赤い糸】を取得しました』
「は、はあ!?」
いきなり変なことを言われたせいで、間抜けな声を出してしまった。
「どうしたの、たまちゃん?」
「なんか異常があったのか?」
「う、ううん! なんでもない! なんでもないの、あははー!」
しーちゃんとまなみんから心配されてしまったので、うまくごまかす。
こんなこと、ここでは話せない。
(え、え? 赤い糸……? スキル……? これって、前に覚えた【水使い】とか【レンタル】と同じってこと……?)
状況がつかめないまま、とりあえず試してみる。
(スキル【赤い糸】発動……。これでいいのかな?)
すると。
「あ……!」
あたしの左手の小指から【赤い糸】がスルスルと伸び、虫取りをしているこーちゃんの方へ向かっていった。
「ダ……ダメっ!!」
なんでこーちゃんの方に行くの!?
(今ここでスキルがバレちゃったら、スキルの名前とか説明することになっちゃう! 絶対ごまかしきれない!)
そうして【赤い糸】を消そうとすると。
「……たまたま、さっきから何を騒いでんだ?」
「たまちゃん、状態異常回復する? 何かミノタウロスから攻撃を受けたのかな?」
「え……?」
ふたりとも、あたしの方を見ている。
でも、【赤い糸】については何も言わない。
(え、え……? 見えてないのかな……?)
試しに左手を胸の前まで上げてみる。
【赤い糸】は二人にも完全に見えているはずだが……。
「なんだたまたま、芸能人の結婚会見のマネか? ひとりでイヤらしい妄想でもしてたのか?」
「し、してないよっ!」
「……大丈夫そうだね。もし何か異常があったら言ってね」
「う、うんっ! ありがとう、しーちゃん! あははは……」
(ふたりには見えてないんだ……)
安心した。
(でも、こーちゃんは……?)
《赤い糸》の先では、こーちゃんが虫取り網を振って、クモを捕まえているところだった。
(気づいてないのかな?)
じゃあ、いったいこのスキルは何なんだろう。
ただ糸を出すだけのスキルじゃないだろうけど。
(こーちゃんがあたしのことを好きになってくれるスキルだといいな……。こーちゃんと結婚したいって、神様にもお願いしたし……)
《え、おタマちゃん……? 結婚? 俺と……!?》
「えっ……!」
頭の中にこーちゃんの声が響き、びっくりして【赤い糸】を解除してしまった。
糸は透明になって消えていった。
こーちゃんは部屋の隅から振り返って、あたしを見ている。
「あ……」
心臓がドキドキする。
手のひらに汗がにじむ。
(もしかして、さっきの気持ち……聞かれてたの!?)
【赤い糸】は、もしかしたら遠隔通信系のスキルだったのかもしれない。
「うう〜……」
恥ずかしくて顔が熱くなる。
――告白しちゃったよぉ……。
――こんなタイミングで……。
(間違えちゃった……。うう……)
泣けてくる。
ずっと好きだったのに……。
(ふぇぇぇん……)
涙をこらえながら、こちらにやってくるこーちゃんを見る。
こーちゃんも顔が赤い。
絶対聞かれてたよぅ……。
うつむきながら、こーちゃんからの言葉を待つ。
すると。
「あ、あの……、さっきおタマちゃんが俺に話しかけていたかな……?」
「え……?」
「こーちん、大丈夫か? たまたまは別に何も言ってなかったが……。しいて言うなら、少しひとりで騒いでたくらいだな」
「夏目くんも顔が赤いよ? たまちゃんとふたりで風邪をひいたのかな?」
「あ、いや……、たぶん風邪じゃないと思うんだけど……」
(あれ……、気づいてないの……?)
こーちゃんは【赤い糸】スキルの存在に気がつかなかったようだ。
「あたしも大丈夫かなー、あはは……」
とりあえず、知らないふりをしてごまかした。
「夏目くん、20階層のボス戦行ける? 体調不良なら引き返したほうがいいかも。たまちゃんもだけど……」
「あ、あたしは平気だよ! なんの異常もないし!」
「俺も大丈夫だと思うが……、ごめん、いったん20階層でボスを倒したら帰らせてくれ。幻聴かな……? やたらと鮮明だったけど……」
「けけ、芸能人の結婚会見の話してたからな。たまたまと結婚する妄想でもしてたか? 有名人のこーちゃんさん」
「べ、別に、そんなんじゃ……!」
「だ、だよねー!」
「……ふうん」
しーちゃんはじっとあたしを見た。
なんか、うすうす気づかれているような気がする……。
「まあ、ふたりが大丈夫だって言うのなら、20階層まで行ってみようよ。今日の目標だしね」
「……ああ」
「……うん」
(【赤い糸】スキルのことはナイショにしなくちゃ……。じゃないと、今日の告白が本当のことになっちゃう。告白は、もっとこーちゃんと仲良しになってから、ロマンチックな場所でしないと……)
心のなかでは「好き」とか「結婚したい」とかいくらでも言えるのに、本人に伝えるのはなんて難しいんだろう。
あたしは、ちらりとこーちゃんを見て、はぁ、と溜め息をついた。
そして、あたしたちは次の階層へと向かった。
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【今日捕まえた虫】
図鑑No.26/251
名前:ブラックスパイダー
レア度:0
捕獲スキル:糸(Lv1)→習得済みのためLv2に強化。糸の最大強度アップ)
捕獲経験値:15
ドロップアイテム:魔石(微小)