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第64話 帰り道とアテンド

「さ、帰るぞ。途中でミスド寄っていっていいか?」


「帰り道だと佐野になるみたいだよ?」


「せっかくだから、福場屋百貨店いきたーい!」


「ふ……、昼食はそこでとるとするか」


 わいわいと騒いでいると。


「ねえ、夏目さん。ちょっといいかな?」


 ファーストペンギンズの男性が話しかけてきた。


「……まだ何か?」


 もう試験も終わったので、用はないが……。


「夏目さん、ルール覚えていますか? 敗者のチームの希望者は、勝者の同意のもと、帰路でAランクパーティ転入試験ができる……と」


「それは、まあ……」


 たとえ負けたとして、ファーストペンギンズに転入する意思は一切なかったけれど。


 すると、ファーストペンギンズの仲間は言った。


「ルールに基づき申し出ます。ボクをチーム秘密基地に入れてください」


「は、はあ?」


 わけがわからない。


 困惑していると、さらに申し出は続いた。


「私も夏目クンのチームに入れてほしいなァ。いろいろとサービスしてあげるから、ネ?」


「ワシも転入を希望する。パーティ運営資金として3億寄附(きふ)させてもらおう」


「え、え? でも、あなたたちは、あの人のパーティなんじゃ……?」


 理解できないまま、柳生を指さす。


 すると。


「あんなヤツ、知ーらないっの。あんな情けない姿さらしたら、もうワリのいい依頼も来ないっしょ」


「それに、あなたがたの話では、あなたがたに封印水晶を使って危害を加えようとしたんでしょう? そんな最低な人間とは一緒にいたくないなァ」


「武人の風上にも置けない男よ……」


「き、貴様ら……!」


 すると、柳生は立ち上がり。


「オレを裏切るのかッ!? それが仲間に対する態度かッ!?」


「仲間?」


 ファーストペンギンズの仲間3人の声がそろった。


「今さらありえねー」


「企業や行政はダーティなイメージを嫌いますしね。柳生と組むメリットは皆無(かいむ)で、マイナスしかないよね?」


「ワシらはファーストペンギンズを抜ける。醜態(しゅうたい)(さら)した貴様と組む価値などないわ」


「ぐ、ぐぐ……!」


 柳生はぷるぷると肩を震わせながら、元パーティの3人を指さした。


伊吹(いぶき)ィ!! 封印水晶は貴様のスキルで生成したものだろう!? 何、オレひとりに責任を押し付けようとしてるんだッ!!」


「……柳生、ボクから水晶を盗んだんでしょ。最低だね。それに、カメラに悪事が映っていたのはアンタでしょ?」


「ハァ!? 貴様が準備したくせに責任から逃げるのか!?」


「柳生、グチグチうるせーよ」


炎城(えんじょう)!! 貴様もだ!! 前に知らないパーティに【幻覚魔法】をかけて遊んで、ケガを負わせただろうが! 人のこと言えるのか!?」


「ハ、ハァ!? 何年前のこと言ってんの!? てか、時効だし!!」


「……ふん、くだらぬ。これ以上、口を開くな。柳生よ」


「熊野田、貴様もだ!! レア素材の提供と引き換えに、株のインサイダー情報をもらってただろ!! 自分だけ逃げられると思ったら大間違いだからな!!」


「なっ――!!」


 ファーストペンギンズはギャアギャアと言い争う。



《あーあ》

《配信してるのに》

《出てくる出てくる》

《同接10万か》

《こりゃもみ消せないな》

《各所への影響デカそう》

《あんなに言い争わなくても……》

《本当に仲悪いんだな》

《イノベーターチャンネルだと楽しそうだったのに》

《演技か》

《演技はうまかったな》

《こーちゃんチームは本当に仲良さそう》

《わかる》

《楽しそう》

《なかよしチーム》



「きゅいーっ!」


 そうこうしているうちに、1階層につながる《ワームホール》ができた。


 なお、魔石などのアイテムはすべて異空間に収納済みである。


「帰ろう、みんな」


「うんっ!」


「ありがとう、夏目くん」


「さらばだ、堕天(だてん)せし同胞(どうほう)たちよ。また満月の夜に会おうぞ」



《おつ!》

《おつ!》

《Aランクおめでとう!!》

《これからの活躍を期待しています》

《楽しかったです》

《続きはイノベーターチャンネルの方で楽しみますwww》

《いまだに配信してるしなwww》

《また炎上ネタ出てくるかな》

《調べることがたくさんwww》

《オレたちの戦いはこれからだ!》

《祭りじゃあ!!》

《こーちゃんチームはお疲れ!》

《ばいばい!》

《ゆっくり休んでね!》

《また配信してください!》



「あ、夏目クン、帰っちゃうし!」


「ボクを置いていかないで!!」


「夏目! ワシは3億……」


「――ごめんなさい、新しいメンバーは募集していないんです。今のみんなで仲良く帰ってきてください」


「待て、【空間転移】ィィ!!」


「さようなら――ファーストペンギンズのみなさん」


 そして、俺たちは《ワームホール》に足を踏み入れた。



 ☆★☆



「き、君たち……」


 宇都宮ダンジョンの外に出ると、しーちゃんの上司が俺たちを待っていた。


「あら、稲葉()()。お疲れさまです」


 ……いや、元上司という方が正しいのだろう。


「お、おめでとう。信じていたよ、君たちなら必ず試練を乗り越えられるって……」


「ふふ、ありがとうございます。試験監督お疲れさまでした」


 しーちゃんは、にこやかに返事をする。


「あ、ああ。改めて月曜日からよろしく……」


「――これから大変ですねぇ。試験監督としての説明責任がありますからね」


「え……?」


「映像でご覧になっていたと思いますが、ファーストペンギンズは実質上解散です。Aランクトップクラスのパーティがなくなるというのは大変なことですよ? 国会議員(センセイ)の中にもお付き合いのある方もいらっしゃいますし、何なら上場企業がらみのスキャンダルもあったようですしね。今ごろ、(はち)の巣をつついたような騒ぎになっているんじゃないでしょうか?」


「あ……、あ……」


「そもそもなぜファーストペンギンズを試験官にしたのか。選ばなければ、こんな結果にならなかったのではないか。偉い人はみーんなそう思ってるんじゃないんでしょうか? ファーストペンギンズの良し悪しとは別にね」


「わ、私は……」


「なかなか経緯の説明が難しいですね。ファーストペンギンズを悪者(わるもの)にすると、これまで付き合いのあったセンセイ方や企業を批判することになるし……。世間に人気のある夏目くんを悪者にするのは論外だし……」


「…………」


「まさか、ファーストペンギンズに夏目くんを融通(ゆうずう)することと引き換えにお金をもらっている人がいたりして……。そんなことしてたら、すべての責任を押しつけられそう……。なーんて、ね。そんな顔をしないでくださいよ? 冗談ですから」


「う、う……」


「きっとそろそろ電話がかかってきますよ。課長か局長か、下手したら事務次官から……」


「さ、笹良橋(ささらばし)さん、どうすれば……?」


「さあ? だって、わたし、まだ昇任辞令(しょうにんじれい)をもらっていませんから、今はあなたの部下です。上司としての責任の取り方、勉強させてもらいますね。あ、ほら、着信ですよ?」


「あ、あ……」


 ブー、ブー、ブー……。


「いこ、夏目くん」


「……いいのか?」


「うん。だって、今日のわたしの仕事は『チーム・秘密基地』のアテンドだから。例によって、どこまでがアテンドなのかは資料に書いていないんだけど、普通は一緒におうちに帰るところまでがアテンドだよね?」


「はは……、そうかもな」


「……下手に聞かないほうがいい話もあるみたいだしね」


 宇都宮ダンジョンの外は、きれいな青空が広がっていた。


 初夏のまぶしい光が辺りを照らしている。


「あ、こーちゃん、見て! おしゃれなカフェがある!」


「あんなのあったんだな。よし! 俺のおごりだ! テイクアウトして、なんか飲みながら行こうぜ!」


「けけ、一番高いやつにしてやるぜ」


「まなみん……、ハーミットのときはプライドあるのに……」


 俺たちの背後からは、しーちゃんの上司の「申し訳ありません」「公平な選考で……」「え!? ペンギンズが配信で私のことを!? いえ、私は裏金(うらがね)なんて!」と言った声が聞こえてきた。


 大変そうだが、ま、俺には直接は関係ない。


 今は考えるときではない。


 ――無能と言われ続けた俺だが、一流の探索者の仲間入りができた。


 しかも、大好きな幼なじみたちと一緒にだ。


 こんな嬉しい気分、素直に味わわないともったいない。


「こーちゃん、ありがと!」


「夏目くん、ごちそうになるね」


「こーちん、サンキュー」


 全員でフラペチーノを飲みながら、俺の車へと歩いていく。


 プライベートダンジョンに戻ったら、あの神社に今度はきちんとお礼をしなくちゃな。


 ここまですべてがうまくいくなんて、これまで生きてきて一度もなかったからな。


 ポケットの中の、ダンジョンプラチナのコインを触りながら、俺はみんなと一緒に過ごせる幸せを()みしめた。


 ――プライベートダンジョンの2階層、できるといいな。

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― 新着の感想 ―
想像してたよりかなり底が浅かったよ、元補佐っち でもまぁペンギン利権はもっと上から絡んでるだろうから匿名の情報源から暴露みたいな形で国民煽って追求してほしいね やり過ぎると権力で脅迫してきそうだけど、…
とても、良いざまぁでスカッとします。
Aランクパーティーっていろいろと影響力ありそうだしねぇ…そりゃ逆らえんわな……。 まぁ、だからといって同情はしませんが!くっそざまぁ!!! 気持ちのいいお話をありがとうございますっ!!!!
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