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第70話 みんなで新宿ダンジョン探索

 5月初めの日曜日。


 俺、おタマちゃん、まなみんの3人は、JR新宿駅の構内にいた。


「あ、こーちゃん。あっちじゃないの?」


「え? ルミナス新宿はこっちだって看板あるけど」


「あっちって書いてあるのもあるよ?」


「は? ルミナス2か所にあるのか?」


「まなみん、わかる?」


「夏休みのはじま〜り〜♪ 楽しいことが待ってるよ、プ・リ・ティア〜♫」


「ちょっとまなみん!! イヤホンとって!! どっちに行けばいいのか一緒に考えてよ!!」


「てめー、たまたま、いいところで……! アタシはな、人が多いところが苦手なんだよ。現実逃避してるからお前らでなんとかしてくれ」


「もう、まなみんは……!」


「あ、大丈夫だ。新宿ダンジョンへの案内を見つけた。ルミナスの『2』の方へ向かえばいいんだ」


「こーちん、さすがだな。ったく、たまたまのせいでプリティアメドレーが途切れちまった」


「まなみんが真面目にやらないからでしょ!」


「……朝顔咲いた〜♪ 笑顔も咲いた〜♪」


「あ、もうプリティアの世界に入ってる! てか、ずっとあたしの服をつまんでると思ったら、目までつぶってるじゃん! 自分で歩く気すらゼロなの!?」


 周囲では、駅を利用する人が四方八方から歩いてくる。


「……新宿駅は魔境だよ」


 広すぎて、どこがどうなっているのかわからない。


 俺にも東京で働いていた時期はあるが、ほとんど埼玉県といっても過言ではない場所にいたし、取引のある会社も上野周辺が多かった。


 山手線の西側は、よくわからないのだ。


「見つけた。たぶんあの出口だ」


「あ! しーちゃんがいる! しーちゃーんっ!」


「う、うお……っ」


 おタマちゃんは、ダンジョン最寄りの駅出口で待っていたしーちゃんを見つけ、駆け寄っていった。


 まなみんはその場に置いてけぼりになった。


「アタシの生命線(ライフライン)が……」


「もうすぐダンジョンに着くから大丈夫だよ。ほら」


「限界だ……。人混みキライ……」


「やっぱり車で来たほうがよかったかな……」


 新宿ダンジョン周辺には、ほとんど駐車場がない。


 車を停めるのは無理だと判断して電車で行くことにしたのだが、まなみんには負担だったらしい。


 ちなみに、新宿ダンジョン付近には、区の探索者協会と運送会社の受付があり、そこでドロップアイテムを売却するか自宅配送するのが常識らしい。


 ダンジョンから手ぶらで帰れるとは、都会は便利だ。


 まあ、それより今はまなみんだ。


「まなみんももう少しだけ頑張ってくれ。しーちゃんもいるから」


「……わかった……」


 まなみんは、俺の服の(すそ)をつかんで、身体(からだ)を密着させてきた。


 シャンプーの甘い匂いがする。


「お、おい……」


「頼む……、助けてくれ……」


「まったく……」


 俺たちの前やダンジョン内では饒舌(じょうぜつ)なのに、それ以外だとてんでダメだ。


 たしかに、まなみんは誰かが面倒を見てやらないといけないのかな……。


「……って、ダメだ」


 まなみんの考えにのまれている。


「こーちん、早くダンジョンの中へ……」


「……はいはい」


 まあ、今はしょうがないな。


 俺はまなみんと寄り添いながら、新宿駅の出口へと向かった。



 ☆★☆



「みんな、今日は東京まで出てきてくれてありがとう!」


 しーちゃんは手を振って俺たちを迎えてくれた。


「ここから外に出れば、新宿ダンジョンはすぐだよ。って……、まなみん、大丈夫?」


「大丈夫だぜ……」


「お、おい……」


 まなみんは俺の服をひっぱり、身体をさらに密着させる。


「ま、まなみんっ! なんでこーちゃんとくっついてるの!? ダメでしょ!」


「けけ……こーちゃんはダメじゃないってよ」


「おい、誤解させるようなことを言わないでくれよ……。まなみんが人混みが怖いって言うからこうしたんだろ? 苦手ならしょうがないと思ったんだよ」


「え、え? 本当なの?」


「たまたまがアタシのことを放り出して、しーちゃんの方に行っちまったからなぁ。こーちんに補助してもらわないと……」


「あーもう、わかったよ! 帰りはあたしが手をつないであげるから! それでいいでしょ!?」


「じゃあ、新宿ダンジョンまでは、このままこーちんと……」


「だめっ! 迷惑だよ!」


 おタマちゃんは、俺とは反対側からまなみんに近づき、まなみんの手を握った。


「ほら、これで大丈夫でしょ!」


「けけ、これで両サイドガード……。安全だぜ」


 まなみんは、俺の腕に自分の腕を絡めてきた。


「お、おい……!」


「あ、まなみん、ダメだってば!!」


「アタシを見捨てるのなら手を振りほどいてくれ、こーちん」


「別に見捨てるわけじゃないんだが、これは……」


 そうこうしていると。


「えーいっ」


 俺の右手が、ぎゅっと誰かに握られた。


「し、しーちゃん?」


「みんなばっかり楽しそうでずるいよ? わたしも仲間に入りたいな」


「仲間はずれにしているわけじゃ……」


「そうなの?」


 しーちゃんの小さな手から体温が伝わってくる。


 言葉が出ない。


 心臓がドキドキする。


「し、しーちゃんもダメだよっ! だ、だって、ほら……! 横に広がってると迷惑になっちゃうから!」


「夏目くんも、そう思う?」


「え……」


 しーちゃんはにこりと笑い、上目遣いで俺に問いかける。


 ダメだ、耐性がなさすぎて頭が働かない。


「あ、ああ……。やめとこう……」


 そう言うのが、せいいっぱいだった。


「……うん、わかったよ」


 しーちゃんはパッと手を離し、俺たちの前に歩く。


 しーちゃんの手の力が残っていて、手のひらが少しだけじんじんとした。


「ほら、みんな。あっちを見て」


 しーちゃんの指の先を見ると、壁に大型モニターがつけられた小さな建物があった。


 モニターには『ダンジョン内の魔素量』や『現在の魔石価格』などが表示されている。


 建物本体はコンクリート打ちっぱなしでできている。


「あれが国内でも屈指(くっし)の深さがあると言われる、新宿ダンジョンの入口だよ」



 ☆★☆



 新宿ダンジョンの入口は、すでに10名くらいが入場待ちをしていた。


 ひとりひとりが探索者免許を装置にかざし、順番に中に入っていく。


「じゃあ、最初は俺から入るぞ」


 幼なじみのみんなが探索者として強いのは知っているが、やはり危険がある場所に行くのは俺が最初じゃないとな。


「夏目くん、よろしくね。階段の下で待っててね」


「ここまで来ればアタシも大丈夫だ」


「まったく、まなみんは……」


「じゃあ、行ってくるぞ」


 カードをかざして建物の中に入る。


 すると中には、上り下りふたつのエスカレーターがあった。


「これがダンジョンゲートなんだな……」


 さすが東京、現代的である。


 エスカレーターに乗って、地下へとおりる。


 地下1階には、駅の通路のような無機質な空間が広がっていた。


 1番か8番だかわからないが、とにかく出口を探したくなる。


「けっこう入り組んでるな……」


 適当に進むと、あっという間に迷ってしまうだろう。


 とりあえず、みんなを待とう。


 少しして。


「こーちゃーんっ!」


 エスカレーターから、おタマちゃんが下りてきた。


「うわ……、ホンモノの駅みたいだね」


「だな。ダンジョンってのはすごいな」


 そう言って、改めてあたりの様子を見回していると。


 ぎゅっ。


「へ……?」


 俺の左手を、握りしめる感触があった。


 左側を見ると、おタマちゃんが真っ赤な顔をして俺の手を握っていた。


「お、おタマちゃん……?」


「だ、だって、しーちゃんだけ、ズルいし……。まなみんも……」


「ズルいって……」


 やっぱりダメだ。


 ドキドキして、思考が働かない。


 そして、俺は誰かれ構わず意識して……。


 ……すこし罪悪感を覚える。


 俺は、自分の心に向き合わないといけないな。


 しばらくして、おタマちゃんは俺から手を離した。


「……今日の探索も、楽しもうね」


「あ、ああ……」


 そうこうしているうちに。


「けけ、月虹(げっこう)のハーミット様になれば怖いものはないぜ」


「みんな、お待たせ。気をつけていこうね」


 チーム秘密基地の4人が集合した。


「く、今日は配信なしか……。せっかくの収益化の機会が……」


「フツーに魔石を換金すればいいじゃん。それに今日の目標は……」


「20階層のダンジョン・ホーテだよね。フロアボスのダンペンくんに与えたダメージに応じて、そのフロアでお買い物ができる電子マネーがもらえるから……」


「最高火力で、ふっ飛ばせばいいんだな」


 目標を確認したところで、


「じゃあ、行くぞ。チーム秘密基地。今日はダンジョン・ホーテでお買い物だ!」


「おー!」


 そして、俺たちは奥に進んでいく。



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ついにルシファーさま光臨か!?
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